2004年度森基金報告書
政策・メディア研究科 修士課程二年 広川幸花
学籍番号:80333228
研究タイトル「タイ東北部における持続的農業の可能性」
1.研究の概要
本研究は、タイ東北部の事例を通じて、農村に暮らす人々の生活安定化戦略として、複合農業の導入がどのように寄与するかを検討することを目的としている。
2.研究の背景と問題意識
国家主導の経済開発により、近年の農村地域の農業経営の環境は著しく変化した。タイでは1961年から国家経済社会開発計画(タイ政府による国家の経済成長を基盤として5年ごとに計画される社会の開発)が策定されている。1970年代には輸出指向型経済になり、開発政策の一環として近代農業が導入された。産業間・地域間の格差は拡大し、農村共同体にも様々な影響を及ぼした。その中でもタイ東北部は、伐採による森林面積の急速な減少に加えて、地力収奪型畑作と乾燥地域の拡大とにより、耕地の荒廃化が一段と進んだ地域であるといわれる。その中にあって、近代農業が機能する条件が整っていない小規模農業経営の村民(小作農・貧農含む)はどのように変化に対応したのか。複合農業( integrated/mixed agriculture)の導入が生活安定化の手段としてどのように機能しているのかを検討する。
3.調査
調査の目的
複合農業がどのように村民の生活の安定に影響しているのかを、東北タイの三つの村を事例に比較調査する。
調査対象地、調査時期
調査時期 |
第一回調査:2004年2月26日〜3月12日(15日間) 第二回調査:2004年8月16 日〜9月14日(29日間) |
調査手法 |
聞き取り調査 |
調査拠点 |
タイ王国 コンケン国立大学 |
対象地域 |
タイ東北部コンケン県農村部 ブンチン村 ノンウェンナンバオ村 ノンプリ村 |
注)村の選定については、コンケン大学農学部のチャイチャン・ウォンサムン教授に協力して頂いた。
対象地域の選定理由
研究対象地域の選定理由につい て述べる。タイ国の中から、東北部という地方を選んだのは、次の二つの理由からである。@東北部はタイ全国の中で最も所得の低い地域であり、開発の弊害が
顕著な地域である、A東北部には持続的農業に取り組む農民グループやNGOが多数活動している。
春に行った予備調査の段階では、コンケン県ポン郡ノンプリ村を選定した。その理由は次の4つの条件からである。@コンケン県にある100世帯規模の農村であること、コンケン市内から車で1時間程度、A村民の多くが農業に従事していること、B近代農業から持続的農業に転換した経験をもつ農民が多数いること、C持続的農業を試みる村民同士のグループやネットワークが複数存在すること。
今回の調査では、比較のため、ノンプリ村に加えて二つの村を調査対象に加えた。どちらも複合農業への取り組みが行われているという共通点があり、コンケン都市や市場へのアクセス環境が異なっている。
調査手法
本調査の位置づけ・・・修士論文執筆にあたって一次データの収集
調査手法・・・質問項目票を用いた聞き取り調査
質問項目票の内容
質問項目票は、基本項目(性別、年齢、職歴、学歴、出身、家族構成、家族の所在、所得)を共通として、聞き取りの対象者別に質問をつくった。対象となる人々は、農業を営む村人、村長、住民組織のリーダーとメンバーである。
村のキーパーソンからは、村の詳細な情報(村の地図、近郊都市からの距離、地形、田畑や森林面積、世帯数、村の略歴、村の主な生業、村人の平均収入、村の住民組織の情報など)を得ることができた。村人に対しては、農業経営の状況や個人史、生産手段・生計維持に関して聞き取りをした。
調査結果
対象者 |
村人、各村長、村の有力者、住民組織 第一回調査:村長1人、村民12人 第二回調査:村民16人、村長2人、組織長6人 ⇒延べ37人に、2時間の個別インタビュー |
インタビュー内容 |
基礎情報 生活実態(経済生活、農業経営、社会関係) |
■対象者の内訳
村名 |
所得層 (※1) |
近代農法 |
環境保全型農法 |
その他の生計手段 |
計 |
ブンチン村 |
高 |
2 |
1 |
|
3 |
中 |
4 |
|
|
4 |
|
低 |
|
|
|
|
|
ノンウェンナンバオ村 |
高 |
|
1 |
|
1 |
中 |
|
|
|
|
|
低 |
|
1 |
2 |
3 |
|
ノンプリ村(夏調査) |
高 |
1 |
|
|
1 |
中 |
1 |
|
|
1 |
|
低 |
1 |
1 |
1 |
3 |
|
ノンプリ村(春調査) |
高 |
2 |
6 |
|
8 |
中 |
1 |
3 |
|
4 |
|
低 |
|
1 |
|
1 |
|
合計 |
|
12 |
14 |
3 |
29 |
※1 高中低の分け方…ノンウェンナンバオ村の最低生活基準が年収22,000Bだったことから、年収3万B以下を「低」。10万B以上を「高」と設定。
上記のように、一次資料として、延べ37人にインタビューをし、村長・組織長を除くと29人分のデータを収集することができた。また、ノンウェン・ナンバオが所属するタンボンの政策文書と、ブンチン村の村長の政策文書2004年度版を入手した。これらのデータを用いて、今後の分析につなげていく。
5.資金の使途
計画書作成の段階では、森基金から提供される資金をフィールドワークの旅費に用いる予定であった。しかし政策COEから旅費が提供されたため、森基金から提供された資金は、先行研究にあたる文献の購入や、フィールドワーク先でラップトップのデータの保存に使うUSBメモリーなどの購入に充てた。