2005年森基金活動報告書

42 人間関係を利用したユビキタスコンピューティング環境の実現

 

uAssociator: スポットライトとカメラを利用したモノとセンサノードの関連づけツール」

米澤拓郎

政策・メディア研究科修士1年 サイバーインフォマティクス専攻

80525644 takuro@sfc.keio.ac.jp

 

1.     当初研究計画との変更点

当初の研究計画では人間関係を利用したユビキタスコンピューティング環境の実現を掲げていたが、研究を進むにつれ興味の対象がユビキタスコンピューティング環境における人とモノとの関係を利用したコンピューティング環境の実現を目標とするようになった。当初、人間関係を共有した“時間”で評価しようとしたのだが、それ以外の要素をもっと考慮にいれる必要があると判断し、まずは人間とモノという比較的整理しやすい対象に絞ることを考えたからである。研究を進める段階で、現在「モノの状態」を利用したサービス開発が世界中で進められていくことに着目し、そのサービス開発を効率化することを考えた。モノの状態を超小型センサノードを取り付けて取得し利用することで、最終的にはその人とモノとの関係性に着目したサービスが構築できると考えられるからである。

 

2.uAssociator: センサノードとモノの関連づけツール

センサノードとモノを利用したサービスを開発する際にユーザに大きな負担となっているのは、どのセンサノードがどのモノに付着しているかという関連づけである。将来家庭にユビキタスコンピューティング環境を普及させるためには、この負担を軽減するシステムが必要である。この関連づけには、以下の大きく2つの問題が存在する。

 

     センサノードのIDを特定するのが困難

超小型センサノードにはディスプレイ等がないため、ユーザは専門のツールを利用してセンサノードから送信されるデータを解析し、センサノードIDを推測する必要がある。

     センサノードIDとモノの関係をサービスに登録する手間の多さ

センサノードIDが認識できた後には、ユーザは手動でIDとモノとの関連性をサービスに登録する必要がある。新しいモノにセンサノードをとりつけた度にこの作業は必要となるため、ユーザの負担は大きい。

 

本研究では、これらの問題を解決するため、スポットライトとカメラを利用したセンサノードとモノのassociation手法を開発した。本手法では、モノにとりつけられたセンサノードの照度を、LEDスポットライトを照射することで特徴づけ、そのセンサノードIDを自動認識するのと同時に、カメラを用いてモノの画像を取得しモノとセンサノードの関連づけを行っている(図1)。本手法ではユーザは「スポットライト内に入ったセンサノードとモノが自動的に関連づけられる」ということを意識するだけでよく、直感的なインタラクションによる関連づけが可能となる。従来の研究では予め静的にモノとセンサノードの関連性が定義されていた。本研究の手法を用いることで、ユーザは動的な関連づけが行える。よって、従来のサービスにユーザの身の回りの既存のモノを取り入れたり、ユーザ自身が容易にサービス開発を行うことができる。

図1:センサノードと日用品のアソシエーション手法

 

uAssociatorのシステム構成図を図2に示す。Image Analysis Moduleは、カメラから取得した画像を解析し、モノに光りが当たったことを判断し、Association Moduleにその画像情報を通知する。Sensor Data Analysis Moduleは環境に存在するセンサノードのうち、スポットライトが照射されたセンサノードを判別し、そのセンサノードIDをAssociation Moduleに通知する。Association Moduleは上記2つのモジュールから得た情報を比較し、もし2つの情報が同時刻に生成されたものならセンサノードIDとモノの画像を関連づけ、Association DB Moduleに渡す。アプリケーションはAssociation DB Moduleから関連づけ情報を取得し、モノの環境状態を利用した様々なサービスを実現する。

 

図2:uAssociatorのシステム構成図

 

3.アプリケーション例

 本手法の有効性と潜在的な能力を検証するために、複数のアプリケーションを開発した。モノの状態ビューアでは、モノの状態を視覚化してユーザに提示する(図3A)。例えば振動を検知したモノがあれば、その画像が揺れる。本サービスを利用することで、ユーザは直感的にモノの状態を把握できる。盗難検知サービスは、ユーザが登録したモノにとりつけられたセンサノードからの情報が取得できなくなったときに、「モノが盗まれた可能性がある」と、ユーザにそのモノの画像とともに通知する(図3B)。ユーザは実際にモノの画像を見れるため、盗難の可能性があるモノを正確に理解することができる。また、イベントドリブンサービス開発ツールを利用することで、ユーザはモノのある状態をトリガとして定義し、アラームやメール送信などの様々なアクチュエータを動作させることができる(図3C)。このツールを利用し、例えば「いすが振動したら机の電気をつける」といったスマート椅子サービス等をユーザ自身が自由に構築できる。

 

図3:アプリケーション例 A)モノの状態ビューア 

B) 盗難検知サービス C)イベントドリブンサービス開発ツール

 

 

4.対外成果発表

 本研究の成果として、以下の学会/シンポジウムで発表した・予定である。

     Open Research Forum 2005

     ATR/NICT 技術交換ミーティング

     インタラクション2006 インタラクティブセッション (査読あり)

また、ユビキタス分野で著名な学会であるPervasive2006に投稿中であり、他にも積極的な投稿を行う予定である。

 

5.まとめと今後の課題

 今年度は、モノを利用したサービスを構築するために問題となるモノとセンサノードの関連づけに注目し、研究を行ってきた。uAssociatorは直感的でインタラクションで容易に関連づけが行えるため、一般家庭をユビキタス環境化する際において特に有用性が期待できる。今後の課題として、画像認識技術によるモノのメタデータの取得方法、人とモノとの関係性を利用した更なるサービスの提案・開発等が望まれる。

 

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