2006年度 森基金報告書
慶應義塾大学 大学院 政策・メディア研究科 修士課程 2年
清水 友理
「情報設計と街づくりの融合による地域情報化の試み」
1.研究概要
中心市街地における衰退現象が社会的/経済的に問題となって久しい。その中で近年、東京都千代田区外神田に位置する“秋葉原”は、その変遷及び変容が注目され、シンポジウムや研究論文やデザイン運動*が盛んに行われている。それは、戦後以降の技術の集積とものづくりをはじめとするpartsそしてassemblyしていく知の伝統、近年ではいわゆる“オタク”に言及される“人格が都市を形成する”自己形成的な街である所以である。この自己形成的な街の持つ暗黙知や魅力をいかに形式化し共有化していくかによって、中心市街地の活性化に関する知見が得られると考える。
本研究では、そのような展望の下、「秋葉原における国際的デザイン拠点の形成」活動と連動しながら、地域の暗黙知や魅力を共有するシステムを、情報システム技術を利用しながらデザインすることを最終的に目指す。すなわち、暗黙知の作成・更新する負荷を計算機に任せる事によって、地域情報化が空間の構造を読解する手がかりとなり、地域活性化への試みである。情報システム技術によって時間と空間を越えることが可能となった。しかし真の“地域での空間と時間を共有することが可能であるか”
の挙動が注目されている。以上の観点から、地域情報化が地域活性化への試みの序論として、本稿を位置づける。
本研究では、地域情報化の序論として、秋葉原における回遊行動を行動観察することによって、街に存在する暗黙知を分類し、情報共有システムに有益な、情報コンテンツ/アクティビティを発見し、実装、実証までの一連のプロセスを経る。これまで、中心市街地活性化法で試みられている、国土交通省系と言える”“環境デザイン”の指針や経済産業省系活性化への知見に対し、本研究で行われるような環境・活動・情報を扱う“環境情報デザイン”を用いた都市への試みは、今だその事例が稀有である。そこで、本研究では、既存の建築ストックと地域の魅力を利活用した情報システムおよびそれらを取り巻く環境情報デザインが齎す都市へのコントリビューションの要素を明らかにすることを目的とする。
本研究でのプロセスを示す。
T:ストック/フローのコンセプト構築
U:研究体制の確立
V:コンテンツ作成
W:実施(投企実験)
X:レビュー(修士論文)
2005年度春学期・秋学期を通じて、T〜Uを実施した。
本助成を受けた2006年度に実施した、V〜Xにかけての進行を以下に報告する。
キーワード 1.高密度商業地域 2.地域の暗黙知の形式化 3.参与の仕組み 4.地域情報化 5.環境情報デザイン
2. 2006年度研究報告
V:コンテンツ作成
2006年度春学期を通じて行った調査を受け、システム構築に向け、慶應義塾大学インタラクションデザインラボ安村研究室児玉哲彦氏との協働により、概念構築及び実験指標の構築を行った。実装は同氏による。
ここで開発されたソフトウェアは、秋葉原地域の地域情報[スポットの知識][場所を把握する知識][地域の動的な知識]の共有・流通を携帯電話で一括して、地域情報の獲得は、店頭に設置されたQRコードによって閲覧でき、ユーザーも作成可能である。
以下、個々の機能について、概説する。
[スポットの知識]:個々のスポットへの知識(ex.一般的な検索)とは異なり、ユーザーが作成するルートの共有によって、街中での回遊体験を共有する。
[場所を把握する知識]:ランドマーク等、場所を把握するための地図表示
[地域の動的な知識]:ユーザー生成型コンテンツによって、動的な情報が更新され、「最後に訪れた場所から」検索、「キーワード」検索、「タグ一覧」検索の3種類によって、知識を検索することができる。
Fig.1
Fig.2
Fig.3
Fig.4
ルート一覧 ルート作成 検索画面 地図表示画面
W:実施(投企実験)
Vで開発された、コンテンツの有用性を測定するため、秋葉原電気街振興会の協力のもと、2006年12/9〜12/25の間、店頭にQRコードを身につけた犬型ポスターを設置し、17日間の実証実験(内オープン利用10日間)を行った。同時に被験者実験を行い、その結果を以って修士論文を作成した。(参考URL:秋葉原電気街振興会HP内での“慶應義塾大学「秋葉原モバイル実証実験」のご案内”)
X:レビュー(修士論文)
2006年度秋学期修了予定者として、2006年度修士論文と提出した。結果として以下のことが明らかとなった。
◎結論
●本研究の対象地である秋葉原地区は、行動調査の結果より、再開発地区を南北に縦断する鉄道インフラによる分断が顕著である。
●居方調査より、適切な歩行圏内にスポットの設置が必要とされ、とりわけ再開発地区における“足元”の設計が重要である。
●組織の分析から、地域に関わる各組織(地元、企業、大学)の各プレーヤーが参与できる仕組みおよびユーザーの醸成が不可欠である。
●共分散構造分析より、[検索][ルート閲覧]が[機能性]が寄与し、[機能性]が[知識獲得]に寄与し、[知識獲得]が[回遊性]に寄与する。
●他の地域への応用可能性について、地域条件、“風景”が異なる点から、知見の一般化には慎重でなければならないが、その問題設定のプロセス及び評価の指標は、地域と情報の横断的な領域を評価する研究として、他の地域でも応用可能であり、今後活用されていくことが期待できる。
以上の検証から、実証実験を通じ、以下を繋ぐ地域情報化のプラットフォーム構築が必要と指摘する。
@―環境デザインの条件:立ち止まりの創出、トリップを繋ぐプログラムの挿入
A―情報デザインの条件:[機能性]を高めた[知識獲得]を支援するデザイン
B―環境情報デザインの条件:環境と情報と地域に関わる人々を繋ぐ、コミュニケーションのプラットフォーム
3.本研究に関連した対外発表(2006年度)
A.学術報告/学会大会発表論文
B.共同研究や研究助成金等
C.作品・賞
D.展覧会
E.講演会・セッション
■or□は正規発表、●or○はポスターセッション/デモセッション
黒がついているものは筆頭著者、枠のみのものは共著者
A.学会大会発表論文
■清水友理,三宅理一,藤田朗,『秋葉原における国際的デザイン拠点の形成 その1 来街者行動履歴と暗黙知に関する研究』,日本建築学会関東大会,Sep.2006
□児玉哲彦,清水友理,安村通晃,『ここHORE: 秋葉原電気街における携帯電話を用いたソーシャルブックマーク』, 情報処理学会ヒューマンインタフェース研究会, Feb.2007
B.共同研究や研究助成金等
■2006年度森泰吉郎記念研究振興基金
清水友理『情報設計と街づくりの融合による地域情報化の試み』,2006 通年
□2006年度大林都市研究振興財団
渡邊朗子,藤田朗,三宅理一『秋葉原におけるソーシャル・ネットワーク・サービスを媒介とした都市コミュニティづくりの実践的研究』,2006 通年
□2006年度ESL研究会スマートプレイス研究会
國領二郎,渡邊朗子,他メンバー非公開『モバイル・アキバ』,2006 通年
C.作品・賞
□慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスOpen Research Forum 2006,丸ビル8 F『ここHORE:ケータイでの経験のmix up とまちづくりへの応用』, ORF2006まちづくりアイディアコンテスト2006,『三菱地所賞』,2006
D.展覧会
○慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスOpen Research Forum 2006,丸の内丸ビル3F“ここHOREアキバ”ブース展示,11/22〜23,2006
E.講演会・セッション
□市民メディアサミット06,『地域についての情報交換サービスの開発と地域活性化への応用』セッション,ZAIM別館,9/9 13:00〜16:00,2006
□慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスOpen Research Forum 2006,M+(三菱ビル)10F“ここHOREアキバ”セッション,研究発表者(三宅理一,清水友理,児玉哲彦),基壇者(本江正茂,河合洋,佐藤一夫,藤田朗)11/22 18:00〜19:30,2006