2006年度森基金報告書
政策・メディア研究科博士課程2年 元木 悠子
地球温暖化問題が顕在化するにともない、地方政府による再生可能エネルギーの普及や省エネルギーの取組みが求められている。本研究ではMARKALモデルを用いて、八戸市を対象とする地域レベルのエネルギー需給モデルを構築する。これにより、2030年にかけての中期的な地域のエネルギー需給が概観できるともに、再生可能エネルギーの地域での導入可能性やエネルギー効率の向上の可能性などを、検討することができる。
本研究では、エネルギーシステムの最適化分析モデルMARKAL(Market Allocation)を用いて分析を行なった。MARKALは、国際エネルギー機関（IEA)の国際協調プログラムETSAP(Energy
TEchnology Systems Analysis Program)のもとに開発が進められ、汎用化、長期、そしてボトムアップ型にモデルの特徴がある。本研究では、日本原子力研究所（現日本原子力研究開発機構）が維持・管理する日本版MARKALモデルをもとに地域版を試行的に構築した。MARKALでは、入力情報（将来見通し、エネルギーシステムの構成、エネルギー技術特性など）および制約条件（CO2年間排出量、システム制約など）を与え、システム総コストの最小化を目的関数とする線形計画法により最適化をはかり、得られた出力情報（エネルギー需給構成、技術導入量、システムコストなど）に考察を加えるものである。はじめにRES（基準エネルギーシステム）を構築し、次に各種の分析ケースを実行し、必要に応じてケース間の比較分析を行なう。
3. 得られた成果
１） 八戸MARKALモデル基準エネルギーシステムの作成及び分析
分析フレームを下記のとおり設定し基準エネルギーシステムを構築した。
・期間： 2000（基準年）-2030年 （5年毎、7区間）
・時間区分： 3季節×昼夜
・基本単位： TJ、GW、kt-CO2、円
・エネルギーサービス需要： 経済成長率・人口・世帯数・産業構造変化等により決定（外生的に与える）
・環境負荷因子： 二酸化炭素のみ（燃料・エネルギーの入手段階で計量）
・構成要素： エネルギー種（13）、エネルギーキャリア（25）、エネルギー技術（20）、需要部門（5）
分析結果の一部は巻末資料[4]を参照のこと。
２） 八戸MARKALモデル代替ケース（CO2削減ケース）の設定及び分析
既存計画・ビジョンで掲げられた省エネ・再生可能エネルギー目標量をモデルに反映させた代替分析ケースを構築した。
・エネルギー削減目標１： 2005年から10年までに各部門のエネルギー消費を5.6%削減
・同２： 2000年から2030年までに産業部門8.8%、民生部門25.8%、運輸部門42%削減
・再生可能エネルギー導入目標： 2000年から10年までに最終消費に占める再生可能エネルギー量を6%とする
・同２： 2010年導入目標に相当する追加的技術を考慮（洋上風力発電、太陽光発電、廃棄物発電、民間コージェネレーション、太陽熱など）
分析結果の一部は巻末資料[4]を参照のこと。
１） 基準エネルギーシステムを構築することによって、八戸市の将来にわたっての最終エネルギー消費量と構成、一次エネルギー供給量と構成、二酸化炭素の排出量の推移などを把握した。ここから、自治体が定めた削減計画（目標）とあり得べき排出動向には乖離があることが分かった。また代替ケースで示された一次エネルギー供給構成からは、既存の目標等を実現するためには、今後いかに多くの再生可能エネルギーを自治体が継続的に導入していかなければならないかを示すことができた。
２） 以上より、地域レベル（とくに市町村レベル）でエネルギー分野の取組みを促していくには地域レベルのエネルギー需給計画を成熟化させていく必要がある。その際、欧州で先行しているALEP(Advanced
Local Energy Plannning)の考え方――地域のステイクホルダー関与のもと、�｜楼茲僚�課題・政策的課題を発掘し、�▲瓮ぅ鵐好織妊�ー（MARKALモデルなど需給をつなぎ合わせたモデル分析の実施）で各種シナリオ分析を行ない、��モニタリング・フォローアップする――などを参考にするのがよい。
３） 今後の研究課題としては、地域版MARKALモデルを発展させる、具体的には、需要部門（とくに運輸部門）をより細分化し、エネルギーサービス需要の与え方を工夫するとともに、E3やBDFなど供給技術（Conversion
Technology）の特性データを更新する。そしてこの考え方を、実際のケース（八戸市、葛巻町、東京都）で展開する。これらを通じて地域エネルギー計画のあるべき一つの方策を構築し、自治体の政策関係者などに発信していく。
[1]後藤純孝・佐藤治・田所啓弘(1999)『我が国の長期エネルギーシステムのモデル化』日本原子力研究所．
[2]ALEP-Advanced Local Energy Planning, (2002) Available at http://www.jea-alep.pz.crn.it
なお、本研究で得られた成果の一部は2006年11月15日、つくば市（エポカルつくば）で開かれた「第7回エコバランス国際会議」(C4-6)で報告した。
The 7th International Conference on EcoBalance http://www.sntt.or.jp/ecobalance7/2nd/index.html
以下の二つのファイルは当該会議への参加にともない筆者が作成した資料である。
[3] Motoki Y., Kosaka H., A Study on Local Energy Planning for Hachinohe
City, Proceedings of the 7th International Conference on EcoBalance, P.351-352,
2006.
[4] Presentation PDF(当日プレゼンテーション資料)