歴史的環境と緑地ストックを生かした都市再生に関する研究

―芝公園を対象として―

 

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 修士課程 2年

                                       80332524    松波 克洋

 

 

論文要旨

 明治6年の太政官布達により、日本で最初に設置された公園である芝公園は、近代化の歩みの中で土地の細分化が行われ、歴史的建造物や緑地ストックの減少が課題となっている。設置された時、53.6haあった公園面積は、現在では、12.3haとなり、約41.3haの公園面積が失われたことになる。また、公園内の私的土地所有への転換が行なわれたため、東京プリンスホテルや100mを超す東京プリンスパークタワーが建設された。

本 研究では、(1)歴史的環境や緑地ストックがどのように維持され、失われたのかを江戸時代から現代までの都市形成の変遷を整理し、一貫した都市変遷の資料 として作成すること、(2)歴史的資料を用いて土地所有、土地利用、公園面積を考察し、歴史的環境と緑地ストックを抽出すること、(3)歴史的緑地の再生 に向けての提案を行うことを目的としている。

 まず、第1章では研究の背景と目的を整理し、第2章では周辺地域構造の歴史的変遷を把握した。第3章では、芝公園の歴史的変遷を江戸、明治初期、明治後期、復興都市計画期、戦後、昭和後期、平成の7時代に分割し、歴史的資料から考察を行った。また、戦後の土地所有の変化を把握するために公図を用い、土地の細分化の過程、私的土地所有の変遷を追った。第4章では、公園面積、建築配置、土地所有、法制度の歴史的変遷における小括を行い、これらの分析から江戸から継承されてきた公共空間や歴史的ストックを明らかにした。第5章では、歴史的緑地の現況を空間の細分化、管理主体と方法、歴史的ストックの空洞化の観点から問題点と課題の抽出を行った。第6章では、これらの分析に基づき、継承されてきた歴史的環境や緑地ストックを生かした公共空間創出の具体的提案を行った。

 

 

 

 

キーワード

 

1.芝公園 2.公図 3.都市公園 4.土地所有の細分化 5.都市再生

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.研究の対象地

 本研究では、東京都の港区に存在する芝公園を対象とする。芝公園は、明治6 年(1873)の太政官布達によって指定された日本最初の公園である。総合公園として、地域の住民に親しまれているほか、芝公園の中央に存在する増上寺へ の参拝客が多いのが特徴である。現在、園内には、スポーツ施設、図書館があり、災害時には、広域避難所にも指定されている。

 

2.研究の背景

 戦後の急激な都市の成長により、町並みは大きく変化し、都市に存在する緑地は明確なヴィジョンを持たないまま減少の一途をたどった。

 近年、国際化、情報化に伴って、文化や歴史を生かした個性ある都市づくりが必要とされている。しかし、歴史的環境を生かした都市再生手法に関しては十分に議論されていない。

 芝公園は、自然と歴史を併せ持つ現代に残された貴重な都市公園である。歴史的環境、緑地ストックを生かした都市再生を行い、明確な再生手法を提示することが求められている。歴史的環境と緑地ストックを用いた都市再生は、21世紀型の公共空間としての緑地再生手法のモデルになりうると考えている。

 

3.現状と課題

 歴史的変遷、都市形成に関する法制度により、芝公園の公園面積は、著しく減少し、土地所有、土地利用、地権者の形態は大きく変化し、現在では、東京都、港区、民間事業者寺社、個人等、の所有する土地が混在している。民間事業者がまとまった土地を取得したため、昭和39年のホテル建設を皮切りに、徳川秀忠とその側室の霊廟跡に100mを 超える東京プリンスパークタワーが建設途中である。これまでの土地所有、地権者、都市形成に関する制度の変遷を追い、問題点を整理し、今後は、歴史的環 境、緑地ストックの保全、再生、市民を含めた生活環境の改善、財源確保等、総合的な視点からの再生手法の確立が必要とされている。

 

4.研究の目的

以上の背景から次の三点を目的とする。

@公園を対象にして、江戸時代から現代までの都市形成の変遷を整理し、一貫した都市変遷の資料を作成する。

A歴史的変遷を歴史的資料、土地所有、土地利用、公園面積から考察し、歴史的環境と緑地ストックを抽出する。また、どのように維持され、失われたのかを把握し、問題点を明らかにする。

B歴史的環境、緑地ストックを生かした再生に向けての提案を行う。

 

5.研究の方法

本研究は、以下の手順で行う。

第1章:

 本論文の背景、目的、対象地、既往研究による新規性、研究のフローについて述べる。

 また、芝公園の周辺地域構造に関して古地図を用いて、江戸の都市構造、河川・水路、鉄道、道路、緑地の形成の変遷を把握し、特徴を明らかにする。

 

第2章:

  江戸時代から現代までの都市形成の変遷を整理し、一貫した都市形成の資料を作成する。歴史的資料を用いて、芝公園の土地所有、土地利用、公園面積から考察 し、歴史的環境と緑地ストックを抽出する。また、どのように維持され、失われたかを把握する。具体的に土地所有は、公図、地籍図、江戸情報地図から、土地利用は、古住宅地図、公園面積に関しては、東京都公報、公園調書を参考にしてデータを作成する。最後に法制度を含めて芝公園の緑地、土地所有者の変遷から芝公園の構造を明らかにする。

 

第3章

これまで調査した歴史的資料をもとに芝公園内の土地所有の細分化、管理主体と方法、歴史的ストックの空洞化から都市再生に向けての計画の考え方を示す。

 

第4章

歴史的環境、緑地ストック、公共空間の創出、関連主体、財源の確保、それぞれの視点から提案を行います。

 

研究の成果

本 研究では、これまで研究が行われてこなかった歴史的緑地ストックである東京・芝公園を対象に研究を行った。増上寺の成り立ち、芝公園の歴史的変遷を把握 し、自然環境、公園面積、建築配置、土地所有を明らかにすることで、現況の問題点を抽出した。最後に歴史的緑地ストックを生かした再生に関する具体的提案 を行った。

 

本研究の成果は以下の通りである。

 

1.芝公園の地域構造の歴史的変遷を把握することによって地域の特徴を明らかにすることが出来た。

・江戸の都市構造、河川・水路、鉄道、道路、緑地の歴史的変遷を古地図から把握した。

・古地図により、把握した地域構造と文献を照らし合わせることによって、近代化に伴う歴史的資源の減少、引継がれている資産を導き出した。

 

2.芝公園の江戸時代から現代までの都市形成に関する一貫した資料を作成した

・江戸から現在までを江戸、明治初期、明治後期、復興都市計画期、戦後、昭和後期、平成の7時代に区分し、増上寺、芝公園、周辺地域の歴史的変遷を古文書、文献、古地図から明らかにした。

 

3.研究の行われてこなかった公園面積、土地所有の変遷を明らかにした

・公園調書、東京都公報から公園面積の増減、位置、理由をまとめた。

・公図をデータベース化するとともに、私的土地所有への転換を把握した。

・都市形成に関わる法制度を考察し、芝公園に与えた影響を提示した。

 

4.歴史的緑地ストックを生かした再生に向けての提案を行った

・地域ごとの土地所有、実現に向けて関連する主体をまとめた。

・芝公園のグランドデザインを提案した。