修士論文要旨  2005年度(平成17年度)

「スポーツ組織マネジメントにおける地域コミュニティとの関係構築」 

―Jリーグクラブの事例研究―

本研究の目的は,スポーツ組織がそれを取り巻く地域コミュニティとの関係性を高めることが,今後のスポーツ組織マネジメントにとって重要な選択肢になりつつあるということを示すことである.そこで,地域コミュニティとの関係構築を行っているスポーツ組織を含む,Jリーグクラブ全30クラブの組織マネジメントを対象に,これまで把握されてこなかった,クラブと地域コミュニティとの関係構築が,クラブ経営に与えるインパクトに関して調査・分析を行った.

 Jリーグでは,2部リーグ(J2)創設などを経てクラブ数が増加し,経営規模のクラブ間格差は大きくなり,Jクラブ経営の収支を安定させるための,クラブが採りうる戦略も多様化した.そして,従来型の資本力によって経営を進める「市場型戦略」の限界を概観し,スポーツ組織を取り巻くコミュニティとの関係性を高める「コミュニティ型戦略」が,「市場型戦略」とならんでクラブ経営の両輪になることを示す.その上で,クラブの経営規模から,大手6クラブを「タイプ?」,中堅10クラブを「タイプ?」,中堅タイプよりも経営規模が小さい8クラブを「タイプ?」にクラブ経営のタイプ分類した.その3タイプの分類の枠組みで,アンケート調査によって把握した,コミュニティとの関係性を高める「クラブの地域活動」と「地域のクラブ支援」の各活動に関するデータを分析した.さらに,クラブと地域コミュニティの関係性が高く,地域コミュニティとの関係構築が,クラブ経営にインパクトを与えている4クラブ(FC東京,川崎フロンターレ,湘南ベルマーレ,ヴァンフォーレ甲府)に,インタビュー調査および,フィールドワーク調査を行った.

本研究で得られた知見は次の点である.これまで理念的に重要視されていたクラブと地域コミュニティとの関係構築が,J1においてはクラブの収入向上の方法として有効であることが明らかとなり,J2では,クラブの支出削減ないしは,経営規模の拡充に貢献していることが明らかとなったことである.次に,経営規模の観点から,クラブと地域コミュニティとの関係構築をもっとも切実に行う必要があると思われていた「タイプ?」のクラブは,経営リソースの不足から,地域コミュニティとの関係構築を十分に行えていないことが判明し,もっともクラブと地域コミュニティとの関係構築を行っていたタイプは「タイプ?」のクラブであった.だが,「タイプ?」には,クラブ経営の不安定さを契機にして,地域からの支援を得られるようになったクラブも多く,地域コミュニティとの関係構築を図れているケースもあることが明らかとなった.

キーワード

1.地域コミュニティ  2.関係構築   3.スポーツ   4.マネジメント  5.スポーツ組織

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科

松橋 崇史