研究題目:タンジブルなデバイスを用いた高齢者用UIの研究

 

慶應義塾大学 政策・メディア研究科 修士1年 石山 琢子

概要

  最近、高齢者とその孫との会話が少なくなってきている。その背景には高齢者と孫との間に共通の話題や事柄がないためと考えられる。たとえば、孫たちが遊ぶコンピュータ・ゲームは高齢者には身近ではない。また,高齢者は新しいことを覚えることに時間がかかるという問題も存在する。 そこで本研究では高齢者と孫とのコミュニケーションの可能性を広げるためのUIとして想起将棋を提案、実装した。 想起将棋は、多くの高齢者が馴染みの深い将棋を題材とし、孫たちが興味を持ちやすいようにさまざまな視覚的・聴覚的演出を加えている。想起将棋を利用することで、高齢者と孫に共通の話題が生まれ、コミュニケーションが促進されることを期待したい。

研究対象

孫をもつ高齢者。

調査

夏に法政大学原田悦子研究室で行われた実験に参加した。実験はコンビニエンスストアにあるコピー複合機やチケット発券機、駅のきっぷ販売機などのタッチパネルを出来るだけ本物に似せて作り、高齢者と若者にどれほど差が出るかを調べるというものだった。その実験を見ていて、高齢者はボタンに比べれば押した印象が低く、凹凸のないタッチパネルを恐る恐る押すという印象を持った。また、一度まちがったところを何度も繰り返し間違うことが多かった。対して、若者の方はタッチパネルに対しての苦手意識もなく、まちがえることはあったが、もう一度行うと次は間違えなかった。実験はもちろん同じ内容をしてもらったのだが、若者が40分前後で終わるのに対し、高齢者は、最もはやい人でさえ50分ほどかかった。ここからも学習能力の差が現れている。

モックアップ 想起将棋

この調査から、高齢者は学習時間が若年層と比べ、多くかかる事がわかった。高齢者でもPCを扱えるようにはなるとされているが、扱えるようになるまで、多くの時間が高齢者と教える側にかかってしまう。そのため、高齢者にはすでに知っている操作をするだけでよく、TVゲームになれた孫たちもひきつけられるよう、音や色を加えた将棋、想起将棋を提案実装した。

想起将棋:システム

想起将棋システムは,大きく分けて「将棋盤ユニット」と40の「将棋駒」から構成される. 将棋盤ユニットは、将棋盤本体と、複数のRFIDリーダと、プロジェクタ、スピーカ、およびこれらを制御するコンピュータから構成される。将棋駒には、それぞれ独自のIDを持つRFIDタグが内蔵されている。

将棋盤のマスそれぞれ(縦9列×横9列の計81マス)にはRFIDのアンテナが内蔵されており、将棋駒(タグ)の認識位置を識別できる。アンテナは、アナログマルチプレクサを介して、 RFIDリーダに接続される。アナログマルチプレクサの制御は、PICマイコンを用いて行っている。 それぞれのRFIDリーダとPICマイコンは、RS232Cケーブルを介して,コンピュータと接続されている。

 

コンテンツ

想起将棋では背面のプロジェクタから、将棋盤にさまざまなイメージを表示したり、駒の移動にあわせて音響効果を与えたりすることが出来る。 その一例として、将棋を行うフィールドを、さまざまな舞台に変更することが出来る。ユーザは、宇宙や草原、海での戦いといったように、さまざまなシチュエーションやイメージを楽しみながら、将棋を行うことが出来る。ここでは,こうした将棋を行うフィールドを変化させる例として、「宇宙将棋」について紹介する。

「宇宙将棋」

宇宙将棋では、宇宙をフィールドとした戦いをイメージしている。


駒を移動した時の反応

駒が移動されると、RFIDリーダーが駒に添付されたタグを読み取り、歩や飛車等、駒の持つ動きに合わせたイメージをプロジェクタから投影する。たとえば、銀ならば前に3マス、斜め両後ろに、桂馬ならば、2つ前の左右といった具合に、各駒の動くことのできる範囲に、さまざまなイメージを表示する。こうしたフィードバックは、単に将棋を視覚的に楽しく演出するだけではなく、ルールの学習などにも役立つと考えられる。

 

 

先行研究との違い

 RFIDのアンテナを敷き詰めたボードを使った先行研究としては多摩美術大学の楠らの研究がある[3]。しかし楠らのシステムでは上部にプロジェクタを置く、大きなシステムとなり、設置場所が限られてしまっていた。 本システムではプロジェクタを下部に設置することで従来に比べコンパクトになった。

まとめ

高齢者と孫を結ぶコミュニケーションツールとして想起将棋を提案、実装した。今後は対象ユーザーに実際に使ってもらい、ユーザーの声を聞きながら改善していく予定である。

参考文献

[1]Jun Rekimoto et. al: DataTiles: A Modular Platform for Mixed Physical and Graphical Interactions, Proseedings of CHI 2001, pp.269-276 (2001)
[2] 原田悦子: 「使いやすさ」の認知科学―人とモノとの相互作用を考える 共立出版 2003
[3] 楠房子 杉本雅則 橋爪宏達 : 相互作用の促進を目指したグループ学習支援システム インタラクション2000