2004年度森泰吉郎記念研究振興基金
研究者育成費報告書
所属:慶應義塾大学大学院 政策・
メディア研究科
修士課程2年 下田 寛典
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1.研究課題名: タイ南部農村開発における仏教の機能研究と民族誌製作
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2.
背景と研究課題
近年、タイの農村開発において、その担い手として、仏教や仏僧が「新たなアクター」として注目されている。
これまでの農村開発研究では、地域的にタイ東北部に限られていた。本研究では、これまでなかなか扱われてこなかった南タイに注目する。
また、これまで人類学的なフィールドワークの成果は、民族誌製作という形で発表されてきたが、多くが研究論文という形で、より多くの多様な読者を想定する
ものではなかった。本研究では、他の分野の研究を志す人々にも向けたれたフィールドワークの成果形式の新しい形を提案する。
本研究では、長期のフィールドワークを通じて、以下の[1]〜
[3]を明らかにし、[4]に示す民族誌の製作を行う。
[1] 農村開発における仏教や仏僧の機能
[2]
仏教と仏僧の農村への介入に対する農村住民の受容態度とそのプロセス
[3] 仏僧と農村住民との関係性
[4] フィールドワークを通じた民族誌(エスノグラフィー)製作
※フィールドワークでは、農村滞在による参与観察を特に重視し、ローカルな視点からの詳細な記述によってローカルイニシアティ
ブに基づく開発の在り方を明らかにする。また、こうした一連の活動によって蓄積されたデータや民族誌をウェブ上に公開し、より多くの研究者にとって開かれ
た情報公開のフォーマットを試みる。
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3.
研究活動
年度は、以下のような研究活
動を行った。
[1] 2004年9月5日〜2005年1月18日まで4ヶ月半に渡って
主に南タイチュンポン県にてフィールドワーク活動を行った。
[2] 具体的には、以下の点についてインタビューなどを通じて調査した。
- 村の民族比率_
【イ】
- 村人の農法と農法の変化について_【ロ】
- 主な農産物とその価格、価格の変遷について_【ハ】
- 村のアシュラム(仏僧の修行場)の農園管理について_【ニ】
- アシュラムの農園が村人に与える影響について_【ホ】
- アシュラムの村の中での役割_【へ】
[3] 期間中2度バンコクに滞在し、関連書籍の収集を行った。特に統計資料を中心に資料収集した。
[4] 期間中1度、タイ東北部ヤソトーン県に滞在し、地元の結婚式に参加し、
村での結婚式について観察した。_【ト】
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4.
成果
村の中には、元々現地に住んでいたタイ民族のほかに、タイ東北部から移住してきたラオ族のほか、バンコクからの移住者、ミャンマーからの出稼ぎ労働者が居
る。全体の世帯数を100%としたとき、ラオ族は11%、バンコクからの移住者は1%、ミャンマー人に関しては正確な世帯数を明らかに出来なかった。
民族ごとに農法が異なるが、タイ民族はこれまで近代農業を中心に行ってきた。ラオ族は、1990年代以降、近代農法による商品作物の栽培と共に、有機農業
を導入し自給作物を作っている。バンコクからの移住者は、有機農業、自然農業を実践している人が多い。ミャンマー人は、タイ族の農園の小作農として働いて
いる。
商品作物として、パーム、コーヒー豆、天然ゴムが多い。特にコーヒー豆は殆ど全世帯において栽培されていた。価格については、パームは1トンあたり
300B、コーヒーは1キロあたり33B〜35Bである。コーヒーは50年前には1キロ100Bで売れたと言う。
村にはアシュラム(仏教の寺ではない)が1つある。そこでは4人の僧が共同生活を送っている。アシュラムでは、農園と果樹園、ガーデン(草花)が栽培され
ており美しい景観をたたえている。ここの農園は、すべてが有機農業で、僧が実際に鋤を振るうなどして管理を行っている。
【ホ】アシュラムの農園が村人に与える
影響について |
ア
シュラムの農園と村人の農法の変化の相関関係についてはこれからさらに調査を進める必要があるが、アシュラムの農園にはしばしば村人が訪れ、農園の様子や
治水のやり方について僧に相談している姿が目に付いた。
火事で家を焼失した家族の受け入れや、葬式後の心のケアなど村人にとってアシュラムが緊急時の拠り所となっていることが分かった。
タイ東北部の村の結婚式では、村を挙げて全員参加による結婚式が行われていた。日本では村が解体されたと言われて久しいが、タイでは村人同士の結びつきは
まだまだ強い。
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5.
反省点と今後の課題
◆
反
省点
[1] 各種データを収集することには成功したが、研究課題に答えるような考察が進んでいない。
[2] データの整理の仕方として、現在の段階では、デジタルデータ化するところまでしか進んでいない。
[3] データの種類として、文字データおよび写真のデータしかない。
◆今後の課題
[1] デジタルデータ化したものを適切な形で視覚化することとそのプラットフォームの設計。
[2] 動画など含めて、データのチャンネルを増やすこと。
[3] 研究課題を絞り込み、それに解を得る形でこれまでの情報を編纂すること。
以上。
2005年2月28日
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