はじめに
日本の森林は従来から精密な森林管理の仕組みが出来上がっているが,近年は担い手不足や木材価値の低下から,管理放棄された林分が増えている。そのため,衰退や枯死が発生する森林被害に対し,脆弱な森林が増加していることが問題となっている。森林被害が発生した場合,行政機関は被害の正確な把握に努めるが,現状では現地踏査であるため,広域に網羅的な被害の把握は困難である。一方で,森林分野では高解像度リモートセンシングデータの実利用に期待が高まっているが,このようなデータが登場してまだ日が浅く,森林被害の把握に応用された事例はない。本研究では高解像度リモートセンシングデータである,(1)光学センサ画像と(2)LiDAR(Light Detection And Ranging)データを用いて,森林被害検出手法の開発を行うことを目的とした。
対外発表
本研究の成果の一部は,以下に示す論文集等で発表した。査読論文1本,国際会議1本,査読なし投稿論文1本,国内学会1本である。
- 田口仁, 臼田裕一郎, 福井弘道, 古川邦明, (2006),
「高解像度光学センサ衛星画像とLiDARデータを組み合わせた森林域の冠雪害検出手法の開発」
写真測量とリモートセンシング, Vol.45, No.1, pp. *-*.印刷中 (査読つき投稿論文)
- Taguchi, H., Usuda, Y., Furutani, T., Fukui, H. and Furukawa, K., (2005), 「Forest Damage Detection Using High Resolution Remotely Sensed Data」, Proc. ACRS 2005 - 26th Asian Conference on Remote Sensing, 7-11 November 2005, Hanoi - Vietnam, CD-ROM. (国際会議発表)
- 田口仁, 臼田裕一郎, 福井弘道, (2005), 「LIDARを用いた森林冠雪害の検出 −小特集(LIDARによる森林・樹木の計測)」,
写真測量とリモートセンシング, Vol.44, No.6, pp.22-24. (査読なし投稿論文)
- 田口仁,臼田裕一郎,福井弘道,古川邦明,(2005),「高解像度リモートセンシングデータを用いた森林域における冠雪害検出」日本写真測量学会平成17年次学術講演会発表論文集, pp25-29(国内学会発表)
手法開発
はじめに,様々な森林被害の類型化を行い,枯損と倒木の2種類に分類可能であることを示し,これらの被害を分離できる検出手法の開発に着眼点を置くことにした。また,@光学センサ画像は,被害域の検出は容易だが,反射特性からは枯損と倒木を分離して検出するのは困難であることを示した(Fig.1 左上)。ALiDARデータは,フィルタリング処理で作成される地表面及び構造物の高さを面的に表したDigital Surface Model(DSM)と地形データ(DEM)を用いることで倒木の検出は可能だが,枯損の検出は困難であることを示した(Fig.1 右上)。そこで本研究は,この2つのデータによるフュージョン(統合処理)を行い,枯損と倒木を分離して検出可能とする手法を開発した(Fig.1 下)。具体的には,LiDARデータから倒木によって樹冠との間の隙間ができるギャップを抽出した結果(Fig.2)と,光学センサ画像のバンドの輝度値を説明変数とし,無被害,枯損,倒木の3クラスを被説明変数とした被害検出のための統計モデルを構築した。統計モデルは2値化データのギャップ抽出結果と,連続量の光学センサ画像の輝度値を組み合わせる必要があるため,Multinomial Logit Modelを採用した。

Fig. 1 被害検出における各データの特徴とフュージョンの有効性

Fig. 2 ギャップ抽出手法の開発
適用結果と評価
本研究で開発した被害検出手法を,岐阜県郡上市美並町の森林域(3km×2.6km)に適用した。精度検証は,検出されたが実際には無被害である「空振り」と,実際には被害だが検出されない「見逃し」という2つの観点から行い,枯損はそれぞれ78%と74%,倒木はそれぞれ82%と84%の的中率を得た。さらに,面積の大きい激害域をそれぞれの被害で2箇所抽出し,空中写真から作成した検証データと比較した面的な精度検証を行い,枯損被害は60%前後,倒木被害は65%前後が的中し,無被害との境界部における未検出の画素が的中率を低下させるが,被害の中心は確実に検出されたことが明らかとなった。さらに,(1)と(2)のデータ単独による被害検出と比較し,フュージョンの有効性を確認した。なお,誤差要因としては,2つのデータの解像度の違いや位置精度がエラーとなること,間伐や皆伐等の施業が誤検出されることを示した。

Fig. 3 被害検出結果

Fig. 4 重ね合わせの有効性
Table. 1 精度検証
考察
本研究で開発した手法は,森林被害マップを作成することで倒木と枯損が発生した場所を明確に把握可能であることから,被害の優先的な調査を行う際に有効である。また,森林GISを用いることで,林道や森林計画図等の空間データとの関連性から,被害の復旧及び復興作業に対策を講じる際の具体的な管理計画に貢献できる可能性があり,被害の発生要因を解明することで被害の未然の防止に寄与できる可能性がある。したがって,本研究で開発した手法は,森林GISに組み込まれるモジュールとして組み込まれるのが望ましいと考えられる(Fig.5)。

Fig. 5 想定される被害検出システムとその社会的意義を示した図
まとめ
本研究で得られた結論は以下の通りである。
- 森林被害を枯損と倒木に類型化し,2つのリモートセンシングデータを統合処理し,枯損と倒木に分離して検出するアプローチを提示した。
- LiDARデータから抽出されたギャップ抽出結果と,光学センサ画像を説明変数として,Multinomial Logit Modelを用いた統合処理を行う被害検出手法を開発した。
- 対象地に適用し,まとまった被害および分散した被害について,枯損と倒木が検出されていることを確認し,本手法の有効性が明らかとなった。 また,検出精度は7割前後だった。
- 本研究で開発した手法は,森林被害を把握する手段の1つとして,今後活用される可能性があることを示した。
今後の課題として,(1)被害の発生要因解明や被害の種類判定を可能とする手法の開発,
(2)他の高解像度リモートセンシングデータへの適用,(3)統合処理手法の改良,が挙げられる。