2004年度 森泰吉郎記念研究振興基金 報告書

サイコロ型映像デバイスZ-agonの研究開発

z-agon

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 修士課程2年
メディアデザインプログラム 奥出研究室
松本隆史80333256

研究課題

修士研究として、立方体状に構成されたマルチディスプレーによる、マルチメディアデバイス"Z-agon"の研究開発を行っている。Z-agonで扱われるコンテンツは、フチのない六面ディスプレーに表示され、回転させるアクションとそれを制御するアルゴリズムによって、行為と連動した情報の可視化が行われる。ユーザーがエモーショナルに楽しむ行為の中で、情報のサマライズを行い、身体的な動作と視覚的な情報の協調による、新しいユビキタスインターフェイスを研究する。本年度はプロトタイピングによるデバイスのタンジビリティの検証と、ユーザー・コンテキストの調査に基づくネットワークアーキテクチャの確立を目指す。 

活動内容

1, コラボレーション・チーム

松本隆史(政策・メディア研究科 修士課程2年(9月生))
ma22n
上田淳也(環境情報学部 3年)
junya

Z-agonでは、研究開発に当たってインテグレーテッド・デザインというアプローチを取っている。
新しいタイプのメディアを提案するに際して、先端技術を提案・応用した研究としての側面を持つと同時に、ユーザーのニーズを見たす付加価値も持つことによって、社会的意義を持った機能的デザインが成立する。従来型の技術研究では専門性が高い反面、実際のプロダクトと直結しない場合が多い。また一方で、従来のマーケティング主導型の商品開発では、市場のコンテキストやユーザーの認識と整合性を取ろうとするため、イノベーティブな提案が行われにくい。
ここでは、Ubiquitous ComputingやTangible Interfaceという研究領域を持ちつつ、開発までのプロセスをパッケージングされた統合的なデザインとして考慮する。これは、プロダクトの全体像を明らかにし、それぞれの技術の整合性を取る中で新しいインターフェースの機能性を検証するものである。この統合的なデザインを行うために、コラボレーションの手法をとっている。今年度は、プロトタイプの制作よるインターフェースの検証や技術・市場調査などを松本が、映像を用いたコンセプトの検証やユーザー観察を上田が担当した。領域横断的にデザインを行うための、デザイン・マネジメントの実践として、プロジェクトを進めている。

2, 立方体の回転によるタンジブル・インターフェースの提案

立方体の映像表示装置としては、東京大学のMedia cubeや、東芝の画像表示装置特許などいくつかの先行事例がある。これらに代表される立方体映像装置の多くは、立体の認識を助けるための目的として使われている。また、一方で、立方体を用いた入力操作装置としても、Intel ResesarchのiCubeなどいくつかの研究がある。
一方、Z-agonでは、立方体の装置自体をインターフェースの入力装置とすると同時に、情報を表示するディスプレーとして使っている。立方体の形状のマルチディスプレーでは、面と面の関連性を用いてコンテンツ同士の関係性を示し、立方体の回転の軌跡をインターフェースとして利用する。ユーザーは、ルービックキューブを扱うような感覚でZ-agonを操作するが、背後で情報のソーティングが行われているものである。三次元画像コンファレンスでは、このインターフェースをプロトタイプを用いて紹介し、いくつかの想定されるインタラクションのポイントを示した。

interface

projector

論文(ポスター発表):
サイコロ型映像デバイス“Z-agon” −回転インターフェイスによるユーザーインタラクション−」
松本隆史,杉山秀樹,上田淳也,大垣裕美,奥出直人
3次元画像コンファレンス2004, Jun. 2004
[pdf]

3, Z-agon Movieによるコンセプトの提案

Z-agonのデバイスを利用して、どういったユースやコンテンツが可能になるか、プロトタイプを用いたデバイスの検証と平行して、シナリオの記述によるデザインを行っている。Ubicomp 2004で発表したビデオでは、いくつかのシナリオを可視化し具体化することで、シナリオの有効性を示し、同時にモックアップを利用した撮影のプロセスで新たなインタラクションの発見を行った。

プラグインが必要。

ビデオ発表:
"Cubic Display Device“Z-agon”"
Junya Ueda, Takashi Matsumoto, Naohito Okude, Hideki Sugiyama, Hiromi Ogaki
Ubicomp 2004 (Video), Sep. 2004
[pdf]

4, ビデオ調査によるユーザービヘイビアの観察

立方体を用いた自然なインターフェースを発見するために、ユーザービヘイビアの観察を行った。被験者に様々な素材の立方体(サイズはZ-agonが想定している大きさ)を渡し、扱い方を観察した。実際に回転させるというインタラクション以外に、つぶす、角をはじく、投げるなどのユースも観察された。この観察によって、新たなスイッチの配置の可能性や、強度の問題等が明らかになった。

プラグインが必要。

5, マイコンを用いたプロトタイプの製作

実際に立方体の面と面に関連性をもたせ、回転させるアクションによって情報空間を移動するインターフェースを検証するために、マイコンを用いた実機のプロトタイプの製作に入っている。今回は、16×16のマトリクスLEDと、Atmel90S8515マイコンを使ったプロトタイプの製作を行った。サイズは想定している約5cm四方に収まった。
今年度は、オープンリサーチフォーラム2004にプロトタイプを出展した。今後、このプロトタイプをベースに、入出力ポートや インターフェース用のセンサーを追加し、機能の追加と検証を行っていく予定である。また、香港Varitronix社の携帯デバイス用正方形 TFT-LCDなど、より具体的なモジュールの調査も行い、デバイスとしての実現可能性を技術的側面からも検証していく。

Atmel Proto

出展:
オープンリサーチフォーラム2004

6, パリ条約優先権に基づく米国特許への出願

プロジェクトの開始直後に申請した立方体形状表示装置の特許を、海外での論文発表や、研究訪問などに備え、パリ条約に基づく優先権を主張し、米国特許へも出願した。
このデバイスの技術は、学部時の卒業制作にあるとおり、階層構造を利用したインターフェースとしての応用も考慮にいれられている。

特許出願:
慶應義塾大学知的資産センター特許一覧
立方体形状表示装置 特許出願中(日本、US)

7, 米カリフォルニア・シリコンバレーへの研究訪問

2004年度秋学期の6ヶ月間、米カリフォルニア州 Palo AltoのFX Palo Alto Laboratory, Inc.にインターンとして参加した。Interactive Mediaチームで研究を行った。また期間中、スタンフォード大学や、Palo Alto Research Center等も訪問し交流を図った。インターン期間中は、契約上Z-agonとは別のテーマを設定し研究を行ったが、メタレベルでZ-agonと関連性をもったテーマを設定した。インターンの成果は、論文としてまとめて報告する予定である。

インターンシップ:
FX Palo Alto Laboratory, Inc.

8, Webによる情報公開

Z-agon Brand
z-agon.com



以上。