2004年度森基金報告書

高解像度衛星画像による土地被覆変化検出支援手法の開発

 政策・メディア研究科 1年 学籍番号:80425061 田口仁

 学会発表

田口仁,臼田裕一郎,福井弘道,李雲慶,2004,「高解像度衛星画像による土地被覆変化検出支援方法」 日本写真測量学会平成16年次学術講演会発表論文集, pp115-119. 発表論文

 はじめに

 高解像度衛星画像は近年徐々に取得されつつある。また,解像度が数メートルと高いため,ミクセルとなる画素が少なく,高精度に土地被覆状態の把握が可能である。従って,複数の時期の画像が得られると,土地被覆の詳細な変化が把握可能となる。都市域のような小規模な細かい変化が多い地域や,都市化により徐々に自然的土地利用が失われていくような地域に対して,高解像度衛星画像を用いて変化を把握することで,適切な都市内の自然環境,都市拡大のための基礎的なデータとして貢献できると考えられる。従って本研究の目的は,高解像度衛星画像を用いて土地被覆変化を検出する手法を検討することとした。
 これまでに,卒業制作の内容として2000年8月と2002年8月のIKONOSマルチスペクトル画像を利用した,土地被覆変化検出支援手法を検討してきた。今学期は,提案手法に関する研究の発展として,有効性の検証,変化を判別する際の効率化の検討,領域分割の適用可能性の検討を行ったので報告する。

 変化検出支援手法

 本研究では,4バンドのIKONOS画像を情報縮約手法の1つであるTasseled cap変換を行い,第3主成分までを利用して,同一主成分どうしで差分画像を作成し,差分画像を支援情報として変化を判別させることが特徴である。IKONOS画像のTasseled cap変換では,第1主成分がBrightness,第2主成分がGreenness,第3主成分がRed minus Blueである。
 高解像度衛星画像では解像度が高すぎるために,従来の代表的は手法である土地被覆分類では,クラス数の設定やトレーニングデータの代表制や適切性を保つことは困難であると考え,変化を濃淡や色彩で表現できる差分画像の作成し,人間が判断することが最適だと考えた。また,差分画像の作成方法として,同一主成分の2チャンネル画像で主成分分析を行い,大気状態による輝度の違い考慮した,第2主成分画像を差分画像として利用した。最終的には画素値を正と負で分離し,TCT1,2,3をそれぞれR,G,Bに割り当てるように2枚のカラー合成画像(Negative差分画像とPositive差分画像)を作成した。

Fig.1 元画像

Fig.2 差分画像

 差分画像の検証

 カラー合成されて作成された画像は,様々な発色によって表現されている。従って,この発色が何を表現しているのかを検証する必要がある。検証の方法としては,2時期の画像を用いて,目視で変化が起きた場所を領域(ポリゴン)として抽出した。1時期は空中写真を入手し,重ね合わせを可能にするためにオルソ変換を行ったものを使用した。変化のクラスは土壌,植生,人工被覆の3つの状態の変化(つまり6通りの変化)を土地被覆の変化とした。そのポリゴンと2枚の差分画像を重ね合わせ,ポリゴン内の平均値を算出した。

 Fig.3 1999年空中写真
Fig.4 正解データ

 以上の検証から,TCT2は植生の変化,TCT3は土壌の変化を表していることが明らかとなり,2枚の差分画像は,土壌・植生・人工被覆の変化をある程度規則性をもって色で表現されていることが確認され,本手法は有効であると考えられた。

 変化判別表の作成

 次に,以上の検証の結果を基にして,人間が変化クラスの判断を容易とするための変化判別表を作成した。従って,土地被覆の変化を検出するために必要な要件を,「変化のクラス」と「変化とみなす閾値の」とに分けて考えた場合,前者については変化判別表によるアプローチをとることが明確となった。しかし,どの濃淡値で変化とみなすのかという閾値の問題である後者については,閾値の判断を支援するための手法を今後は検討していく必要がある。

Table.1 変化判別表

 領域分割手法の適用可能性

 高解像度衛星画像の場合,地物は複数の画素で構成されている。従って,有意な土地被覆変化は複数の画素で構成されており,このような複数の画素のまとまりを1つの領域としてとらえることが適切であると考えた。このような考え方が近年増えつつあり,その領域ごとに土地被覆分類を行うObject-Oriented Classificationと呼ばれている。本研究では,このアプローチを土地被覆の変化検出支援に応用することを検討した。
 複数の画素を1つの領域として抽出するためには,画像処理の方法の1つである領域分割が有効である。本研究では衛星画像に適用された事例を調査し,適用可能で有効な領域分割手法のリサーチを行った。その結果,衛星画像に特化したソフトウェアやアルゴリズムは5個前後存在していることが判明し,Definiens社のeCognitionが最適であることが判明した。今後はこのソフトウェアを利用して差分画像の領域分割を行い,適切に領域が抽出されているかを検証する必要がある。

Fig.5 領域分割試行結果

 今後の展開

 高解像度衛星画像の撮影範囲はフルシーンで10数キロメートル程度である。都市1つを捉えるには十分な範囲とはいえない。さらに光学センサなため,反復継続して撮影することは難しい。数年に1度で季節が異なる画像の可能性が高く,同一季節で撮影されることは限らない。また,小規模の地物になればなるほど,変化のスピードが速くなるが,撮影頻度を考慮した場合,それに追いついくことは不可能である。従って,ある程度広範囲に撮影が可能となり,高頻度に撮影できる観測体制である必要があると考えられ,手法の検討の意義を見出すのが困難である。
 次に,データのコストがかかるという問題がある。結果的には従来の手法と同じように空中写真を撮影して,判読者によって変化を抽出するというコストと比較し,あまり差がない可能性がある。
 さらに,IKONOSのバンド数は4つのみしか有していない。従来の代表的な衛星センサであるLandsatTMやETM+は7つのバンドを有していた。LandsatTMでTasseled cap変換を行った場合,第3主成分や第4主成分は解釈が明確であったが,IKONOSの場合は第3主成分がRed minus blueとされており解釈の難しい表現である。本研究では土壌の反射特性と解釈したが,それが適切でない場合も十分に考えられる。従って,高精度に変化クラスを推定するためには,多バンド化が不可欠だと考えられる。

 参考文献

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