平成16年度 森基金報告書

時系列DSMを用いた高山の天然林におけるバイオマス変動量の解析

政策・メディア研究科 修士課程2年 石渡佐和子

■研究の概要

 地球温暖化が全世界的なリスクとして認識される現在、それを緩和しうる森林資源に注目が集まっている。2005 年2 月16 日に発効されることが決定した京都議定書では、各国が取り組むべき具体的な二酸化炭素の削減目標が定められ、その対象の一つとして、森林による炭素の吸収量が組み込まれている。京都議定書に準じて吸収量を評価するためには、国際的な審査に耐えうる、透明かつ科学的検証が可能な手法で国内の吸収量を算出する必要があり、わが国では林野庁が中心となって、森林簿をもとに算定手法を検討している。しかし基礎データとなる森林簿には、モニタリング機能が欠如しており、データの更新システムにも限界があることから、時間の経過とともに精度の低下が避けられない状況にある。また、面的な森林情報の整備は、現地調査に膨大な労力・時間・費用が発生するためこれまで困難であるとされてきた。これらの背景を踏まえ、本研究では、吸収量評価に必要な情報である道路開発や農地開発等の伐採活動・皆伐や間伐、択伐などの森林施業の抽出および樹木の成長量を捉えるには、高さ情報の利用が有効であると考え、時系列DSM (Digital Surface Model) による定量的な森林モニタリング手法の開発を行い、その有効性について評価を行った。
 上記の結果二つの知見を得た。第一に、過去に撮影された空中写真を用いて写真測量を行う際、現在取得したLiDAR(Light Detection And Ranging)による測定結果を加えることによって、高精度な時系列のDSM を作成することが可能であることを示した。その精度については、LiDAR データと比較した結果、本手法は、LiDAR に対して±2.5m以内に較差が含まれるピクセルが全体の7 割を占めるという、実用に耐え得る精度を達成していることを示した。
 第二に、この結果を基に、時系列DSM を用いて、伐採活動と森林施業の抽出、および樹高成長量の算出における有効性を評価した。伐採活動・森林施業の抽出では、伐採活動と皆伐については、ほぼ100%に近い割合で抽出することが可能であることが示された。また間伐については、施業のパターンによって抽出率が異なり、択伐に関しては抽出が難しいことが明らかとなった。樹高成長量の算出では、スギ・ヒノキ・広葉樹という3 種類の樹木に関する樹高成長量について、森林の発達段階に応じて成長量に違いが見られるという一般的な認識を、本手法によっても確認することができた。更に、時系列DSM より抽出および算出した施業抽出情報と樹高成長量を用いて、森林簿や収穫表、伐採実態調査データなど、既存のインベントリデータの改善の可能性について検討を行った。その結果、皆伐や伐採については、所有者の届出がなくても施業の抽出が行えるという点で、施業情報が更新できることを示した。ただし間伐については、抽出精度が低いため、今後の課題とした。樹高については、面的に成長量を把握することが出来るため、県下一律ではなく、それぞれ地域の特性に合わせた樹高成長曲線を作成することが可能となり、吸収源評価に必要とされる精度の高い森林情報の取得が可能となることを示した。以上、時系列DSM を用いた森林モニタリング手法の実運用に向けたポテンシャルは明らかとなり、将来、京都議定書の枠組みに対応した森林情報の整備・森林施業活動の抽出・樹高成長量の把握が可能となることが期待できる。

報告書本文(約1MB・PDF形式)