― 2005年度森泰吉郎記念研究振興基金報告書 ―

                                         

政策・メディア研究科

80524126 修士課程1年

荒井  悠介

研究課題名

ボランティアと警察の連携による暴走族離脱支援研究

論文趣旨

本研究の目的は、暴走族に所属する少年の、暴走族という役割からの離脱プロセスを分析し、離脱の阻害、促進に関る変数とその離脱との関りを明らかにする。そして彼らの離脱と新たな役割の取得に効果的な支援を提示することを目的とする。

研究背景  

栃木県警察の調査によると、暴走族の少年のうち約4割は離脱したいと考えている。この様な傾向は、程度の差はあるが、他の非行集団においても同じ様にみうけられる。 だが、彼らが離脱することは非常に困難である。 従来、暴走族対策としては構成員の検挙、組織の解体による隔離という力による対策を中心として行ってきていた。だが、暴走族の構成員を組織から離脱させ、戻らなくさせるためには、それだけではなく、並行して、離脱の促進と更正支援を行っていく必要がある。これらの対策では、学校、警察、地域、NPO、ボランティア、その様々な機関側面からの支援が行われている。

このような問題の解決には、彼ら自身が、どのように自らの役割を認識し、その役割を離脱し、新しい社会的役割を獲得するのか。そのプロセスを分析することにより、彼ら実態を把握することにより、効果的な支援に必要となるもの、効果的な支援について提示できると考えられる。

非行、立ち直りに関する研究は、多数存在するが、役割からの離脱という側面を主題にした研究やそれに触れている研究は少ない。そのため、非行からの離脱をこの側面から捉えることにより実態を捉え、今後の離脱支援の取り組みに寄与できると考える。

RQ 

・暴走族に所属する少年の離脱に影響を与える変数は、Ebaugh H.R.F が著書“Becoming an EX the Process of Role Exit” で述べている       

 Role Exit Theoryで述べられているものの他に具体的にどのようなものがあるかを明らかにする。

・どのような変数が暴走族少年の役割からの離脱への影響が強いのか。

・ 離脱促進のためにはどのような支援が必要であり、効果的なのか、そのような支援が行われているとしたら、どのような理由から効果をあげて  

 いるもしくは効果をあげていないのか。関係機関に求められる役割とその効果的な支援には何が必要かを明らかにする。

・ Predoubt といえるような、first doubt以前の段階があるか。

・ 集団からの影響がどのようにあり、Role Exit Theoryと異なる点があるか。

研究の意義

・暴走族構成員の少年の離脱に影響を与える変数を明らかにすることができ、より効果的な離脱支援を行うことに貢献する。

・従来あまり研究されてこなかった、非行少年側の、役割離脱について研究を行うことによる。学問的貢献。

・他の非行集団対策にも、ある程度の関係が見受けられると考えられるため。他の非行集団対策に対する貢献。

研究方法

(1)調査方法

・インタビュー、アンケート調査、文献調査

(2)調査対象 

暴走族少年 役割を離脱した人間 本年度は離脱した後の元暴走族メンバー8団体 14名にインタビューを行った。

調査の中で特に離脱に影響を与えると考えられる、関係機関、団体。

研究の前段階で特に大きな影響を与えていると考えられる、警察の摘発、条例との相関関係については統計資料等より定量的調査を行っ  

 た。                                                      

本年度の研究活動

「関連学問分野の復習と先行研究のサーベイ」

研究の前提として必要になる、関連する分野の学問分野の学習、海外文献の取り寄せ、矯正図書館(犯罪、非行、更生保護、刑事政策の専門図書館)等にて、学会誌、紀要、専門雑誌、白書等政府の公式見解、などから先行研究をサーベイした。また、ネットワークコミュ二ティプロジェクト、文学部社会学研究科の文化人類学演習、民俗学演習、への参加を通し、専門的な知識と技法を学んだ。

※現在も続行中。詳しくはプロジェクト報告を参照されたい。

●9月〜1月「関東近郊の元暴走族メンバーへの聞きとり調査」

7団体、各、一名ずつ 9月27日 10月8日 11月28日 12月2日 12月5日 1月8日(二団体) 規模、現在存在する、しない、東京都内の都心部、郊外、(一団体は群馬県)。の違いにわけインタビューを行った。

●12月〜1月「支援側への調査」

参加ワークショップ

 10月14日 実施 明治大学にて 「英国におけるボランタリー組織(NPO)/自治体のローカル・パートナーシップと若者の自立支援における

  NPOの役割」

都内で離脱支援を行っている、NPO団体へのインタビュー。

・12月20日東京都大田区にてNPO団体 国際アイアン イーグルス代表者にインタビュー。

教育委員会への聞き取り調査

・12月14日 群馬県庁にて群馬県の教育委員会  義務教育科にてインタビュー、今迄の参与観察、研究結果についての発表。

意見交換会

12月18日 1月22日 2月16日 現在、神奈川県の中学校にボランティアとして派遣されている大学院生と意見交換会。

2月 「愛知県 暴走族離脱者へのインタビュー」

2月8日、9日、10日、11日 愛知県名古屋市

暴走族の離脱支援に関して成果をあげている愛知県の協力が得られた暴走族OBに対してのインタビュー調査を行った。同一団体 離脱後メンバー6名。

分析に用いる理論

Ebaugh H.R.F が著書“Becoming an EX the Process of Role Exit” で述べている。

Role Exit Theoryを援用する。

本年度の研究で得られた知見

1暴走族に代わる集団

暴走族の加入者数の減少に伴い暴走族という集団の形態にかわる非行集団が新たに現れてきている。

Role Exit Theoryと異なる点

Ebaugh H.R.F は離脱の過程として、firstdoubt、seeking alternative、turnningpoint、clearting newroleと、大きくわけて4段階あると述べている。

Ebaughは、第一段階、first doubtの段階として、離脱に対して意識し、周りの人間がそれを認識している段階と述べているが、暴走族の場合、その状態の以前に、predoubt と言えるような、離脱に対して意識しつつも、周囲の人間にはそのことを知らせない段階、また、離脱を全く意識してないzerodoubtと言えるような段階があることをインタビューを通じて複数の人間から聞き取り確認することが出来た。

・暴走族の離脱においては、firstdoubt、seeking alternativeの段階を踏まずにturning pointを向かえ離脱にいたるケースが存在することが確認 

できた。

今後の研究

・学問的研究が殆んど行われていない新たに現れてきた非行集団の実態把握。

・離脱に至るまでのプロセスは他の新たに現れてきた非行集団において、どのような段階となっているのか。離脱を促進、阻害する変数をそれぞ   

 れ明らかにする。

・イギリスFOYERに見られるような海外において成果をあげているNPOと行政の連携した形の支援団体へのフィールドワークを通じ、今後の支援      

 として必要と考えられるものを見つけ出す。

 

研究費の使用方法

愛知県、茨城県へのフィールドワーク。

研究の前提として必要になる、関連する分野の資料、文献購入、取り寄せ。

研究のために必要となる環境整備のため必須となる機材購入。

のために有効に活用させていただいた。

主要 参考文献・先行研究

社会調査関係

・ジェイムズ・ホルスタイン/ジェイバー・グブリアム/ 山田富秋他訳『アクティブインタビュー』せりか書房 2004

・桜井 厚『インタビューの社会学』せりか書房2002

・桜井厚 小林多寿子編著 『ライフストーリーインタビュー』せりか書房 2005

・佐藤郁哉『フィールドワーク』  新曜社 1992

・佐藤郁哉 『実践フィールドワーク入門』有斐閣 2003

・ ダニエル・ベルトー 小林多寿子訳『ライフストーリー』ミネルヴァ書房2002

・谷岡一郎『「社会調査」のウソ リサーチ・リテラシーのすすめ』文春親書2000

役割離脱関係

・Albert.o Hirschman『離脱・発言・忠誠―企業・組織・国家における衰退への反応』 ミネルヴァ書房2005

・Granovetter. M. S『転職』ミネルヴァ書房1973=1998

・『Backboards & Blackboards』Adler P.A & Adler P  1991,Colombia University Press 

・『Becoming an EX the Process of Role Exit』Ebaugh H.R.F 1988, The University of Chicago Press

久保田洋一、野川春夫、末永尚、重野弘三郎『プロサッカー選手のキャリアチェンジ』役割卒業理論(Role Exit Theory)を援用して順                                                                                                                                                                                                                                

 天堂スポーツ科学研究 2002

・『the role exit of professional Athletes』 DorahotaJ.A.T 1998,Sociology of Sports Journal

Goffman,Erving石黒毅訳『行為と演技』誠信書房  1974 

Goffman,Erving石黒毅訳『スティグマの社会学』せりか書房1970 

Goffman,Erving 佐藤毅 折橋徹彦『出会い』 誠信書房 1985

Goffman,Erving 丸木恵祐訳 『集まりの構造』 誠信書房 1980

エスノグラフィー

・イライジャ・アンダーソン 奥田道大 奥田啓子訳 『ストリートワイズ』 ハーベスト社 2003

奥田道大 有里典三訳『ホワイト「ストリートコーナーソサエティ」を読む』  ハーベスト社 2002

佐藤郁哉『暴走族のエスノグラフィー』 新曜社1984 

佐藤郁哉 『ヤンキー・暴走族・社会人』新曜社 1985

ハーベイ・W・ゾーホー 吉原直樹・桑原司・奥田憲昭・高橋早苗 『ゴールド・コーストとスラム』 ハーベスト社 1997

ハワード・S・ベッカー村上直之、訳『アウトサイダーズ』、新泉社1978

W・F・ホワイト「ストリート・コーナー・ソサエティー」有斐閣2000

ポール・ウィルス 熊沢誠 山田潤訳 『ハマータウンの野郎ども』ちくま学芸文庫 1985

渡辺靖 『アフターアメリカ』慶應義塾大学出版会2004