2006.2.27.

2005年度 森泰吉郎記念研究振興基金 報告書

研究課題名:応急仮設住宅の最適配分計画支援ツールの構築
氏名:佐藤慶一
所属:政策・メディア研究科博士課程


【研究内容】

2005年度は、災害救助法の定める応急仮設住宅の供給において、自治体が速やかに望ましい配分計画を立案できるような支援ツールを提供することを狙いとし、その技術的基盤となる適正配分計画手法を構築した。

大規模な災害後の住宅支援策としての仮設住宅は、総供給可能量や建設用地に限界があり、更には供給時期も異なる。世帯構成や経済的条件などにより仮設住宅の必要度や緊急度が多様な住宅喪失被災世帯を、どこの、どんなタイプの住宅へ、何時如何に割り振るかが問題となる。従来、この作業は行政担当者の判断に委ねられていたが、阪神・淡路大震災では弱者優先に固執したため、近隣同士の助け合いの絆を断ち切ることになり、老人の孤独死を誘発するなどの問題が発生した。新潟県中越地震では、その教訓から、「地区単位の募集・入居」方式が取られたが、現在想定されている首都直下地震等の大規模地震災害のように、仮設住宅希望世帯数が供給可能量を大きく上回ると予想される場合には、そうした方式では入居の可否が地区間で著しく不平等となり、最善とは言えない。また、このような地域コミュニティの維持の問題と同時に、世帯の事情から駅近傍の立地を求める世帯もあれば、世帯人数が多く遠隔地でも構わないから広い床面積を希望する世帯など多様な住民ニーズが想定されるが、従来はそのような住民ニーズは全く配慮されてこなかった。それは、こうした条件を考慮した仮設住宅の配分計画は、大規模で複雑な資源配分問題となり、解の導出が極めて困難で行政担当者の試行錯誤では処理できなかったからである。

以上の問題を解決するために、先ず、地震災害による住宅喪失世帯から仮設住宅を希望する世帯を同定するモデルを開発し、次いで、仮設住宅に対する多様な住民ニーズを計量するモデルを開発し、さらに、計測した住民ニーズと災害弱者優先や地域コミュニティの維持などの社会的公正をあらわす基準を同時に満足化する配分計画数理モデルを構築し、総合的視点による適正配分計画の導出を可能とする「応急仮設住宅の適正配分計画手法」を構築した。さらに、手法の有効性を検証するため、神奈川県小田原市を対象とした大規模な数値実験を行い、住民ニーズ・弱者救済・地域性・入居世帯構成バランスなどの指標に配慮した配分計画の導出が可能なことを実証した。


【研究成果等】

佐藤慶一:“被災者特性に応じた応急仮設住宅の適正配分計画に関する研究”,博士論文,2006.2.

佐藤慶一・澤田雅浩・梶秀樹:“新潟県中越地震における応急仮設住宅の配分結果と居住満足感”,地域安全学会論文集No.7,pp.171-178,2005.11.

シンポジウム「大規模地震災害と住宅・まちづくり」,2005.9.(link)

神奈川新聞紹介記事,2005.7.(link)