2006年度 森泰吉郎記念研究振興基金 成果報告書

リアルな質感を有する3次元モデル生成の研究
森田正彦
慶応義塾大学 政策・メディア研究科 博士後期課程3年


1. はじめに 2. 透過率・拡散率の測定 3. 内部構造を有する新コンテンツの開発 4. おわりに

1. はじめに

近年、3次元画像計測技術の向上に伴い、高精度な3次元形状計測と色情報の取得を可能とした製品が普及しつつある。今後、これらの製品を用いることで誰もが手軽に3次元モデルの作成および利用が可能になると予想できる。このような3次元画像計測の現状から次世代の3次元画像計測に要求される要素を考えた場合、”リアルな質感を表現するための情報の取得”ということがあげられる。そこで下記項目について研究を行った。



2. 透過率・拡散率の測定

2.1. 透過率とは、入射した光を物体が吸収する比率をあらわしたものである。半透明物体の色をd=[dR, dG, dB]T、半透明物体の各色成分の透過率をa=[aR, aG, aB]T、背景像の色ω=[ωR, ωG, ωB]Tを、背景像をバックに半透明物体を見た際の色をψ=[ψR, ψG, ψB]Tとした場合、ψ,ω,d,aには次式の関係がある。

ψ = ( I - a [1,1,1] I )  + a ω.  (1)

ここでI は単位行列を表す。

物体の透過率を測定する透過率計についてはJISの全光線補償法に規則が詳細に定められており、それに則ったさまざまな製品が販売されている。しかしながら、これらの製品が対象とするのは、レンズ、フィルタ、ガラス、ガラス基盤シリコンウェハなどの人工物であり、さまざまな物質が複雑に混ざり合った半透明物体の透過率を画像の画素ごとに測定するといった用途に利用することは難しい。そこで、画像から式(1)を利用することで画素ごとの透過率を簡易的に測定する手法を提案した。

本手法を用いることで、昆虫の羽根などといった複雑な自然物の透過率を取得することが可能となった。

2.2. 本研究が扱う拡散率とは、例えば印刷された用紙の上に無地の用紙を重ねて置いた際に、印刷された文字が無地の紙に写りこむような現象のことを言う。この拡散率には下図に示すように、距離に応じてボケ率が増加するといった特性がある。

具体的な測定手法は下記PDFファイルに記載する。



3. 内部構造を有する新コンテンツの開発

X線CT(Computed Tomography)は実物体の内部構造を含む形状計測が可能であるため,医療においては患部の発見に,製造業においては欠陥品の発見,実物体からのCAD図面生成等に応用されている.X線CTは照射したX線の吸収量を輝度値としたボリュームデータを取得する.X線CTを3次元形状計測として捉えると,鉛のような物質を含んだ被写体を除けば死角無く形状計測を行え,かつ内部構造までをも取得可能な優れた装置であるといえる.しかしながら,色情報を取得することは一切不可能であり,また一般の3次元画像計測装置によって取得されるデータに比べて空間分解能が極端に低いといった問題もある.

近年, 3次元形状計測およびIBMR(Image-based modeling and rendering)技術の進歩により, 実画像から高精度の形状計測と高精細なテクスチャ生成が可能となってきた. そこで本研究では,他の3次元画像計測装置によって取得された高精細なテクスチャをX線CTによって取得されたボリュームデータに適用するための実験を行った.

実際に開発した新コンテンツのスクリーンショットを下図に示す。

具体的な測定手法は下記PDFファイルに記載する。



4. おわりに

半透明物体の透過率・拡散率の測定は、2004年度の段階でほぼ完成していたが、論文投稿の際、現象との関係性について矛盾を指摘されたため、再度のモデル化を行った。具体的には、従来光線モデルとして透過・拡散を定義したものを、光束を軸に光度、照度、輝度で再定義することで実際の物理現象に沿ったモデル化を行った。

透過率・拡散率の測定については電子情報通信学会・和文論文誌(D)に条件付採録の判定を受けている。

内部構造を有する新コンテンツでは、今後装置開発等共同研究の可能性を模索中である。