2005年度 森泰吉郎記念研究振興基金 報告書

 

政策・メディア研究科 修士課程2年 80425726 安田高法 

 

「農村の変容と生活安定化 −北部タイ農村の事例から−」

 

1.活動報告

 本年度は、2004に行ったフィールドワークに次いで2005817日から923にかけて2度目のフィールドワークを行った。またこの調査に基づき、上記タイトルの修士論文を執筆した。

 

2.論文概要

 本論文は、市場経済が浸透を深める農村の変容を、「生活の安定」という視点から考察する。農村内における土地所有や所得の格差は市場経済の浸透によって深まり、農村経済の大きな不安定要因になっている。しかし、従来の「農民層分解」による農村の階層分化の説明では、「分解」された人々の「生活を成り立たせるもの/方法」に対して十分な説明がされてこなかった。

 筆者は市場経済化が進み、急激な変容を遂げているタイ北部の農村で調査を行った。調査村では、土地所有が細分化する中で現金所得の必要性が増し、1970年代から80年代にかけて高収益性で知られるラムヤイへの転用と農業の近代化が進んだ。現在では村内の大部分の農地がラムヤイ果樹園となっている。しかしこのような変化の結果、調査村は外部の不安定要因と切り離すことが困難になっている。たとえば、短期的に見るとラムヤイ価格の低迷が調査村の農村経済を不安定なものにしている。

 本論文では15世帯への個別インタビューに基づき、調査村に暮らす人々が生活を安定化させようとする取り組みを検討し、その結果以下のような観察を展開している。すなわち、現金所得の必要性が増したからといって、住民は必ずしも「所得向上」を目指すのではない。「貨幣」収入への比重を増しながらも、外部の不安定性に対応するために、収入増加のみには依存しない方法で家計の安定化を図っている。たとえば、地縁を基盤とした関係の保全もその一例として挙げられる。

 

以上