2004年度 森基金活動報告書

 

研究課題名

3DCGキャラクタの手の新たな表現手法の研究と提案」

 

慶應義塾大学 政策・メディア研究科修士課程1年

CIプログラム コンテンツ工学プロジェクト

泉 和宏

 

研究概要

 現在、日本のアニメーションコンテンツは映像クオリティやストーリー構成、キャラクタ表現などあらゆる面で世界から高い評価を受けており、今や日本の主要産業の一つとなっている。しかし、映像クオリティが高いとされている日本のアニメーションにおいても、キャラクタの演技力・表現力に欠く部分がままある。本研究で特に注目しているのはキャラクタの手の動きである。手は「第二の顔」と呼ばれるほど表現における重要なファクターとなる部位であり、演劇などのパフォーミングアーツの分野では研究が進められているにも関わらず、アニメーションの分野では重点を置いて取り上げられることが少ない。本研究はこの点に着目し、3DCG技術とモーションキャプチャリングシステムを併用することで、パフォーミングアーツ分野の要素をアニメーションに取り入れ、アニメーション制作におけるキャラクタの手の演技をより効果的に表現し、制作の効率化を図るための手法を研究・提案するものである。

 

研究成果報告

2004年度春学期プロジェクト活動成果報告書

2004年度秋学期プロジェクト活動成果報告書

 

慶應義塾大学金子満コンピュータアニメーション研究会に所属する学部生が企画したプロジェクトに制作スタッフとして参加しプロダクション工程(主にモデリング・ライティング・アニメーション)に携わった。制作を通じてキャラクタの手のアニメーションをつける際に起こった問題点を挙げる。

 

○ 発生する問題点

 

・指の可動範囲とポリゴンのめり込み

 手の指の動きは、指を揃えたり広げたりする横方向の動きと、指を曲げたり伸ばしたりする縦方向の動きとの組み合わせである。各指の付け根は手のひらを中心に円弧状に並んでいるため、全体での可動範囲はかなり広い。さらに親指は物を掴めるように、他の指とは異なったより自由な動きが可能である。そのためサーフェスモデルのキャラクタの場合ポリゴン同士のめり込みが起こりやすく、特に手を握るような指を揃えて内側に折り曲げる動作の時にそれが顕著であった。また手を握り締めるような動きの場合、手のひらそのものも内側に丸め込むような動きをしなければならないため、既存のボーン構造を使用したモデルでは表現が困難だった。

 

・物体を掴む動作とポリゴンのめり込み

 上記の問題点に関連して、物体を掴むという動作にも問題が発生した。親指と他の指で物体を摘む、球体や棒状のものを握るといった動作である。このような動作の場合、掴んでいるように見せようとする(=物体と手を密着させる)と、掴む物体の形状に合わせて指の動きをそれぞれ制御しなければならず、物体と手とのポリゴンのめり込みが発生しやすかった。

 

・ポーズや感情に伴う自然な手の動き

 人は何か特定の動作をしていない時でも、常に手が動いているということがよくある。そのような何気ない仕草や手の表情を表現することでキャラクタ表現の幅を広げることが出来るのではないかということが本研究での問題提起であるが、一方でこれを実現するためには非常に時間的コストがかかるため何か特別な演出意図が無い限り動かせないというのが現状である。

 

 以上が制作を通じて得られた問題点である。次に既存のパフォーミングアーツ分野ではどのような手の表現方法が用いられているのか調査した。ここでは日本とインドにおける古典民族舞踊を主に取り上げる。

 

○ パフォーミングアーツ分野での事例

 

・型とポジション

 日本舞踊、インド舞踊共に基本となる感情・事象を表す手の型が存在する。日本舞踊での一例を挙げると基本的な手のひらのパターンが6種類、インド舞踊では片手を使った型が28種類、両手を使った型が24種類と非常に多くの型が存在し、またそれぞれが違う意味を持っている。これらの手の表現を顔の表情や動作と組み合わせることでより多彩な表現を可能としている。また、手のポジション(顔の前に手をかざす、腰に手をあてるなど)によってもその意味合いは変化する。

 

・運動と軌跡

 上述した手の型・ポジションは静止状態での手の表現方法の一つである。一方で運動状態の手が描く軌跡による表現もある。手の軌跡を用いた表現はその動きのパターンによって、直線運動・円運動・波動運動・片道運動・往復運動・反転運動の6種類に大きく分けられる。

 

パフォーミングアーツの分野ではこれらの型と軌跡の組み合わせを用いることで、意味を持った手の表現として無数のパターンを生み出している。

 

今後の研究計画

 本年度の研究で得られた問題点・知見を元に、現在進めているパフォーミングアーツ分野での表現方法の研究を独自のカテゴリで分類し再定義した上で、それを3DCGキャラクタへ適応した実証映像コンテンツを制作する予定である。本年度制作したコンテンツとの比較評価も行い、修士論文の執筆に取り掛かる。

 

参考文献

[1]メディアコンテンツの制作

金子満著、財団法人画像情報振興協会、1998.5

[2]CGアニメーションのための手の動きのモデリング

安室喜弘・陳謙・千原国宏、情報処理学会研究報告 グラフィックスとCAD、1999.2

[3]モーションキャプチャリングシステムおよび、キャプチャリングデータを利用したキャラクタ・アニメーション生成における表現の研究と支援トゥールの提案

長嶋裕里香、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 修士論文、2002.3

[4]ディズニーアニメーション 生命を吹き込む魔法 -The Illusion of Life-

徳間書店、2002.4

[5]デジタルアニメマニュアル 2003-2004

デジタルアニメ制作技術研究会編、2004

[6]Inside LightWave 3D

Dan Ablan著、小玉穂実訳、ソフトバンクパブリッシング、2001.9

[7]3Dフォトリアリズム・ツールキット

ビル・フレミング著、下田稔訳、ソフトバンク、1998.11

[8]3Dクリーチャー・ワークショップ

ビル・フレミング著、斎藤康平訳、ソフトバンク、1999.3

[9]テクスチャ教科書

武田哲也著、株式会社ボーンデジタル発行、2004.9

[10]ローポリモデリング −3DゲームのためのCG制作入門

海賊屋著、秀和システム発行、2004.2

[11]Principles 3Dimentional Computer Animation, 3rd edition

MO'rourle、WWNorton、2003