2005年度 森泰吉郎記念研究振興基金 報告書

地域情報化のコネクタ

 

慶應義塾大学大学院 政策メディア研究科

修士2年 学籍番号:80426129

高橋 明子 

 

本研究の成果を用い、『地域情報化教本』(仮題、NTT出版、2006年4月刊行予定)の第10章を執筆した。以下、その概要を報告する。

 

 

1.   はじめに

本研究では地域情報化プラットフォームの設計、運営者について論じる。

プラットフォームとは「第三者間の相互作用を活性化させる物理基盤や制度、財・サービス」[1]を意味する。地域情報化プラットフォームに着目する理由は、地域社会で展開されるプラットフォームが、ただ乗り等ネット社会の弱みを補い、信頼に基づく全員参画型の社会モデルを実現する可能性を持つことが注目されているからである。

プラットフォームの設計、運営者について、「リーダー」ではなく、「コネクタ(つなぐ人)」という用語を使うのは、プラットフォーム上の活動は、固定されたリーダーが引っ張る従来の階層的、統制的な組織化形態ではなく、多くの主体のイニシアチブが共鳴し合いながらつながり連携する自律分散型の組織において運営されているからである。

本研究では、コネクタを『多様な主体間をつなぎ、協働を成立させる媒介役を果たす「ヒト」』と定義する。

 

2.事例研究

2.1 3つのコネクト機能

 プラットフォームを単位に、コネクト(つなぐ)機能をみたものが図表1である。コネクト(つなぐ)昨日は、「地域間コネクト機能」(地域間をつなぐ機能)、「プラットフォーム間コネクト機能」(プラットフォーム間をつなぐ機能)、「プラットフォーム内コネクト機能」(プラットフォーム内をつなぐ機能)の3点に集約できる。

図表1 プラットフォームとコネクト機能


2.2 事例分析

 続いて事例を用いて「コネクト機能」を分析する。

分析対象としては、富山インターネット市民塾、鳳雛塾、シフトアップかすが、NPO法人桐生地域情報ネットワーク(以下KAIN)を取り上げる。

 

事例1 富山インターネット市民塾[2]

富山インターネット市民塾は、1998年に株式会社インテックの柵富雄氏により企画され、通産省(当時)の公募事業に採択されて実現した、「誰でもが講師になり、いつでもどこからでも講座を開設したり受講ができる仕組み」である。2002年には、富山県、各市町村のほか、県内の大学、民間企業など12団体と個人約40が会員となって富山インターネット市民塾推進協議会が設立された。2005年度は、企画時点からの強力な支援者である富山大学人間発達学部長の山西潤一氏が理事長を務め、副理事長には富山県民生涯学習カレッジ学長、社会人大楽塾代表、富山県商工会議所連合会常任理事の3名、その他行政、マスコミ、インテック、電力会社等から18名の理事が就任している。

インターネット市民塾の3つのコネクト機能についてみると、「プラットフォーム内コネクト機能」は、インターネット市民塾事務局長として、プラットフォームの設計者である柵が担っている。地域内の他プラットフォームと市民塾をつなぐ「プラットフォーム間コネクト機能」は、既存プラットフォームのリーダーでもあり、地域の世話役的立場にある山西氏をはじめとする理事がその役割を担っている。

他方柵氏は、インターネット市民塾プラットフォームの導入を希望する各地から呼ばれる形で全国各地を飛び回り、2005年には各地の市民塾の連携を推進する「市民塾ユニオン」(富山インターネット市民塾、せたがやeカレッジ、東京e大学、わかやまインターネット市民塾、おおがた学校(高知)、徳島インターネット市民塾)を結成した。このように柵は、富山のインターネット市民塾と他地域をつなぐ「地域間コネクト機能」をも果たしている。

 

事例2 佐賀鳳雛塾[3]

鳳雛塾は1999年に設立されたビジネススクールである。運営的には、SAGAベンチャービジネス協議会(以下ベンチャービジネス協議会)が主催する形をとり、佐賀大学寄附講座の客員助教授だった飯盛義徳氏(現・鳳雛塾副理事長)が、慶應義塾大学ビジネススクールに在籍した経験をふまえ、人材育成を通して地域活性化に役立ちたいという強い思いを込めてプラットフォームをデザインし、2005年にNPO法人化した

鳳雛塾の3つのコネクト機能についてみると、「プラットフォーム内コネクト機能」は、飯盛氏が主に企画を担当し、NPO鳳雛塾の事務局長を務める横尾敏史氏(佐賀銀行より出向)が実質的な運営を担当する分業体制となっている。飯盛氏は鳳雛塾プラットフォームの立ち上げの後、慶應義塾大学博士課程を経て、2005年より慶應義塾大学環境情報学部の専任講師に就任。現在も首都圏に居住するが、月に1〜2度は佐賀を訪問、横尾との密接な情報交換および両者の明確な役割分担が運営成功の大きな原動力となっている。

「プラットフォーム間コネクト機能」については、2004年度までは指山弘養佐賀銀行会長、佐賀県商工会議所連合会会長、田中稔佐賀銀行前会長、上原春男佐賀大学長らがベンチャービジネス協議会の顧問や会長として、地域内の他プラットフォームとの連携を図ってきた。さらに2005年度よりは指山がNPO鳳雛塾の理事長に就任し、鳳雛塾を支援する役割を担っている。

他地域との連携をはかる「地域間コネクト機能」については、飯盛副理事長が、大学や他の研究ネットワークを活かした外部講師の招聘や、自身の学生との共同研究、あるいは他地域との連携などを促進している。こうした活動を通じ、鳳雛塾は近年、富山市、藤沢市、大方町(高知)などに伝播しつつある。

 

事例3 田舎.tv(シフトアップかすが)[4]

 シフトアップかすがは、兵庫県丹波市春日町のまちづくり活動推進団体である。2001年に開催されたセミナーをきっかけに、2002年に春日町にUターンした小橋昭彦氏を代表として設立された。副代表理事を荻野幸一郎氏が務め、他8名の理事が運営を支える。

シフトアップかすがでは、住民自身がレポーターとして身近な情報を写真や動画で伝える「田舎.tv」を中心に、あたかも自分の田舎のおばあちゃんからメールが届くかのような「おばあちゃんメール」サービス、関西ブロードバンド株式会社が提供するADSLインフラを活用した地域(特定局舎)で初めてのブロードバンドサービス「田舎BB」などを実現に導いてきた。これらは小橋氏が、IT業界とのつながりや自身の都会生活などから発想したサービスである。一方でシフトアップ主要メンバーが地域情報を伝えるサイトを独自に開設するなど、「田舎.tv」にコンテンツを集約することよりもむしろ、理事をはじめとする多様な主体が独自のイニシアチブを発揮することを推奨している。即ちシフトアップかすがは、8名の理事を中心としたメンバーが既存プラットフォームの活動を前面に出しながら、時には独自のプラットフォームをさらに別途立ち上げるかたちで「プラットフォーム間コネクト」を実現している。

シフトアップかすがの3つのコネクト機能についてまとめると、「プラットフォーム内コネクト機能」は代表の小橋氏が企画、副代表の荻野氏が運営という分業体制で担われている。「プラットフォーム間コネクト機能」については、小橋氏を中心としながら、各理事たちが地域の既存プラットフォームとの連携を推進している。「地域間コネクト機能」は、小橋氏が自身の経歴を活かしその役割を担っている。

事例4 NPO法人桐生地域情報ネットワーク(KAIN)

 KAINは、2001年に『情報化を通して、まちづくり、ひとづくり、お手伝い』をスローガンに設立された。その母体は、1984年にまちづくり企画集団として設立した「渡瀬クラブ21」、1980年代後半から運営してきたパソコン通信「渡良瀬ネット」、1995年より活動してきた任意団体「桐生広域インターネット協議会」などの10数年に渡る活動である[5]

活動は常に他のまちづくり団体との連携を意識して推進され、多くの団体のホームページ作成を手がけてきた成果もあり、現在は100以上の団体と協力してまちづくりを推進することが可能となっている。このようなKAINの運営は、塩崎理事長、2名の副理事長、8名の理事により構成される理事会で決定される10名の理事はそれぞれが既存のまちづくり関連団体に属し、塩崎氏は理事を中心とする多様な団体の活動者との協働を前提に、新たな活動を企画したり、外部からプロジェクトや資金を呼び込む役割を担っている。KAINの3つのコネクト機能をみると、「プラットフォーム内コネクト機能」は、塩崎氏を中心に3人の専任職員が担い、実際の運営を担当している。「プラットフォーム間コネクト機能」は、塩崎氏を代表とする理事会メンバーが担い、「地域間コネクト機能」は塩崎氏が担う。

 

2.3 コネクタのタイプ

 以上の分析から、コネクト機能の組み合わせは図表3の5通りがあることがわかる。

図表3 コネクタのタイプとコネクト機能

 

各事例との対応は図表4の通りである。同じヒトであっても、基準とするプラットフォームにより機能が異なる点には留意したい。例えば柵氏は富山インターネット市民塾の立場ではタイプCのコネクタだが、他地域のインターネット市民塾にとってはタイプAのコネクタとなる。


図表4 事例分析(敬称略)

 

3.タイプ別のコネクト機能

 ここで、タイプ別のコネクト機能を整理し、5つのタイプのコネクタを、「メタ・コネクタ」タイプ、「プラットフォーム・デザイナ」タイプ、「コーディネータ」タイプ、「顔役(フィクサー)」タイプ、「マネージャ」タイプとする(図表5)。

図表5 コネクタのタイプ

 

3.1 メタ・コネクタ(タイプA)

タイプA「地域間コネクト機能」のみを持つコネクタで、固有のプラットフォームをもって、コネクタ同士をつなぐ機能をもつことから『メタ・コネクタ』とした。具体的な事例でみてみよう。

 

事例5 佐賀鳳雛塾と富山鳳雛塾の地域間連携

富山地域IX研究会運営委員の中川郁夫氏は、NPO鳳雛塾の飯盛副理事長(当時は鳳雛塾ファウンダー)と2002年5月に国際大学GLOCOM地域情報化研究会を通じて出逢った。鳳雛塾のケースメソッドという手法に興味を持った中川氏は、2003年3月に、飯盛氏を富山に招いてケースメソッドの授業(鳳雛塾)を開催した。授業を受講し、富山でも同様の取組を展開したい、と感じた臼井義比古氏(コンサルタント・現富山鳳雛塾事務局長兼専任講師)らが、以後ケースリードについて飯盛氏から指導を受けるとともに、富山で関係者を中心に数回の授業を開催し、2004年8月に富山鳳雛塾の開講に至った[6]

この事例では飯盛氏は「地域間コネクト機能」のみを持つ「メタ・コネクタ」として、中川氏を通じ富山に新しいプラットフォームをもたらした。

 

事例6 鹿児島建築市場[7]

鹿児島建築市場は、木造住宅建築の全ての工程を、インターネットを利用することにより透明化・共有化するプラットフォームである。1997年に株式会社ベンシステムの高橋寿美夫代表取締役社長がシステム開発に着手した。一部行政からの支援を受けつつ、銀行からの借入金をつぎこんで開発を続けたが、施主を含む関係者に資材費原価を公開する透明な情報共有システムを持ち込んだため、資材供給を断られるなど地元の業界から猛反発を受けた。そんな苦労が頂点に達した1999年、建築市場の理念に共鳴した早稲田大学アジア太平洋研究センターの椎野潤教授が大学に「建築市場研究会」を設置し、建築市場プラットフォームの理論的バックアップを展開。以後、ベンシステムによる建築市場システムの構築と、椎野教授による研究会運営を通じた建築市場の理論的サポートと全国への普及活動が同時並行で進められた。現在は、建築市場研究会を母体としながら、他地域への実際のシステム導入にあたっては、高橋社長が各地を飛び回り、講演、指導、建築市場協議会の立ち上げ、システム導入などに尽力している。

この事例では、椎野早稲田大学教授が「地域間コネクト機能」、高橋社長も他地域に建築市場プラットフォームを普及させる立場で同じく「地域間コネクト機能」を持つ。

 

このように、固有のプラットフォームを持って「地域間コネクト機能」を果たすヒトを、コネクタ同士をつなぐという意味で「メタ・コネクタ」と呼ぶ。先行研究でいえば弱い紐帯づくりの達人としてヒトをつないでいたGladwellのコネクタの機能に近いが、地域情報化のメタ・コネクタは固有のプラットフォームを持つ点、またプラットフォームを持つがゆえに、必ずしも弱い紐帯づくりの達人である必要はない点は、既存定義と異なる。

 

3.2 コーディネータ(タイプB)

 タイプBは地域情報化プラットフォームに登場した新しいタイプのコネクタである。本章では「コーディネータ」タイプのコネクタとする。最大の特徴は、「プラットフォーム間コネクト機能」をプラットフォーム構築段階で発揮することで、自身の持つ「地域間コネクト機能」を活かしつつ、既存の他のプラットフォームの活動者と連携しながらプラットフォームを構築する。プラットフォーム構築の過程そのものが協働のステップとなり、多様な主体のイニシアチブが発揮されることが最優先され、プラットフォームそのものの機能は常に変化する。

 例えば事例3では、小橋氏は自身のIT業界とのつながり(地域間コネクト機能)を活かして地域に新しいプラットフォーム(田舎tv)を構築するとともに、そのプラットフォームを活用しながら仲間の理事たちのイニシアチブ発揮の場をコーディネートする媒介役として機能した。事例4では、塩崎氏が自身の情報技術への関心と知識、外部とのつながりをもとに、10名の理事が属する既存まちづくり団体を端緒に、10数年に渡り他の団体との協働を推進した結果、現在は100以上の団体と協力して自立分散型でまちづくりを推進することが可能となった。塩崎氏は自身を「弱キャラ理事長」と評し、10名の理事に支えられつつ、多様な団体の活動者との協働を推進する媒介役を務めている。このように、プラットフォームの構築を固定されたリーダーが引っ張るのではなく、多くの主体のイニシアチブの連携をプラットフォーム構築の過程で実現するのが「コーディネータ」タイプのコネクタだ。既存研究の定義にはあてはまらない、新しいタイプのコネクタである。

 

3.3 プラットフォーム・デザイナ(タイプC)

タイプCは、「地域間コネクト機能」「プラットフォーム内コネクト機能」を併せ持つコネクタで、機能的には先行研究のゲート・キーパーやオピニオン・リーダーと同一の機能を持つ存在である。即ちプラットフォーム(先行研究では組織)の外から入手する情報を活用し、プラットフォームの設計、構築、運営を行う。このタイプのコネクタが外部から情報を仕入れ、プラットフォームを構築する段階では多様な主体の協働は発生せず、むしろ限られたコアメンバーのリーダーシップが求められる場合も多い。

ではタイプCは、「多様な主体間をつなぎ、協働を成立させる媒介役を果たす」コネクタではないのかというと、そうではない。例えばインターネット市民塾、鳳雛塾では、設計者の強いビジョンを反映し、構築したプラットフォームは、多様な主体のイニシアチブの発揮を誘発する仕組みを備えていた。即ちタイプCのコネクタは、プラットフォームそのものを「多様な主体間をつなぎ協働を成立させる」場としてデザインする。本章では、協働を誘発するプラットフォームをつくりこむ、このタイプのコネクタを「プラットフォーム・デザイナ」タイプのコネクタと呼びたい。

 

3.4 顔役(フィクサー)(タイプD)

 タイプDは既存プラットフォームのリーダーや、既存の複数プラットフォームを束ねる組織のリーダーが該当し、事例では「プラットフォーム・デザイナ」タイプのコネクタを支援する役割を担っていた。これを「顔役」タイプとする。顔役とは、「その土地や仲間の間で大きな勢力をもっていたり、名望のある人。実力者」(三省堂提供「大辞林 第二版」)で、「顔役」タイプのコネクタは、自身の持つ既存のネットワークを活用し、プラットフォーム間を調整し、新しいプラットフォームの構築、運営を円滑にする。丸田(2004)は、地域社会には場面に応じて適切な人材を地域内の人々に紹介してつなぎ合わせるヒトが存在し、従来はそれが表社会と裏社会をつなぐ「フィクサー」と呼ばれる黒幕的人物だったとする。現在は表社会の裏社会の区別は消失し、かわって地域内外の複数のプラットフォームが互いに連携することが可能となった。顔役はかつてフィクサーが黒幕的に担っていた機能を担い、新しいプラットフォームと既存プラットフォーム活動者の協働の媒介役を務める。

 

3.5 マネージャ(タイプE)

 「プラットフォーム内コネクト機能」を持つヒトは、プラットフォームにおいて、あるタスクを実現するために影響力(イニシアチブ)を発揮するリーダーである。ただし本章の分析事例では、タイプEはコーディネータタイプまたはプラットフォームデザイナタイプのコネクタを補佐する形で機能しており、タイプEのコネクタが単独で存在するプラットフォームはなかった。そこで本章では、その補佐的機能に着目し「マネージャ」タイプとする。

 

4.プラットフォーム設計とコネクタ

 前節の検討から、コネクタのタイプにより、設計されるプラットフォームは大きく2つに分類できる。「コーディネータ」タイプのコネクタが設計するプラットフォームと、「プラットフォーム・デザイナ」が設計し「メタ・コネクタ」が広げるプラットフォームである。本節では続いて、プラットフォーム設計とコネクタの関係について考えてみたい。

 

4.1 「コーディネータ」が設計するプラットフォーム

 「コーディネータ」タイプのコネクタは、既存プラットフォームの存在を前提とし、その中で情報技術を活用した新しいプラットフォームを構築する。「コーディネータ」タイプのコネクタに求められる機能は新しいプラットフォーム構築に関する知識や他地域のキーパーソンの情報を地域に持ち込むこと(地域間コネクト機能)、及び既存プラットフォームで活動する者を新しいプラットフォームに呼び込むこと(プラットフォーム間コネクト機能)であった。「コーディネータタイプ」のコネクタは、多様な主体を呼び込むことにより、既存プラットフォームの連携や、さらに別の新しいプラットフォームの構築を促す媒介役となる。

図表6 「コーディネータ」タイプのコネクの主要機能

 

 こうした活動の結果、例えば事例4のKAINでは、図表7に示す他プラットフォームとの連携による多様な事業、新たなプラットフォームの派生が起こっている。こうした多彩な事業を展開できるのは、「コーディネータ」タイプのコネクタが、多様な主体にイニシアチブ発揮の場を準備し、多くの人を巻き込みながら、事業を展開するからである。プラットフォームは参加者の活動により、常に形を変えて動いていく。

 

図表7 既存まちづくり団体との協働の成果

凡例:ABCDKAINからの他プラットフォームの派生

@〜DはKAINの主催事業、以外は他団体との協働事業

資料)KAIN提供資料

 

情報技術を活用したプラットフォームは、地域社会の既存プラットフォームの存在やそこでの活動者を前提として派生する経路依存性を持っており、既に地域で活動している多様な主体をつなぐことで、新たな活動が展開できる。また情報技術の活用により現場にいる人々がトップにいる人と同じ情報を持つことによりエンパワー(当事者の問題解決能力を高めること)され、その力の連携を通じた組織化モデルが実現する。そこでは、固定したリーダーが引っ張るのではなく、多くの主体のイニシアチブが共鳴し合いながらつながり連携し、その媒介役をコネクタが担う。

 これは地域情報化のプラットフォーム設計にあたり、推進者に求められる機能が、強いリーダーシップではなく、「コーディネータ」タイプのコネクタであればよいということを意味する。地域づくりには強いリーダーシップが必要不可欠といわれてきたが、コネクタでさえあればよい、という示唆は大いに励みになる考え方ではないだろうか。

 


4.2 「プラットフォーム・デザイナ」が設計し「メタ・コネクタ」が伝えるプラットフォーム

 

 「プラットフォーム・デザイナ」タイプのコネクタは、多様な主体をつなぎ協働を誘発するプラットフォームをデザインすることで、地域に多様な主体のイニシアチブ発揮の場を構築する。「コーディネータ」タイプのコネクタがプラットフォームの構築過程で協働を成立させ、多様な主体をつないできたのに対し、「プラットフォーム・デザイナ」はプラットフォームの設計そのものは少数のコアメンバーで行い、自身が設計したプラットフォームを活用することで多様な主体の協働を誘発する。

 従来ヒトが担ってきた協働の媒介機能を、プラットフォームが代替しているともいえ、そうしたプラットフォームの持つ機能が他地域から着目され、プラットフォーム・デザイナは他地域から請われる形でメタ・コネクタとして活動するようになる。例えば事例1(インターネット市民塾)の柵氏、事例2(鳳雛塾)の飯盛氏は、当該地域では「プラットフォーム・デザイナ」、他地域に対しては「メタ・コネクタ」として機能していた(図表4)。2005年末段階でこのような形で伝達されるプラットフォームは「同じ名称を冠して他地域に普及しているプラットフォーム」が多く、前述の2つのプラットフォームの他には建築市場、住民ディレクター、日本型ネットデイが該当する。いわばプラットフォームがヒトを呼ぶ構図が生じており、これが第3節で述べたメタ・コネクタが弱い紐帯づくりの専門家である必要はない理由でもある。

プラットフォームの導入地域からみれば、適切なプラットフォームを見つけ出すことができれば、プラットフォーム(仕掛け)そのものの助けを借りて、地域に協働の場を創出することができる。またプラットフォーム・デザイナであるコネクタの支援を受けることも可能だ。

このようにプラットフォーム・デザイナでありメタ・コネクタでもあるコネクタの存在と彼らの持つプラットフォームは、プラットフォームの設計の観点から、非常に魅力的なものである。

図表8 プラットフォームの他地域への普及状況(2005年11月現在

出所)各団体ヒアリング、各団体ホームページ、CANフォーラムホームページ

5.おわりに

 これまでに、地域情報化のプラットフォームを活用しながら『多様な主体間をつなぎ、協働を成立させる媒介役を果たす「ヒト」』、コネクタの機能について検討してきた。

 コネクタは、従来の階層的、統制的な組織化に対し、エンパワーされた主体の力の連携を通じた組織化モデルを実現する役割を担う。こうした自律分散的な組織化を導くコネクタは、プラットフォームの設計を行ううえでも、非常に重要な役割を果たすことも明らかとなった。

筆者がコネクタに着目する最大の理由は、強いリーダーシップや弱い紐帯(人脈)づくりの専門家であるなどの特別な資質を持たずとも、誰でもがコネクタとして、あるいはコネクタの力を借りて、情報技術を活用した地域活性化の取り組みが可能だからである。

「コーディネータ」タイプのコネクタであれば、強いリーダーシップがなくとも、既存プラットフォームの活動者との連携により多様な主体にイニシアチブ発揮の場を用意することで、地域に新しい活動を生み出すことができる。あるいは「プラットフォーム・デザイナ」兼「メタ・コネクタ」と彼らの持つプラットフォームの機能を借り、地域に新しい協働の場を創出することもできる。これはゼロからプラットフォームを構築する作業に比べれば遙かにハードルが低い。

即ち地域情報化のプラットフォームとコネクタは、どのような地域でも情報化を活用した地域活性化プロジェクトを成功させることができる道具とヒトである。

多くの方々が自身が「コーディネータ」タイプのコネクタとして活躍したり、あるいは「メタ・コネクタ」の力と彼らの持つプラットフォームの力を借りることにより、協働を誘発するプラットフォームの設計や導入による豊かな地域づくりが進展することを願うものである。

 

そして今後は、コネクタの活動をより活性化するため、「同種・異種のコネクタの情報交流基盤」の構築が必要だ。既に市民塾ユニオンや建築市場研究会など同種プラットフォームの情報交流基盤も多数組織されている。さらに異種のプラットフォームに関する情報交流を行う場も必要である。例えば筆者を含め、本著の多くの執筆者が参加する「CANフォーラム」(公文俊平名誉会長、國領二郎会長)[8]が、コネクタたちの情報交流拠点として機能してきた。また、自治体職員を中心とした「地域メディア研究会」(代表:平本一雄東京工科大学教授)[9]なども、自治体職員を中心に多くの地域のコネクタを巻き込みながら活発な活動を展開している。

 コネクタの機能を担う地域情報化推進者の方々、あるいはその予備軍の方々には、こうした情報交流基盤への積極的な参加を喚起したい。

 

またこれまでは、ヒトが実際に移動することによりコネクタには欠かせない「地域間コネクト機能」を果たしてきた。結果プラットフォームの地域間連携なども進展してきたが、ヒトが移動することには時間、経費的な問題も大きい。今後は、情報技術を活用し、ヒトの移動に変わる地域間コネクト機能を持つ「メタ・プラットフォーム」の構築を考えていきたい。例えばCANフォーラムでは、住民ディレクター活動を展開する()プリズムの岸本氏と組み、2004年度より日本最大のIT見本市CEATECに、「ユビキタス村TV[10]を出展し、各地の地域情報化のプラットフォームを、インターネット放送という、いわばメタ・プラットフォーム上でつなぐ動きを展開している。コネクト機能の一形態として、こうした新たなプラットフォームの構築にも取り組んでいきたいと考えている。

 

  以上、コネクタがプラットフォーム設計に果たす役割と今後の可能性について論じてきた。本稿が各地で活動を展開する際の一助となれば幸いである。

 

参考文献

Allen,T.J., ”Managing the Flow of Thecnology”,The Massachusetts Institute of Technology,1979.(邦訳:中村信夫、『“技術の流れ”管理法 研究開発のコミュニケーション』、開発社、1984.

 

Barabasi,A.L.,”LINKED:The New Science of Networks”, Perseus Books Group,2002.(邦訳:青木薫、『新ネットワーク思考 〜世界のしくみを読み解く』、NHK

 

Gladwell,M.,”The Tipping Point”,Little Brown,2000.,(邦訳:高橋啓、『ティッピング・ポイント』(のち『なぜあの商品は急に売れ出したのか』に改題)、飛鳥新社、2000.)

 

Rogers.E.M.,”Diffusion of Innovations:Third Edition”,The Free Press,1982.,(邦訳:青池慎一、宇野善康監訳、『イノベーション普及学』、産能大学出版部、1990.)

 

今井賢一・國領二郎編著、『プラットフォーム・ビジネス』、 情報通信総合研究所、1994

 

金井壽宏、『リーダーシップ入門』、日本経済新聞社、2005.

 

高橋伸夫編、『超企業・組織論』、有斐閣、2000.

 

淵上克義、『リーダーシップの社会心理学』、ナカニシヤ出版、2002.

 

丸田一、『地域情報化の最前線』、岩波書店、2004年.

 



[1] 今井・國領(1994)

[2] 本事例は、事務局長の柵富雄氏へのインタビューとともに、坪田知己「第4 市民の知識をネットで顕在化〜富山インターネット市民塾〜」、日経デジタルコア・CANフォーラム共同企画『地域情報化の現場から』<http://www.nikkei.co.jp/digitalcore/local/04/index.html>、2003年、丸田一『地域情報化の最前線』岩波書店、2004年、p114126http://toyama.shiminjuku.com/general/home/index.html(市民塾ホームページ)を参照。

[3] 本事例は、NPO鳳雛塾副理事長飯盛義徳氏へのインタビューとともに、本書第8章、重森泰平「第5 佐賀の産学官共同ビジネススクール〜鳳雛塾の挑戦〜」日経デジタルコア・CANフォーラム共同企画『地域情報化の現場から』<http://www.nikkei.co.jp/digitalcore/local/05/index.html>、2003年、丸田一『地域情報化の最前線』岩波書店、2004年、p127139http://www.digicomm.co.jp/sagaventure/(鳳雛塾ホームページ)を参照。

[4] シフトアップかすがを母体に、2005年9月に特定非営利活動法人情報社会生活研究所が設立され、シフトアップかすがは同研究所の一プロジェクトという位置づけとなった。本事例は、小橋昭彦氏へのインタビュー及び情報社会生活研究所ホームページhttp://shiftup.jp/等を参照。

[5] 本事例は、KAIN理事長塩崎泰雄氏へのインタビューとともに、http://www.npokiryu.jp/KAINホームページ)より作成した。

[6] 詳細は拙稿参照。http://www.ufji.co.jp/region/topics/group-C/before/index.html

[7] 本事例は拙稿、慶應義塾大学ケース論文「鹿児島建築市場と()ベンシステム」より作成したhttp://case.sfc.keio.ac.jp/cases/20040006kagoshima.pdf

[8] http://www.can.or.jp

[9] http://www.cvm.or.jp/scm/

[10] http://www.can.or.jp/ceatec/