研究発表要旨

「 外国人の観光情報ニーズから見た観光メディアのあり方に関する考察  

- ガイドブックとインターネットを主体に -      」

 

           慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科  山谷 舞子  

 

外 国人ビジターの数は年々増加傾向にあり、同時に、若年層やリピーター、長期滞在者の増加など、外国人ビジターの多様化が進んでいる中、外国人受け入れの為 の様々な対策のうちの一つに、分かり易く的確な情報サービスの強化が重要であるといえる。しかし、従来の一括的な情報提供サービスではなく、国籍や年齢、 日本訪日回数など外国人ビジターの属性や日本経験値にあったサービスを提供していく必要がある。彼らがどのように観光情報を収集していて、どのような観光 情報ニーズがあるのかなど今現在明らかにされてない。よって、本研究では彼らに直接、接し自らデーターを集めることによって彼らのニーズを把握して、外国 人向けの観光メディアのあり方を考察した。

外国人観光客を対象に事前アンケート(標本数:98人)を実施したところ、観光情報メディアとしてガイドブックとインターネットが多く使われていることが判り、本研究では、この両メディアに焦点を当て進めた。

まず、ガイドブックとインターネットの現状分析を行い、次に短期滞在外国人へのアンケート調査を浅草を中心に実施した。ここで標本数251人を集め、有効回答数221件 のデータを集めることが出来た。観光メディアとして、旅行計画中(自国で)では、インターネットの利用率が高く、旅行中(日本で)ではガイドブックの利用 率が高くなり、利用するメディアは多岐で補完しあって情報を収集していることが判った。また、ガイドブックとインターネットから得た有効な情報を聞いた結 果、両メディアから取得する情報には、大きな重なりがあるが、ガイドブックは更新頻度の遅い情報が、インターネットでは更新頻度の早い情報を得る為に利用 される傾向があり、この特性を生かし情報提供していくことが望ましい。

次に属性と日本経験値別に利用した観光メディアを分析したところ、60歳代は、ガイドブックを利用して旅行計画をたてる人が多く、他の世代よりもインターネットの利用率が低い。2030代 は、ガイドブックとインターネットを主に、多岐に観光メディアを利用している。国籍別でみると、アジア人は団体旅行者が多いため、観光メディアの利用が低 くなっている。日本での滞在日数が短ければガイドブックに頼る人が高く、長くなるとインターネットや友達・親戚・同僚を利用する人が増えている。また、来 訪日数が少ないとガイドブックの利用率が高くなっている。日本語ができない人も同じくインターネットよりもガイドブックに頼る人が高くなっている。

よ り必要とされている情報についての調査では、ニーズが高かったものとして観光施設に関する英語での詳細な説明やお勧めの観光施設について、食事に関して は、英語でのメニュー表示、エンターティメント・イベント情報では、エンターティメントの紹介、開催場所・時間等の情報やチケットの予約販売情報が、交通 に関しては詳細で分かり易い地図、交通機関の使い方の説明、英語での駅や道の標識が挙げられている。

こ れに関してビジターの属性と日本経験値からニーズを分析してみると、滞在日数が短いと交通や食事など基本情報のニーズが高いが、日数が長くなると、宿泊施 設やエンターティメント情報などのニーズが高くなっている。同様に日本語能力別では、できない人は、交通機関や食事など語学によって弊害のあるもののニー ズが高く、日本語ができる場合は、エンターテイメント情報などプラスアルファの情報のニーズが高い。日本語ができてもエンターテイメント情報は外国人に伝 わり難くなっていることがデータから読み取れる。国籍別にみていると、全般的に短期滞在外国人にとって観光施設での詳細な説明、食事のメニュー、エンター テイメント情報、交通機関に関する情報の強化が必要であることがいえる。多言語での表示、施設案内版、公共物の表示の改善も含めて外国人ビジターの利用も 考慮した情報提供が必要である。

更に、分析の結果から短期滞在外国人を情報入手能力別に3つのタイプに分けることができた。タイプ1として、情報入手が限定されたものであり、例えば日本経験が少ない観光客、アジア人や60代のビジターが挙げられる。彼らには食事や交通機関の説明など基本的な情報などを入手が容易な紙媒体で提供していく必要がある。

タイプ2として様々な方法で情報ハンディを乗り越えるものであり、例えば2030代のビジターや少数派国籍のビジターがあてはまる。彼らには、詳細な交通機関の地図やエンターテイメント情報をガイドブックやインターネットでの幅広い情報提供が必要であるといえる。

最後にタイプ3として情報入手が比較的容易なグループであり、アメリカ人、ヨーロッパ人や日本経験が豊富なビジターが含まれる。彼らには、要望にあった宿泊施設情報やイベントなどプラスアルファの情報が必要であり、ガイドブックの利用率は比較的少ないといえる。

次に、長期滞在外国人を対象に仮想スケジューリングシミュレーションを行った。この調査では1人約30分程度の個人面接の中で、浅草周辺の1日 観光をガイドブックとインターネットを利用して計画をたててもらい、観光メディアの評価をしてもらった。観光メディアがどう使われ、どのような観光情報を そこから得ているのか、情報の不足点は何のかを探る事を調査の目的とした。その結果、得られた一つの知見として長期滞在外国人やリピーター向けに現状で は、観光情報の不足しており、特にリピーター向けガイドブックに観光モデルルートの充実が望まれる。

詳細は発表の中で紹介する。