研究課題 都市における水環境の再生とインタラクティブデザイン

政策・メディア研究科修士課程1年 石川幹子研究会 椎木空海


研究の課題

玉川上水の水環境と緑地の現況
玉川上水の水環境と緑地の現況

都市における自然環境再生は21世紀のテーマである。本研究は、江戸の玉川上水を中心とした水環境に着目し、 役割と環境の変化を分析し、現在の玉川上水が、都市の水循環回復にどの様に寄与するかプロトタイプを示すことを目的とする。 23区では、近代化で水源が失われ、水循環が機能せず、転用地は道路として街を分断し、水で結びついていた緑地が孤立している。 この玉川上水の本質的な問題点が現れている新宿御苑周辺は、渋谷川の源流であり、上水の歴史に大切な場所であり、インフラ整備 で街が更新される。駅と御苑を結ぶ地域で、人々と都市・水環境がどのようなインターフェースをもつ事が可能か、インタラクティブデザイ ンを用い、提案を行う。



インタラクティブデザインと研究の目的

水環境の復活へ向け、ステークホルダーや住民が、環境を知覚する仕組み(ツール)をつくり、これらの関係者と、 緑・水・都市の環境の情報を共有して(メソッド)、具体的なデザイン(アクション)を進めることをインタラクティブデザインと定義する。 御苑100周年の 2006年、玉川上水を新しい都市環境基盤として創出する。水源を得ると、玉川上水が抱える緑地との関係性から、 都市の水環境の再生に繋がる。地球環境回復の時代、健全な「都市の水環境」の価値をステークホルダーと共有し、デザインすることが、 その後の仕組みを含めた、成長し続ける都市基盤創出につながると考える。



研究のフロー
フロー

T ステークホルダーの発想のぶつけ合いをワークショップによって実現する。
U 暗黙知としての社会の認識・要望をアンケート・イベントによってひきだす。
V 人と組織の知を活かす戦略をねり、実現プログラムを作成する。



新宿御苑への玉川上水復活の経緯
玉川上水全体図

玉川上水の現況

羽村から大木戸を貫く玉川上水は、43km中、29.8%が見えない上水で、その95.4%が23区内にある。 暗渠の土地利用を詳細に眺めると、緑道や公園など今すぐ開渠可能な空間が8km存在することがフィールドワークより分かった。 御苑は、玉川上水と余水吐け(渋谷川の源流)の接点である甲州街道四谷大木戸の水源林であり、上水から江戸市中へ水を配する重要な場所である。 大正末の都市化に伴い、上水は埋め立てられた。1986年、その土地に建設予定だった放射5号線の事業化に際し、復活への住民運動が起こり、 御苑100周年の節目に再び取り上げられている。



T ステークホルダーの発想のぶつけ合いをワークショップによって実現する。

プロジェクト

シンポジウム・ワークショップ・検討会

玉川上水復活検討委員会は、学識経験者・地域住民・NPO団体・行政関係機関(環境省・東京都・新宿区・渋谷区)が参加し、 デザインから維持管理まで、共同体制による実現を模索している。
実現へ向けて、新宿御苑周辺の水源の調査をし、都市の真っ只中ではあるが、武蔵野湧水の名残の湿地、地下水、 落合と多摩の処理場からの再生水、水源林の御苑と併せた周辺の雨水涵養、多摩川からの導水と、多くの水資源が存在することが明らかになった。 水源・ルート・排水先の組合せ、3パターンを想定し、生態系・アクティビティ・水循環から評価を行った。その結果、自然環境再生型が、 最もポテンシャルが高い。尾根の玉川上水から、A〕新宿のメインストリートの交差点で一つ目の分水をし、寺から湿地を構成し、上の池の谷へ流れる水と、 B〕大木戸から玉藻池の水質を改善し、余水吐けの谷へ流れる水により、渋谷川を再生する。水源は、測地的な雨水涵養を御苑の集水エリアで行い、 一日1000m3の水が得られる。環境維持用水としての合意のもと、都民が水道水を10%節約すると、更に多摩川から85000m3の水が確保できる。

新宿関係図2

この時期に、住民や地元商店街の皆様と玉川上水についてのワークショップを行う機会があり、玉川上水を問い直し、他の河川や水際空間と比較や、 新宿らしい玉川上水について議論を行った。原風景の復活と、水番NPOの発足、そして具体的な上水空間のイメージを共有した。 同時に、御苑の散策路のみならず、御苑へアプローチするメインストリート(国道事務所・新宿区・東京都の所有地)へも、上水空間をひろげ、 街と一体となったにぎわいの空間のアイディアが、商店街から出された。国土交通省を含む新しい組織の発生にもつながった。 その他にも、周辺で南口再開発のインフラ整備に伴うまちづくりの“場”が多数あるが、玉川上水復活プロジェクトはその核となり得る。

新宿関係図
ステークホルダーとプロジェクトの関係



U 暗黙知としての社会の認識・要望をイベントによってひきだす。

プロジェクト
新宿御苑における「玉川上水復活に向けて」のイベント

新宿御苑100周年記念イベントの一環として、「玉川上水復活に向けて」のイベントを行った。玉川上水の全体像や、 都市環境における緑と水の意義を、御苑内の展示やウォークラリーのイベントにより伝えた。ユビキタス環境デバイスを 利用した実験で、実際に参加者にデバイスを活用し環境変化を体験してもらった。情報として提供した新宿御苑と都 市のエッジに玉川上水が開かれる価値を、地域住民や訪問者と共感することができた。

新宿御苑におけるアンケート

アンケート調査では1】南口として意識するランドマーク、2】散策路として好ましい空間、 3】玉川上水復活の賛否、 4】玉川上水に望む効果、の結果より、南口のランドマークは現在、商業地域であり、都市と玉川上水の環境の融 合の風景への要望が高いことが分かった。



V 人と組織の知を活かす戦略をねり、実現プログラムを作成する。

玉川上水を復活し、潤いのあるストリートをつくるという理念は、関係者に共通のものであった。玉川上水によるに ぎわいの散策路に対し、防災安全を掲げ、それぞれの行政の背景を成立させる戦略として、地域防災プランが生まれた。 広域防災拠点である新宿御苑、施設利用者増加をはかる道の情報館、そして新宿区が理念を心に持って、実行可 能な戦略がスタートを切った。
今後の課題として、1)新宿御苑周辺におけるコミュニティや地域管理運営の実態を把握し、環境に必要な運営システムを提案する。 2)具体的に実現可能なデザインプロポーザルを行う。これまでの分析を踏まえ、街並みと新宿御苑のインターフェースとなる玉川上水空間を、複数案作成し、話し合いを行う。



2006年度の成果

2006年6月 新宿御苑100周年イベント「玉川上水復活に向けて」 展示・ウォークラリー・シンポジウム
2006年8月 アジアメガシティー会議において発表 “A study on the Revitalization of Tamagawa Waterway Landscape”


Valid HTML 4.01!