2006年度 森基金 研究成果報告

本プロジェクトの背景および目的

本研究では,本塾の各キャンパス内に散在するする多様な学 問領域のマルチメディア知識情報源を対象とし,授業に関連する情報資源を自 動的に配信するアクティブマルチデータベースシステムを実現する.これによ り,授業履修者は,授業に関連する情報をモバイル端末から自動的に取得する ことが可能となる.本塾が擁する大量の情報資源は,ユーザからの問い合わせ 要求などに応じて駆動する,受動的なシステム上に蓄積されている.日々増加 し続ける情報資源の変化を履修者が把握し続けることは困難であり,また,学 習過程にある履修者は学問領域の詳細な情報を持たないため,自身がその存在 を知らない情報については一切探そうとしない傾向がある.そのため,既存の システム上に蓄積された情報資源は,死蔵されていく恐れがある.本研究では, アクティブマルチデータベースを応用することで,自動的・能動的に履修者の 情報獲得を支援する仕組みを有する電子教材を実現する.

本研究の目的は,インターネット上に散在するマルチメディア情報資源を対 象として,自動的な情報配信などの,能動的な振る舞いを有するアプリケーショ ンの開発・実行基盤となる,アクティブ・データベースシステムを提案するこ とにある.アクティブ・データベースでは,アプリケーションの能動的な振る 舞いを,ルールとして定義する.これを,アクティブ・ルールと呼ぶ.アクティ ブ・ルールの最も一般的なモデルとして,Event-Condition-Action(ECA)モデル が提案されてきた.ECAモデルでは,事象の発生(イベント),状況判定(コン ディション),状況成立時の振る舞い(アクション)をルールとして事前に定 義しておき,情報資源環境の様々な状況変化に反応するものである.本研究で は,このECAモデルを拡張し,インターネットのようなグローバル・ネットワー クを対象にしたアクティブデータベース処理を可能にする,新たなECAルールモ デル,及び,その実行環境を提案する.さらに,ここで新たに実現するアクティ ブ・ルールシステムは,インターネット上のサービスを,ルールを用いて連携・ 統合する機能を有する.これにより,自動的・自律的なアプリケーションを容 易に開発可能とする,能動的なアプリケーション・プラットフォームを提供す る事が可能となる.

2006年度の活動報告

背景

広域ネットワークに連結された独立なデータベース群を対象 とした検索・統合機構の実現によって,それらのデータベース群の利用価値は 飛躍的に増大する.このシステムをマルチデータベースシステムと総称する. 我々は,これまでの研究において,マルチデータベースシステムの実現方式に ついて示してきた(文献4,5).本塾が擁する大量の情報資源は,ユーザから の問い合わせ要求などに応じて駆動する,受動的なシステム上に蓄積されてい る.日々増加し続ける情報資源の変化を履修者が把握し続けることは困難であ り,また,学習過程にある履修者は学問領域の詳細な情報を持たないため,自 身がその存在を知らない情報については一切探そうとしない傾向がある.その ため,既存のシステム上に蓄積された情報資源は,死蔵されていく恐れがある. しかしながら,様々なインターネット・アプリケーションに対して,ユーザか らの明示的な要求によらない能動的な振る舞いの実装は,データの監視,条件 の評価方式,データ管理方法など,アプリケーションが有する諸機能に横断的 な変更を要求するため,決してトリビアルなタスクではない.これまで,デー タベースの検索,更新などといったイベントに反応して,別の検索,更新など といったアクションを起動するイベント駆動型のデータベースシステムとして, アクティブデータベースシステムが提案され,利用されてきた.しかし,従来 のアクティブデータベースシステムは,単一のデータベースに閉じて運用され ることを前提に設計されており,広域ネットワーク環境における能動的な振る 舞いを実現することは困難であった.全塾に適用可能な電子教材を効率的に開 発するためには,能動的な振る舞いを有するアプリケーションの開発・実行基 盤となる新たなアクティブデータベースシステムの実現が肝要である.

マルチメディア・データベース・サーチエンジン技術による能動的な研究資料検索・分析・配信機能の実現

本プロジェクトでは,本塾の各キャンパス内に散在するする 多様な学問領域のマルチメディア知識情報源を対象とし,研究開発にに関連す る情報資源を自動的に配信するアクティブマルチデータベースシステムを実現 した.また、アクティブマルチデータベース技術の応用により,自動的・能動 的に履修者の情報獲得を支援する仕組みを有する電子教材を実現した.これに より,授業履修者は,授業に関連する情報をモバイル端末から自動的に取得す ることが可能となった.

本プロジェクトでは、(a) モバイル計算機環境を利用することによって,授 業に関連する知識情報源を対象として履修者が興味を持ちうる情報を自動的に 発見・通知するためのシステム・アーキテクチャの実現、および、(b) マルチ メディア・データベース・サーチエンジン技術をマルチデータベースシステム において統合するためのシステム・アーキテクチャの実現を行った。

本プロジェクトの成果として特筆すべきは、実際に利用可能な教材配信シス テム(下記図参照)を実装した点である。本システムはJavaにより構築され、 SFCのような異機種混在環境における教材の自動配信・管理、さらには、レポー トの執筆および提出をサポートすることが可能である。具体的には、以下の4項 目を実行した。

  1. マルチメディア情報を対象にしたアクティブデータベースシステム技術の 実現: 教材は単純なテキスト情報ではなく,画像や音楽などのマルチメディ ア情報を含んでいるため,それらを意味的に検索・発見し,履修者に通知 可能なアクティブデータベースシステムを実現した.
  2. 電子教材コンテンツの開発: 「マルチメディア知識ベース構築論」の授 業内容を,能動的な形態で配信可能な形式に変換し,さらに,利用者のモ バイル端末で閲覧可能にするためのデータとして再編成した.
  3. 理解度別の教材配信ルールの開発: 履修者の理解度別に,提供する情報 を変えることで,きめ細かい教材の利用が可能となる.そのために,教材 を理解度別に配信するアクティブ・ルールを設計・実装した.
  4. 実験システムによる評価: この段階は,(1),(2),(3) において実現した 機構をアクティブ・マルチデータベースシステムとして連結し,塾内に散 在する知識情報を対象とした能動的な情報配信の精度,および,システム のスケーラビリティに関する実験を行い,その有効性を検証した.
実働システムのスクリーンショット
実働システムのスクリーンショット

学術的な成果

  1. S. Kurabayashi and Y. Kiyoki. An Adaptive Active Rule System for Automatic Service Discovery and Cooperation. In Proceedings of the 24th IASTED International Conference on Applied Informatics, 2006, 115—122.
  2. S. Imai, S. Kurabayashi, A. Ijichi, and Y. Kiyoki: A Music Retrieval System Supporting Intuitive Visualization by the Color Sense of Tonality. In Proceedings of the 24th IASTED International Conference on Applied Informatics, 2006, 153—159.
  3. 倉林修一, 清木康: "ECAルール・メタプログラミング機構を有するアクティ ブデータベースシステムの実現", 日本データベース学会論文誌DBSJ Letters Vol.5, No.3, pp.5-8, 2007.

参考文献

  1. K.R. Dittrich, S. Gatziu and A. Geppert. The Active Database Management System Manifesto: A Rulebase of ADBMS Features. Springer-Verlag, 1995, pp.101—115.
  2. J. Widom and S.Ceri. Active Database Systems: Triggers and Rules for Advanced Database Processing. Morgan Kaufmann, 1996.
  3. G.Bultzingsloewen, A.Koschel, P.C.Lockemann and H.Walter, ECA Functionality in a Distributed Environment. in Active Rules in Database Systems Book, Springer-Verlag, 1999, 147—175.
  4. S. Kurabayashi and Y. Kiyoki. An Active Multidatabase System Architecture with an Aspect-Oriented Media Modelling Framework. Information Modelling and Knowledge Bases Vol.XVI, IOS Press, 2004, 89—106.
  5. S. Kurabayashi and Y. Kiyoki. Aspect-ARM: An Aspect-Oriented Active Rule System for Heterogeneous Multimedia Information. The Fifth International Conference on Web Information Systems Engineering (WISE2004), Springer-Verlag, 2004, 659—667.
  6. S. Kurabayashi and Y. Kiyoki. An Adaptive Active Rule System for Automatic Service Discovery and Cooperation. In Proceedings of the 24th IASTED International Conference on Applied Informatics, 2006, 115—122.
  7. N. Miura, S. Kurabayashi, and Y. Kiyoki: "An Automatic Extraction Method of Time-Series Impression-Metadata for Color Information of Video Streams". International Special Workshop on Databases For Next Generation Researchers (SWOD2005) in conjunction with ICDE2005, 2005, 54—57.
  8. S. Imai, S. Kurabayashi, A. Ijichi, and Y. Kiyoki: "A Music Retrieval System Supporting Intuitive Visualization by the Color Sense of Tonality". In Proceedings of the 24th IASTED International Conference on Applied Informatics, 2006, 153—159.
  9. 倉林修一, 清木康: "ECAルール・メタプログラミング機構を有するアクティ ブデータベースシステムの実現", 日本データベース学会論文誌DBSJ Letters Vol.5, No.3, pp.5-8, 2007.