2004年度森泰吉郎記念研究振興基金 研究助成金報告書

「研究者育成費修士課程・博士課程」

 

研究課題名

シンガポールにおける日本語番組の調査研究

研究代表者氏名

臼    井   昭  子

所属・職名

政策・メディア研究科・修士課程1年

学籍番号

80424264

 

 

Ⅰ 研究の概略

 

Ⅰ-1. 概要

シ ンガポールにおいて、日本語のテレビ・ラジオ番組がどのように放送され、在留邦人並びに現地の国民にどのような影響を与えているかを体系的に把握するた め、現地発日本語ラジオ放送局の運営形態から放送内容、在留邦人と現地国民に与えている影響の他、経営者のインタビューを交えた実態調査を行う。

 

Ⅰ-2. 目的・意義

日 本語放送は受信機器を備えれば世界中のどこでも視聴が可能な時代となった。また日本国外、現地発の日本語放送局もあり、日本語放送が世界各地で視聴される 機会は確実に増えている。日本語テレビ番組の輸出は、アニメを中心に20年で十倍の伸びを見せており、音楽番組やテレビドラマの人気も周知の通りである。 ブロードバンド、光ファイバーの通信技術とデジタル放送技術によって、放送コンテンツの国境は益々なくなり、視聴者の多種多様なニーズに応える放送とその 国際展開のビジネスモデル構築の意義は高まっている。

先 述したような現地発の日本語放送は、インターネット放送の規模も含めると、自由に開局できる特性上正確な局数の把握は困難であるが増加傾向である。こうし た現地発日本語放送は、在留邦人向けと現地国民向け情報発信の二つの使命を持っており、日本の文化を現地居住者に伝えるという役割も担っている。

海 外における現地発日本語放送の放送形態や影響力を現地で調査し、その相関関係を分析する本研究は、日本語放送やコンテンツ産業の国際展開の実例として有益 なデータであり、どのような日本語放送が海外で求められているかを認識し、海外の視聴者も意識したコンテンツ制作を展開していく上で、今後の日本コンテン ツ産業の発展に寄与するものと思われる。

 

Ⅰ-3. これまでの経緯

シンガポールの日本語ラジオ放送局は6年前に開局し、在留邦人向けに情報を提供している他、現地の若者に見られる日本のポップカルチャー人気(ジャパナイゼーション)に少なからず影響を及ぼしている。

COMM Pte.Ltd.社は1998年10月12日に日本語ラジオ放送局「ハローシンガポールFM96.3」をシンガポールに開局した。海外日本語ラジオ放送局の放送時間は、ロスアンゼルスの「Bridge」が平日1時間、ニュージーランドの「Japs Downunder Talk Show」は毎週日曜15分のみの番組で、比較すると、開局時に1日5時間40分の放送枠を持っていたFM96.3は異例であり、当時の在留邦人にとっても初の日本語ラジオ放送ということで大きな期待が寄せられていた。そのFM96.3が、開局3年目に「英語80%日本語20%」のシンガポール人向け深夜番組に取り組んだ理由は、シンガポールのジャパナイぜーション市場でビジネス収益を見込んだためである。リスナーの実態は、J-popを聞きたい・日本語を学びたいという若者で、番組の呼びかけで開催したJ-popイベントには約1万 人もの集客数を数えるものもあった。しかし番組が短命で終わったのは、海外日本語放送の運営資金調達の難しさによるもので、またジャパナイゼーションの陰 り、メディアの多様化など様々な理由があると思われる。シンガポールにおける現地発日本語放送の存在理由は、対在留邦人向けの他、日本に向けて現地ならで はの詳細な情報を伝える役割に傾きつつある。

 

Ⅰ-4. 研究方法の計画 

開局に至った経緯と運営の実態。番組内容と放送形態の変遷。対在留邦人向け、対現地国民向けにどんな放送をし、どんな影響を与えたかなどを、シンガポールでの現地調査、データ収集、取材活動で進める。

(Ⅰ)現地発日本語ラジオ放送局が開局した経緯―発起団体、許可申請、放送技術習得、雇用の確保などを調査。

(Ⅱ) 運営の実態―資本金等・収支など経営状況、制作能力、技術能力、機器仕様、運営維持経費などを調査。

(Ⅲ) 番組内容と放送形態の変遷―放送局のコンセプト、番組内容、出演者の特色、放送時間の変遷、徴収率調査の実状。

(Ⅳ) 対在留邦人とラジオ放送

①日系企業数と日本人数の変遷、就労者とその家族の生活スタイルの中での日本語ラジオの存在。

②在留邦人の特色にあわせた、具体的な放送内容と取り組み、その反応。

(Ⅴ) 対現地国民とラジオ放送

①シンガポールにおけるJ-pop人気の具体例、FM96.3の認知度。

J-popステーションとしての取り組み、その反応、他局でのJ-popオンエア頻度。

(Ⅵ) 最後に、在留邦人と現地発日本語放送の関係、ジャパナイゼーションとFM96.3との相関関係を分析、現地発日本語放送の存在理由、求められる放送は何か、運営は成り立つのかを検証する。

 

 

Ⅱ  研究報告

 

はじめに

 現地での取材活動は2004年8月17日から約10日間かけて行った。FM96.3を運営するCOMM Pte. Ltd.(コムプライベートリミテッド社:以下COMM)に保管されている資料とCOMMの出版部門が発行している月刊誌J-plusの記事を丹念に調べた他、放送に携わるスタッフには聞き取り調査に協力を頂いた。限られたスタッフ数で運営しているため保管されている資料は整理されている形とは言えず、特に、開局した1998年の10月から2001年末までのデータが不足しており、正確な数字を把握できなかった部分もある。膨大な資料を分析する作業は一人では限界があったことも予め理解頂きたい。現地のCDショップや日本のスタイルを真似たショッピングモールなどには直接足を運んで、客や販売スタッフに取材を行った。また現地取材のほかには、在シンガポール日本大使館、JETROシンガポール、JCCI日本商工会議所、現地のメディアを統括しているメディアコープ、日本人幼稚園、日本人小・中学校から資料調達と電話取材などを行った。

 本取材活動はFM96.3に 特化するものである。海外における現地発日本語ラジオ放送の運営実態に関する詳細をまとめた例はこれまでほとんど無かったと思われる。海外放送局の制作現 場は、必要最小限のスタッフ数で日々の放送にあたるため記録する余裕が無かったことは、ある意味で運営の実情を物語っている。そうした意味でもこれまでに ない記録(ケーススタディの資料)となるよう努めた。

 

研究報告 A4/25枚(PDF)

【シンガポールの日本語ラジオ放送局  FM96.3 Hello Singapore~開局6年のあゆみと今後の展望~】