森基金研究成果報告

 

研究課題:「インドネシアのキャンパスイスラーム運動に関する研究」

 

政策・メディア研究科 博士課程1年 野中葉

yon@sfc.keio.ac.jp

 

 

本研究は、現在のインドネシアにおけるイスラームの台頭の実態と、その将来性を探るため、現地でのフィールド調査と文献調査をもとに、インドネシアにおけるイスラーム潮流の中心にある大学キャンパスのイスラーム運動のメカニズムと、この発展を支えたイスラーム思想の影響を明らかにするものである。

この1年間は、当該研究に関わる基礎概念や、先行研究の精査を行うとともに、対象となる各大学でのダーワ・カンプスの歴史、インドネシアのイスラーム化の歴史を整理したり、現代イスラームの思想をおさえるべく、インドネシア語文献、アラビヤ語文献の読解を進めたりする時期となった。主な研究内容、および経過報告は次のとおり。

 

·           文献調査

-          宗教に関わる分野への学術的アプローチの内容を整理。主に、現代の西洋的学問の中で、宗教やイスラームがどのように評価されているのかを捉え、その流れの中における、本研究の位置づけを考察した。対象範囲は、ウェーバー、デュルケム、エリアーデなどからポストモダンの思想までを含む。

-          既存のインドネシア研究におけるイスラームの位置づけを把握。具体的には、歴史学、政治学、文化人類学、社会学などの視点でインドネシア社会を捉えた諸研究の中で、イスラームの位置づけ、その評価や扱いを整理した。対象範囲を、イスラーム伝来期、オランダ植民地期、日本軍政期、独立期(スカルノ期、スハルト期、それ以降)に分け、それぞれの時期でイスラームと関わりのある文献にあたり、ポイントや視点をまとめた。イスラーム伝来期に活躍した伝道師たちの活動に関する『ワリ・ソンゴの物語』は、翻訳を実施し、G-Secディスカッションペーパーシリーズから、近く出版予定。現在、執筆、編集作業を行っている。

-          大学キャンパスにおけるイスラーム運動の歴史に関しては、本研究での主要な調査対象となるインドネシア大学、ガジャマダ大学、バンドゥン工科大学、それぞれのイスラーム組織の活動について記したインドネシア語文献にあたった。また、アラビヤ語文献では、インドネシアの学生にも思想的影響を与えている、カラダーウィー、現代のアラブ世界で影響力を持つアムル・ハーリドなどの著書を、継続して読み進めた。

 

·           研究領域に関する情報収集

 研究領域に関する最新の情報を広く収集するため、20056月に、愛知大学を会場に実施された東南アジア史学会研究大会に参加。また、当該研究に関わる先達の研究者の方々(倉沢愛子:慶應義塾大学経済学部、小林寧子:南山大学、見市建:京都大学、など、敬称略)を訪問し、本研究へのアドバイスを受け、また関連領域も含めた情報収集を実施した。