災害時応急仮設住宅の居住性能評価と改善提案

慶應義塾大学大学院　政策・メディア研究科　修士課程2年　相田麻実子

１　研究の目的と背景

　現在、世界中で多くの自然災害が発生しており、日本においても例外ではない。昨年度は新潟県中越地震と福岡県西方沖地震が発生し、災害対策が全国的な課題となった。特に建造物の崩壊が原因で緊急的な生活を余儀なくされる人々にとって、良好な生活空間の確保は重要な問題といえる。災害時の国による応急仮設住宅の供給は復興対策としての第一前提にあり、その重要度な年々増している。しかし、応急仮設住宅の居住性能については、建設される度に同様の問題点が指摘されてきたが、毎度個別並列的な対策を行うのみであり、根本的な解決方法は未だ提示されていない。

　そこで、本研究では、過去の災害事例において度々指摘されている災害時の応急仮設住宅の居住性能について、最新の事例を対象に居住者に密着した詳細な調査を行い、その問題の有無を検証するとともに、供給体制についても供給者と行政を対象に調査を行い、その実態と課題を明らかにする。そしてその枠組みの中で居住性能を上げるための改善提案を行うことを目的とする。提案にあたって供給者側である（社）プレハブ建築協会の指導を得ていることも、本研究の大きな特徴の一つである。

２　応急仮設住宅の定義と概要

　応急仮設住宅とは災害時仮設的に住む住宅のことであり、災害救助法に基づき災害救助基準が定められている。それによると期間２年以内、規格29.7平米（9坪）、限度額2,433,000円となっている（平成16年度）。

３　過去の事例において指摘された問題

　応急仮設住宅の居住性能について、阪神・淡路大震災において以下の問題が指摘された。

（１）部位別設備に関する問題

　特に玄関まわり、台所、ユニットバスにおいて様々な問題が見受けられ、個別並列的な事後対策で対応していた。

（２）規格・性能に関する問題

　隣や外部の物音がうるさい、収納スペースが少ない、狭い、暑いまたは寒いといった問題があり、改善策は提示されていなかった。

４　居住性能評価

　2005年3月に発生した福岡県西方沖地震により建設された応急仮設住宅団地内にて居住性能評価を行い、阪神・淡路大震災において指摘された問題の具体的実態を明らかにした。200世帯を対象にした全戸ヒアリング調査（回収率：51%）及び単身世帯３戸、多人数世帯４戸を対象にした戸別居住実態調査により以下の実態と問題が明らかになった。

（１）部位別設備に関する問題

　阪神・淡路大震災において指摘された問題は、個当時の戸別並列的な対応策を事前に行ったため、一部の高齢者世帯を除き、ほぼ解決されていた。

（２）規格・性能に関する問題

　全戸ヒアリング調査により、阪神・淡路大震災と同様、隣や外部の物音がうるさい、収納スペースが少ない、狭い、暑いまたは寒いといった問題があることが明らかになった（表１）。

　戸別居住実態調査により、３人以上の世帯において、室内全体の狭さ・収納スペース不足の問題を感じていることが明らかになった。また、台所の使い勝手の悪さの問題も明らかになった（図１）。これらの問題は全て、世帯人数に関わらず一律９坪の応急仮設住宅を供給したことから生じたものであり、規格及び規格の決定の仕方に要因があるといえる。

　表１　全戸ヒアリング調査結果

図１　戸別居住実態調査　まとめ

５　供給の体制と課題

　次に、応急仮設住宅の規格決定に至る経緯と背景を明らかにするために、（社）プレハブ建築協会と行政機関へインタビュー調査を行った。これにより、特に初期建設において、応急仮設住宅の希望調査・建設・管理・解体にかかる時間と手間を省くため、単一の供給を行う傾向にあることが判明した。

６　ロフト型応急仮設住宅の提案

　これらの問題をふまえ、現行の基準面積（9坪）、基本構造を変えずに、全体の狭さ・収納スペースの不足・遮音性能の低さ・居住性能上の問題（台所の使いにくさ）を解決し、かつ供給の単一化を可能にする「ロフト型応急仮設住宅」を提案する（図１）。これは、従来と同じ規格・構造のまま、屋根を切妻型にしてロフトスペースを設けた住宅で、述べ床面積が1.7倍になるため居住性能上の問題を解決することが可能となる。また、一つのタイプでより大人数の世帯が入居できるため、供給の単一化をはかることが可能となる。

７　実現へ向けた検討

　提案モデルの実現化へ向けて、実物大モックアップによる空間性能の検証を行った。その結果、ロフトスペースが部屋として充分に機能することが明らかになった。

　次に、コストの算定を行い、切妻型屋根の設置にかかる費用は380,000円であることが明らかになった。これは、12坪タイプの建設にあたっておよそ395,000円の費用がかかることを考慮すると、妥当な金額であるといえる。

　最後に、関連企業にプレゼンテーションを行い、ロフト設置のアイディアは良いが、切妻型屋根の導入は現時点では難しいとの評価を得た。

　提案モデルの実現化へ向けて、今後は、常時の切妻型屋根の需要を見いだし、生産体制を整えておく必要があるといえる。

　　　　　　　図２　提案モデル　構造パース

図３　実物大モックアップ　内観