2004年度森基金活動報告書

「セルアニメーションにおける『コマ打ち』の適切な利用条件の解明と

実証制作およびアプリケーションの実装」

 

政策・メディア研究科修士課程

竹内一信 80425087

 

概要

日本のアニメは「コマ打ち」と呼ばれる独特の動きを演出する方法が広く用いられている。

これを適切に用いることで従来のアニメーションでは表現し得ないメリハリの利いた動きを

演出することが可能となる。しかしその制作プロセスは制作者の長年の経験と感性に依存

しており、使用者と質を制限する。本研究はこの現状に着目し、「コマ打ち」の適用条件を

アニメの他の構成要素毎に分析することによって解明する。そして、そこから得られる

アルゴリズムをアプリケーションとして実装し、現場に導入され得る機能とGUIを備える。

 


1. 活動計画

2004年は本研究の「研究準備段階」フェーズと位置づけた。その内容は基礎知識・ヒアリング・

技術向上・コンテンツ分析の4点である。以上の活動によって仮説設定の下地とする計画を立てた。

以下の活動内容はこの計画に沿って進めた。

 

 

 

 

 

 

 


2.      活動内容

2-1.           比較コンテンツ制作

本研究の評価は実証コンテンツをモニタリング調査することによる質の評価と、制作効率の

向上を検証する効率化の評価の2点から行う。その前提として、仮説を導入していない従来の

制作手法で制作された比較対象が必要となる。2004年はその比較対象とするコンテンツを

2作品制作した。

2-1-1.       比較コンテンツ@「ボロット3団」

本企画の概要は以下の通りである。制作は学部荒川大輔・窪田麻里、修士課程

泉和宏・下沢章吾との共同で行った。

作品時間:230

表現形式:3DCGアニメーション

制作期間:2004年度春学期

制作人数:5

本企画では全編「2コマ打ち」による表現を行った。演出上の判断を必要とせず、

機械的に全編同一の「コマ打ち」を行うために、その作業コストは極めて微小

である。かえってレンダリングに要する時間が半減する。しかし作品全体としての

メリハリは無い。3DCG制作初心者にありがちな「ヌルヌルした動き」を軽減する

効果はあるが、演出としての「コマ打ち」とはいえないことが分かった。

(下図)「ボロット3団」スクリーンショット

 

 

 

 

 

 


2-1-2.       比較コンテンツA「少年と猫」

本企画の概要は以下の通りである。制作は学部荒川大輔、修士課程

泉和宏・下沢章吾との共同で行った。

作品時間:230

表現形式:3DCGアニメーション

制作期間:2004年度秋学期

制作人数:4

本企画では「1コマ打ち」と「2コマ打ち」を併用した。しかしその適用基準は

カメラの回りこみなどの技術的制約に基づくものであり、これも演出的意図に

よる判断からの「コマ打ち」には至っていない。また、「1コマ」と「2コマ」

のみでは効果的な動きの見栄え上の変化は起こらなかった。本研究が演出上有効な

手段となるには「3コマ打ち」以上の幅広い「コマ打ち」が求められる。

(下図)「少年と猫」スクリーンショット

 

 

 

 

 

 


2-2.           現状調査

本研究を行う上でアニメ制作現場での「コマ打ち」の使用状態を調査する必要がある。2004年は

プロダクションへのヒアリングと原画・タイムシート資料からの分析を行い、仮説設定の下地とした。

2-2-1.       文献資料調査

タイムシートと原画、そして最終的な映像を照らし合わせることによって実際の

「コマ打ち」使用例とその効果を調査した。その結果以下のことが判明した。

・「コマ打ちは」1カット中で変化しないことが多い

・単位時間当たりの動きの量が大きいほどフルアニメに近い「コマ打ち」を行うことが多い

・演出意図で上記2項目に当てはまらない「コマ打ち」が存在する

・劇場作品でも基本動作(歩く・口パクなど)は「コマ打ち」が基本である

今後も調査資料を行い、より一般性を高める。

2-2-2.       ヒアリング

著者が参加している「デジタルアニメマニュアル」制作でのヒアリングと

同時に本研究のヒアリングを行った。ヒアリング対象プロダクションはフル3D

 によるアニメーションを制作したが、コマ打ちは行わず、全編1コマによる

表現を行った。その理由はモーションキャプチャーを利用して得られた人間の

生の動きを前面に押し出すという演出意図であった。本研究でも「1コマ打ち」の

使用目的を設定する上で参考とする予定である。

3.      2005年度の活動計画

2005年は以上の活動から仮説の設定を行い、「研究実行段階」フェーズに移行する。詳細は

以下の図表どおりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


4.      謝辞

本研究は森泰吉郎記念研究振興基金による支援によって行われた。この場を借りて

謝辞を述べさせて頂く。

5.      参考文献

・「次世代のアニメ制作手法とその支援システムに関する調査・研究・開発」(三上浩司 

慶應義塾大学 政策・メディア研究科 修士論文 2001年)

・「デジタルアニメマニュアル2003-2004」(デジタルアニメ制作技術研究会著・発行 2004年)

・「アニメ作画の仕組み」(尾澤直志 株式会社ワークスコーポレーション 2004年)

・「アニメーターズ・サバイバルキット」(Richard Williams原著 郷司陽子翻訳 グラフィック社

 2004年)

・「作画汗まみれ」(大塚康生 徳間書店 2001年)

・「生命を吹き込む魔法 –The Illusion of Life−」 (Frank ThomasOllie Johnson 徳間書店 2002年)

・「リトル・ニモの野望」(大塚康生 徳間書店 2004年)

・「CG&映像仕組み辞典」(CGWORLD・スマートイメージ ワークスコーポレーション 2003年) 

・「進化するアニメ・ビジネス」(日経BP社 技術研究部 日経BP社 2000年)

・「別冊宝島638号 日本のアニメ」(宝島社 宝島社 2002年)

・「DEADLEAVES原画集」(今石洋之監修 株式会社ティー・オーエンタテインメント2004年)

・「新世紀エヴァンゲリオン原画集第1巻」(庵野秀明監修 株式会社ガイナックス 2000年)

・「新世紀エヴァンゲリオン原画集第2巻」(庵野秀明監修 株式会社ガイナックス 2000年)

「新世紀エヴァンゲリオン原画集第3巻」(庵野秀明監修 株式会社ガイナックス 2001年)

「新世紀エヴァンゲリオン劇場版原画集上巻」(庵野秀明監修 株式会社ガイナックス 2001年)

「新世紀エヴァンゲリオン劇場版原画集下巻」(庵野秀明監修 株式会社ガイナックス 2002年)

・「まほろまてぃっくアニメーション原画集 Vol.1」(まほろまてぃっくアニメーション原画集編集部

 株式会社ガイナックス 2002年)