2005年度 森基金報告書

監視エリアに基づく位置依存サービス管理手法の構築

政策・メディア研究科 後期博士課程1年 青木俊

 

1.背景

 近年、ユビキタスコンピューティングに関する研究が注目を浴びている。ユビキタスコンピューティング環境において、実世界コンテキストの取得は不可欠であるが、位置情報は特に重要なコンテキスト情報である。位置情報を利用したサービスは多数提案されている。例えば、ナビゲーションサービスや、ユーザの動きにそってサービスを切り替えるFollow-meサービス、玄関の前に立ったらユーザの認証を行う認証サービスなどが挙げられる。本研究では、ナビゲーションサービスに代表される単に位置情報を提示するサービスではなく、位置情報に基づくイベントを利用するサービスを対象とし、位置依存サービスと呼ぶ。例えば、ユーザの周囲のカメラを利用し、常にユーザを追いかけるFollow-meカメラサービスの場合、ユーザの周囲にカメラが入ったというイベントを基にカメラを切り替え、映像を提供するというサービスを提供する。今後、ユビキタスコンピューティング環境の浸透に伴い、位置依存サービスが増加すると予想される。

 

2.研究概要

 位置依存サービスは多数提案されているが、屋内環境においては課題が多い。以下に屋内環境における位置依存サービスの課題を挙げる。

・センサの多様性

 屋外環境においてはGPSセンサを用いて位置情報を取得する方法が一般的であるが、屋内環境においては、超音波センサやRF-IDシステムなど様々なセンサを用いて位置情報を取得する。そのため、センサの多様性は大きな問題となる。

・ロケーションモデルの多様性

 屋内環境における位置情報表記手法は様々である。例えば、座標を用いるモデルや部屋の名前などを用いるモデル、両者を用いるモデルなどがある。どのロケーションモデルを採用するかもまた大きな問題点となる。

・監視エリア定義の困難

 位置依存サービスの特徴として、それぞれのサービスが固有のイベントを監視するエリアを持っていることが挙げられる。例えば、上述のFollow-meカメラサービスの場合、ユーザの周りというイベントを監視するエリアを持ち、そのエリアにカメラが入ったというイベントに応じてサービスを提供する。各サービス固有のイベントを監視するエリアを監視エリアと呼ぶ。現在、監視エリアの定義は各サービスが行っているため、監視エリアの定義は各サービスに大きな負担となっている。Follow-meサービスの場合、ユーザの周りという監視エリアをサービスが管理するために、常にユーザの動きを把握し、ユーザが動くたびに監視エリアを再定義する必要がある。

 これらの問題点に対し、本研究では環境内に位置情報管理サーバを導入し、位置情報管理サーバが各センサの管理と統一的な位置情報の提供を行い、各サービス固有の監視エリアを管理することにより解決する。また、位置情報管理サーバは、サービスを提供するアプリケーションに対し、容易な監視エリアの登録を実現するAPIを提供する。図1に本研究において位置情報が統一的に取得できている様子を示す。

1.システム動作概要

 

3.今年度の成果

 今年度はu-Photoシステムにおける位置情報の管理手法を実現した。u-Photoシステムは、u-Photoカメラを用いて写真を撮影することで、写真に写った機器情報を取得し、ユーザに対し、写真上からの機器の操作という直感的な操作を提供するシステムである。また、カメラで撮影した範囲のセンサ情報も同時に取得することで、写真を撮った時点、場所における温度や明るさなどのセンサ情報の記録も可能とする。u-Photoシステムにおいて、写真内における機器の位置情報の取得は不可欠である。また、写真に写っている範囲のセンサ情報を取得するため、写った範囲という監視エリアを管理する必要がある。

 屋内環境における位置情報の取得方法は様々であり、本研究では超音波やRFセンサを透過的に扱うことを実現してきたが、今回2次元マーカーを用いた位置情報の取得に対応した。2次元マーカーを用いることにより、カメラの画像解析により位置情報を取得できる。また、カメラの写った範囲に存在する2次元マーカーからカメラを撮影した範囲を予測し、その範囲内のセンサ情報の提供を実現した。図2にu-Photoにおける位置認識とセンサ情報の取得を示す。

図2.u-Photoにおける位置認識とセンサ情報