2005年度森泰吉郎記念研究振興基金 研究成果報告書

 

政策・メディア研究科 

修士課程1年 

村瀬 明代

研究課題名

日本における若年ホームレスに対する社会保障政策

 

概要

森基金申請時は若年ホームレスの実態を把握し、それに対する社会保障政策を検討することを目的とした。しかし調査した文献等で、ホームレスとフリーター、ニートなどの関係性が深いことが度々指摘されていたことから、フリーターやニートまで調査の枠を広げることにした。また行政による対策は実施に踏み切ったばかりのものが多かった。そのため、若年ホームレス・ニート・フリーターの実態やそれらの関係性を整理する程度にとどまっており、今後必要とされる社会保障政策を詳細に検討する段階には至らなかった。調査方法は文献調査を主体とし、適宜ヒアリング調査を行った。  

以下は、文献調査からホームレス・フリーター・ニートの特徴とそれらに対する行政機関による支援策を要約したものである。

 

調査内容

1、 ホームレスの概要

日本におけるホームレスとは公園、道路、河川敷、駅舎等、公共の空間でテントや小屋を建てたり、ダンボールを敷いて寝泊りするなどして日常の生活を送っている人々を指す。

ホームレスの実態に関する全国調査によると、ホームレスは全国全ての都道府県にいる。都道府県別に見ると、大阪府(7,757人)や東京都(6,361人)が多い。

 

1 都道府県別ホームレスの人数

 

大阪

7,757

 

沖縄

158

 

滋賀

57

 

福井

24

東京

6,361

 

北海道

142

 

山梨

51

 

高知

23

愛知

2,121

 

栃木

134

 

香川

46

 

宮崎

22

神奈川

1,928

 

茨城

130

 

三重

46

 

石川

22

福岡

1,187

 

熊本

124

 

福島

43

 

岩手

18

兵庫

947

 

和歌山

90

 

佐賀

41

 

青森

16

埼玉

829

 

群馬

87

 

長崎

41

 

徳島

14

千葉

668

 

岐阜

86

 

大分

39

 

奈良

14

京都

660

 

愛媛

85

 

長野

37

 

秋田

13

静岡

465

 

鹿児島

80

 

山口

33

 

鳥取

13

広島

231

 

新潟

74

 

山形

24

 

島根

4

宮城

222

 

岡山

65

 

富山

24

 

合計

25,296

(出所)ホームレスの実態に関する全国調査(厚生労働省)より抜粋

 

ホームレスの年齢は、中高年層が大半を占めている。50歳から64歳までが全体の65.7%を占め、全体の平均年齢は55.9歳である。

 路上(野宿)生活になった主な理由は、「仕事が減った」が最も多く、次いで「倒産・失業」となっており、仕事関係が上位を占めている。

 

2、フリーターの概要

フリーターとは短期間のアルバイトなどをして生活することを指す。労働政策研究・研修機構によると、フリーターは次のように分類される。

1)モラトリアム型

@離学モラトリアム型「職業や将来に対する見通しを持たずに教育機関を中退・修了し、フリーターとなったタイプ」

A離職モラトリアム型「離職時に当初の見通しがはっきりしないままフリーターとなったタイプ」

2)夢追求型

B芸能志向型「バンドや演劇、俳優など、芸能関係を志向してフリーターとなったタイプ」

C職人・フリーランス志向型「ケーキ職人、バーテンダー、脚本家など、自分の技能・技術で身を立てる職業を志向してフリーターとなったタイプ」

3)やむを得ず型

D正規雇用志向型「正規雇用を志向しつつフリーターとなったタイプ、特定の職業に参入機会を待っていたタイプ、および比較的正社員に近い派遣を選んだタイプ」

E期間限定型「学費稼ぎのため、または次の入学時期や就職時期までといった期間限定の見通しを持ってフリーターとなったタイプ」

Fプライベート・トラブル型「本人や家族の病気、事業の倒産、異性関係などのトラブルが契機となってフリーターとなったタイプ」

 

3、ニートの概要

ニートとは働こうとしてないし学校にも通っていない、仕事に就くための専門的な訓練も受けていない人を指す。労働政策研究・研修機構によるとニートを次の4種類に類型化される。

1)ヤンキー型「反社会的で享楽的。今が楽しければいいというタイプ

2)ひきこもり型 「社会との関係を築けず、こもってしまうタイプ

3)立ちすくみ型 「就職を前に考え込んでしまい、行き詰ってしまうタイプ

4)つまずき型 「いったんは就職したものの早々に辞め、自信を喪失したタイプ

 

4、行政機関によるホームレスに対する支援(東京都)

東京都では、主に次のような支援策を提示している。

1)自立支援事業の実施「自立支援システムの運営 、ホームレス地域生活移行支援事業 」

2)就業機会の確保求人の確保 「職業相談・職業紹介 、職業能力の開発 、身元保証人の確保 」

3)安定した居住場所の確保「公営住宅の入居斡旋 、低家賃住宅の確保 、入居保証人の確保 」

4)保健及び医療の確保「健康診断・相談サービスの提供 、結核罹患者への対応 、救急医療体制の充実 」

5)生活に関する相談・指導「窓口・街頭相談の充実 、巡回相談センター事業の実施 、福祉サービス総合支援事業の利用促進 」

6)緊急援助及び生活保護「緊急に行うべき援助の実施 、生活保護法による保護の実施 、路上生活者対策事業と生活保護制度の連携 」

 

5、行政機関による若年者に対する支援

1)若者自立・挑戦プラン

2003年4月、政府は若者自立・挑戦戦略会議を設置し、6月には若年層の雇用対策である若者自立・挑戦プランを策定した。

@     教育段階から職場定着にいたるキャリア形成・就職支援の実施

「小中高の段階から職業意識を形成することの必要性から、小中高校生を対象としたキャリア探索プログラムやジュニア・インターンシップも実施している。」

A日本版デュアルシステムの導入「企業実習と教育訓練を組み合わせて行い、業人を育成する。2005年3月末迄に2万3000人が短期訓練を受講し、修了者のうち69.2%が就職した。」

B若年者向けキャリア形成支援の実施「若年者向けに専門的なキャリア・コンサルタントを養成して、活用する。」

C若年労働市場の整備「学卒・若年者に向けて実践的能力評価・公証の仕組みを整備する。」

D地域との連携・協力による若年者支援対策の実施

2)若者自立・挑戦のためのアクションプラン

 2004年12月、政府は若者自立・挑戦のためのアクションプランを策定した。2005年度からは若者人間力強化プロジェクトを推進中である。

@若者の人間力を高めるための国民運動の展開「若年雇用に関する広報や啓発活動を行う。」

Aフリーター20万人常用雇用化プラン「フリーター対策として、年間20万人の常用雇用化を目指す。」

B若者自立塾「合宿生活を通じてニートの若者を鍛える。」

Cジョブ・パスポート事業「ボランティア活動等の無償の労働体験を記録し、企業の採用選考に反映させる。」

 

6、フリーターやニートが野宿生活者になりにくい要因

一般的に、フリーターやニートがホームレス化しない要因は、バイトなどの非正規雇用で生活していくことが可能なことや、相対的に裕福な親元で生活することが可能であるといわれている。しかし時間の経過とともにニートやフリーターの再就職は難しくなる。また両親も高齢化していくため、いつまでもパラサイトすることは困難であると考えられている。実際、ヒアリングをした中には30歳代(推定年齢も含む)で非正社員として働くホームレスが見受けられた。

 

今後の課題

今後引き続き、行政機関の政策実施状況を注視し、若年ホームレスに対する社会保障政策に関する調査・検討を重ねていく。また今回の調査は来年度の修士論文作成に生かしていく予定である。

 

参考資料の一部

・小杉礼子ほか『自由の代償/フリーター―現代若者の就業意識と行動―』日本労働研究機構、2002年

・厚生労働省ホームページ 『ホームレスの実態に関する全国調査報告書』http://www.mhlw.go.jp/shingi/index.html

・東京都ホームページhttp://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/press_reles/2004/pr0728.pdf

 

 

 

謝辞

最後になりましたが、2005年度森基金から御支援頂きましてありがとうございました。厚く御礼申し上げます。