2006年度 森基金研究活動報告書

政策・メディア研究科修士課程2年 宝田惇史

                                          taka2713[ットマー]sfc.keio.ac.jp

 

森基金申請研究題目:「地方鉄道存廃の意思決定過程――鉄道存続運動の展開として」

 

 

最終的に修士論文タイトルは

「鉄道事業における新たなマネジメントモデルの構築

−社会的価値の評価と成果向上の関連性−」

とした。

 

その概要は以下の通りである。

 

                         

修士論文要旨  2006年度(平成18年度)

 

日本の地方鉄道は、厳しい経営環境におかれている。だが、近年、鉄道のもつ社会的価値を評価した上で、再生に向けた取り組みを行う事例が増えてきている。

 本論文は、こうした動きが起きている社会的背景を明らかにした。そして、鉄道存廃の決定過程を5例取り上げ詳細に分析し、鉄道存廃の決定過程のあり方を探った。さらに、経営改善に向けての取り組みも記述した。これらによって、従来の「赤字か黒字か」「政府の関与重視か市場原理重視か」という二項対立にとらわれない新しい鉄道経営モデル構築のヒントとなる考え方と手法を提示した。

 本研究から明らかになったことは次のとおりである。

@    鉄道の存廃は、社会的価値の評価をふまえて判断することが重要である。

A    社会的価値の評価は、情報公開や市民参画のツールとして有効である。

B    鉄道事業において従来多かった提言は、行政の関与を弱めていくべきというものである。しかし、鉄道事業の成果向上のためには、政府の出資比率を下げることや赤字の金額を減らすといったことよりも、鉄道の価値を引き出すためのインセンティブを与えることの方が重要である。そして、インセンティブを与えるためには、信頼関係を持っている住民と行政が一体となって鉄道事業を支援する必要がある。

C    従来「総合交通政策」は成立しえないとされてきた。しかし、「政策」の概念が変化しはじめており、それに合わせた新しい研究アプローチが必要である。

 本研究の成果は、今後急増すると思われる鉄道存廃問題に対応する際に役立つものと考えている。そして、パブリックセクターの経営論を体系化することにも貢献するものであると考えている。

 

キーワード:

1.鉄道事業2.存廃の意思決定3.社会的価値の評価4.市民参画

5.インセンティブ

 

 

森基金より助成していただいた資金は、研究に必要な資料・書籍の収集、および調査のための交通費・宿泊費等に有効に活用させていただいた。ここに厚く御礼を申し上げる。

 

森基金より助成していただいた資金の用途は、次の通りである。

 

@     研究に必要なノートパソコンの購入

A     フィールド調査のための交通費

B     「鉄道まちづくり会議」出席のための費用

C     NPOの会費

 

私の研究の特徴は、複数の事例を詳細に調査した上で「市民ネットワークの広がり」を

切り口として分析したことである。そのために自らも市民活動に参加した。森基金より助成していただいた費用の一部は、書籍購入に加え、研究に必要な調査を進めるために参加した市民活動への参加費用に充てさせていただいた。

特に、森基金助成金を充てて参加させていただいた「鉄道まちづくり会議」(兵庫県にて開催)は、北海道から九州まで全国から市民団体・大学・行政・鉄道事業者等の関係者が一同に会し、各地の取り組み事例を通して全国的な鉄道政策のあり方を議論するものである。

また、「青春18きっぷ」は、東京近郊地域(茨城県等)での調査、及び北陸3県(富山県・石川県・福井県)を同時に調査した際における北陸地区内の移動に活用させていただいた。

このような場に積極的に参加したことにより、全国各地の市民団体メンバーと深い交流をもつことができ、充実した資料・情報を集めることができた。また、研究の内容も当初の構想より大幅に発展した。その成果である私の修士論文は、市民団体メンバーや現場を重視した研究をされている研究者からはすでに高い評価をいただいている。

 また、ノートパソコンの導入によって研究を進める環境は飛躍的に向上した。

 

 私の研究を評価してくださり、多額の研究費用を助成してくださったことに厚く御礼を申し上げます。ありがとうございました。