要保護年長児童を生み出す要因と支援方法に関する研究−自立援助ホームを事例に−

政策・メディア研究科 修士課程1年
谷 明日美

概要

 今年度は修士論文に向けた基礎調査と位置づけ研究を進めた。研究対象を「要保護年長児童」と設定、彼ら・彼女らを支援する自立援助ホームの支援方法に着目した。しかし、自立援助ホームは長い期間、児童福祉法外のボランティア活動として行なわれており、法制度後も第二種社会福祉事業の位置づけで他の児童福祉施設とは異なって、全国的な統計調査が行われておらず、また関連文献も少ない。そのため、ヒアリング・全国大会への参加を通して、全体像(現状や近年の傾向等)の把握、研究視点の形成に努めた。

背景

高学歴化や仕事形態の変容に伴い、若者の独り立ちする年齢が一般的に高くなる一方、なんらかの理由で家庭にいられず、中学卒業後に働かざるを得ない「強いられた自立」の状況にいる若者がいる。「強いられた自立」とは、本人に十分な意欲と能力が備わっているか否かに関わらず、家族も含め他の援助を受けることができない状況で自立を強いられた状況をさす。 被虐待児、家庭崩壊、少年院退院、ドメスティックバイオレンスなど背景は多様であり、軽度の精神障害やリストカットなどの自傷行為癖を持つ子もおり、すぐに自立できず、非行やひきこもりになるケースも多い。しかし、これらの若者の行政・政策的支援の根拠となる法律は、児童福祉法・少年法・DV保護法など個別分散している。年長児童で義務教育を終了し、働くべき状況にある子どもは、養護・保護の対象にはならい場合もあり、行政的支援が受けられないモレた状況下にあると言える。このような行政的支援からモレた子どもを受け止める社会的資源は不足しており、更なる自立支援の充実が必要である。

研究対象:自立援助ホーム

本研究では、「強いられた自立」の状況にあり、何らかの支援を受けなくては生活ができない15歳以上の若者を「要保護年長児童」と呼ぶ。このような若者15〜20歳に暮らしの場を与え必要があれば支援を行なう施設「自立援助ホーム」に着目する。
自立援助ホームは、1950年後半に必要性を感じた人たちのボランティア活動としてはじまり、1997年に児童福祉法で「児童自立生活援助事業」と位置づけられるまで、法外活動として行なわれていた。また「自立援助ホーム」という名称は、1984年に東京都が補助金を交付するために要綱を作成した際に用いたことがきっかけとなっている。現在は児童福祉法上の「児童居宅生活支援事業」の一類型と位置づけられているが、第二種社会福祉事業であり、第一種である児童福祉施設と異なり、運営や支援方法に制限はほとんどなく、支援の具体的内容は施設に委ねられている。当初は義務教育を終了後、進学せず、児童福祉法上、児童養護施設を退所せざるを得なくなった子どものアフターケアとして位置づけられていたが、近年は施設経験者のみならず、少年院退院後の身元引き受けや補導委託などDV被害者など入所背景・経路は多様である。

研究目的

@要保護年長児童が生じる要因・現状を分析し、現行の法制度・行政施策の課題を明らかにする。

A自立援助ホームでの活動を構造化し、要保護年長児童に必要な支援方法を考察する。

調査視点

【要保護年長児童を生み出す要因】

文献資料・統計データ・先行研究・ヒアリングにより、以下の点を明らかにした。(これらをもとに再度設計し、今後、アンケート調査もしくはインタビューを実施する予定)

・現行の行政施策の限界は何か。
・自立援助ホームに利用する経路はどのような流れか
・自立援助ホームを利用者の利用までの成長過程において抱える問題は何か。

【支援方法】

ボランティアとして参与観察を行い、以下の点を明らかにする。(現在継続中)

・職員と入居者の関係。
何を話し、どう共に生活するのか
・入居者同士の関係。
どのように同じホームで生活をするのか。
・退所までの流れと、その後関わり方。

今年度の活動

@統計調査を利用し現状の把握
 社会的養護児(児童福祉施設・里親のもとで生活する子ども)・国内児童福祉施設の現状(受け入れ人数及び施設件数・立地等)・児童相談所の相談処理内容の状況・年次推移を把握し、現状把握を行なった。

A自立援助ホームのヒアリング(4件)
比較的長く活動を行なっている自立援助ホームに、運営方法(組織面)と支援方法(子どもへの支援サービス)の2点からヒアリングを行なった

B全国自立援助ホーム連絡協議会大阪大会への参加
 全国の自立援助ホームの関係者が集まる会議に参加し、全国のホームが抱える問題点の把握を行なった。

C宿直ボランティア(参与観察)
上記@・A・Bをもとに、研究視点を設定。宿直ボランティアの参与観察を2月より開始。