2004年度 森泰吉郎記念研究振興基金 研究成果報告書
政策・メディア研究科 修士1年
齊藤綾子
研究テーマ「住まいと基盤とした生活コミュニティ〜コレクティブハウジングを例として」
本研究の第1の目的は、北欧で発展した「独立した個人でありながら他人と連帯して生きる・住まう」形である「コレクティブハウジング」という住まい方の、ハウス内での人間関係構築のプロセス、定例会を通したルール作りなど、営まれている「生活コミュニティ」の実際を、フィールドを通して調査し、また他の共同生活の形との相違点を整理した上でどのような運営方法、またどのアクターが運営主体となるのが効果的であるのかを模索するものである。
第2の目的は、日常生活を共有するコミュニティを「生活コミュニティ」としたとき、その中でも中心部分といえる「居住空間」と「日常生活」を、切迫した必然性によるものではなく、理念で連体し共有する「コレクティブハウジング」とは日本においてはどのような意識から成り立っているのかということである。コレクティブハウスの居住者はコミュニティに関わることが大前提であり、共有テーマでもある。個室は完全に独立し、ルールによる縛りもそれほどきついものではなく関わり方の自由と違いは認められているとはいうものの、コミュニティは個人に密着し、その人の生き方・日常生活や思想に大きな影響を与え、物理的にも精神的にもリスクが大きい。居住場所を拠点としたコミュニティと関わることでどのように住まいへの、コミュニティへの意識が変化し、コミュニティにかかわる中でどのようにアイデンティティ形成がなされていくのか。コレクティブハウジングという住まい方をその機能だけではなく、人々がコレクティブハウスという空間の中でどう自分を位置付け、利用し、評価し、生活を通じてどのように「自分」を形作っていくのか生き方のひとつのデザイン例としてのコレクティブハウジングを取り上げ、活動の中で居住者及びサポート会員がどのようにアイデンティティ形成をしているのか調査を行う。
調査内容
荒川区日暮里 コミュニテイハウス内 コレクティブハウス「かんかん森」への参与調査
かんかん森: コモンミール(居住者提供の共同の食事)が定期的に行われ、また月1回の定例会で、システムの見直し、自分達のペースにあわせてルールが変えられるという日本初の北欧式の「本格的」なコレクティブハウスだと位置付けられることから対象とする。2005年2月時点において28戸中27戸(仮契約者を含む)が住まい、1戸が生活科学運営の事務所として賃貸されている。研究者自身は参与観察を2002年7月から行い、2003年2月から現在までサポート会員として定例会・コモンミールなどの活動に加わっている。研究では「かんかん森」を中心にいくつかの事例を比較検討する。
・比較対象
・シェアードハウス 「松陰コモンズ」
「かんかん森」をコーディネートしているNPOのプロジェクトであり理念は共有しているが居住のスタイルが違うもの。
・ 阪神大震災後のコレクティブハウス「真野ふれあい住宅」ほか10軒
名称はコレクティブハウスだが、設立の経緯の違い、構成年齢層の違いにより特殊である。
・アメリカカリフォルニア州バークレーのコウハウス(これから調査予定)
バークレーの戸建住宅規模のコウハウス。
研究手法とスケジュール
・方法
かんかん森:定例会・各種ワークショップ・コモンミールでの参与観察、(個別インタビュー、)インターネット上の発言、会話やこれまでの議事録分析。
その他の共同住宅:インタビュー・アンケート調査
調査の中心のポイント
・ 「コレクティブハウジング」という言葉を知っているか
・ 住まうきっかけ・動機をどのように語るか
・ 住まいへの満足度
・ 主体・運営方法
研究状況〜
今学期は、引き続きかんかん森への調査を行うと共に、3月下旬に予定している、バークレーのコウハウジング見学に向けての準備を行った。主に文献、HPでの予備調査をかんかん森の調査と平行して行っている。
・ ヒアリングより得られたポイント(主なもののみ抽出)
かんかん森
「事業化は無理」
→入居者が事業の中心となるのに流動的で、また自主性が重視されるためコントロールが効きにくい。年月がかかるので(かんかん森は組織立ち上げから入居まで4年かかっている)住まいの選択肢として気軽に選べるようには至っていない。
阪神震災復興住宅
「日本には合わない」
→食のバリエーションが他国に比べて多く、また人間関係が反映されるため食の共有は難しい、とくに高齢者には交流できるスペースがあるというだけで十分(「ふれあい住宅」より 聞き取り)
住まいの合理化(食事を共有する・共同購入を行う)よりも、挨拶ができる、話したいときに人がいる、安心感があるというメンタルな部分での価値がより大きいのではないだろうか
→コレクティブハウジング(コウハウジング)という名前はそのままであるが、日本独自の新しい形になるのではないだろうか
・食事運営などの合理化よりも人間関係重視
・入居する人はもっと限られる
以上の点により、海外の事例を調査した上で「日本タイプ」というものがあるならばそれはどのようなものか細かくつめていくのが今後の課題である。
・ バークレーコウハウジング
コウハウジング社という会社が出来、大きな組織として運営されている。
住人に運営させるノウハウが強固に管理されている。
根本に流れている思想はどのようなものか
制度化・教育の仕組みを調査する
・ 今後のスケジュール
3月下旬 カリフォルニア州・バークレーコウハウス見学
4月 見学で得られた情報を素に、「日本における」コレクティブハウスの実際という視点でまとめる
5月〜 追加のヒアリングを行う、対象はかんかん森、日本のNPOコレクテイブハウジング社・コウハウジング社のメンバーなど
・参考文献
日本の住宅事情 第2次改訂版 建設省住宅局住宅政策課 監修 株式会社ぎょうせい
住居・住生活論 尾上孝一 理工学社
新住居学概論 石堂正三郎 中根芳一 渇サ学同人
住まい方の思想 私の場をいかに作るか 渡辺武信 中公新書
明日の住宅政策 住まいの平等化へ デイビッド・ドニソン/クレア・アンガーソン
ドメス出版
「日本における集合住宅計画の変遷」 放送大学教育 高田光雄
「ハウジングは鍋もののように―集住体デザイン」 丸善株式会社 延藤安弘
コレクティブハウジングの勧め 丸善株式会社 小谷部育子
コーポラティブ・ハウジング 鹿島出版会 延藤安弘 他
シングル単位の社会論 世界思想社 伊田広行
老後は仲間と暮らしたい グループリビングのすすめ 角川書店 早川裕子・GLネット
21世紀家族へ 有斐閣選書 落合恵美子
近代家族の成立と終焉 岩波書店 上野千鶴子
家族を容れるハコ 家族を超えるハコ 平凡社 上野千鶴子
ネットワーク組織論 岩波書店 今井賢一 金子郁容
コレクティブハウジングただいま奮闘中 学芸出版社 石東直子+コレクティブハウジング事業推進応援団
コウハウジング 風土社 コウハウジング研究会+チャールズ・デュレ/キャサリン・マッカマン
豊かな住生活を考える 第3版 彰国社 小澤紀美子編
住まいの100年 ドメス出版 日本生活学会編
CHC通信 各号
ALCC NEWSLETTER 各号
かんかん森ホームページ http://www.chc.or.jp/project/kankanmori
CHCホームページ http://www.chc.or.jp
ALCCホームページ http://www.alcc.or.jp
コウハウジングパートナーズホームページ http://cohousing.jp/