2006年度森基金報告書 森基金研究活動報告書

政策メディア研究科修士課程2年

                                北川 正代

プログラム:GR  プロジェクト:国際開発協力

 

研究課題名:米海軍軍人及び海上自衛官等の仕事と家族生活の両立支援策

 

1 研究課題 

  PKO派遣、艦艇の長期出港、夜間当直等、緊急かつ長期にわたる任務に従事する特殊な勤務環境下にある共働き自衛隊員にとって、家庭を不在にすることで、任務と家族保護との両立が常に課題となっていた。一方、米海軍においては、女性軍人が、各部隊指揮官や艦艇乗り組みに数多く配置されている。本研究では、海上自衛官が家族生活との両立において直面している問題点を明らかにすると共に、米海軍が、仕事と家族生活の両立の問題にいかに対応しているかを調査し、日米等の比較研究を行うことで、日本の制度に取り込む等、政策提言を行い、制度上の施策に反映することを目標とした。

 

2  研究の目的

特殊な勤務環境下で家族生活との両立に悩む労働者の支援策について、現行の制度を検証し、対策を提言することにより、勤務環境の整備に資することを目的とした。ここでいう特殊な勤務とは、一般の公務員とは人事管理を異にし、特別国家公務員として自衛隊法に規定されているとおり、有事に即応することが義務付けられていることを指す。

 

3 研究の背景

1974年、海上自衛隊に女性自衛官制度が導入され約31年が経過した。制度発足当初は

「男子自衛官採用の補完」「男子自衛官を第一線に送るために、職域は後方業務に限定」「女性自衛官を自衛隊に取り込むことで、一般の婦人層の自衛隊に対する理解を深める」ことを目的とされ、職域は極めて限定的なものであった。しかし、1980年には、500名体制になり、職域も徐々に拡大され、1986年の男女雇用均等法の施行をきっかけに、職域は急速に拡大し、1984年には、1000人体制となった。現在、艦艇乗り組みや航空機搭乗配置にも職域が拡大され、1800名体制が維持されており、3000名体制を新たな目標にしている。しかしながら、制度の発展に比し、彼らを取り巻く勤務環境の整備が追いついていないのが現状である。女性自衛官の約8割、女性職員の約5割が、自衛官同士、職員同士で結婚しているが、(2005、読売新聞)特に海上自衛隊においては、自衛官である夫が「艦艇乗り組み」の場合、長期にわたり、家庭を留守にすることが多く、自身も、月に数日の当直勤務が課せられるため、夫が不在の間は当直勤務のやりくりが課題となる。日中は、乳幼児から学童までは、保育所や学童保育を利用できるが、昼夜の別がない通信部隊では、夜間の勤務が一般の隊員よりも多く、夜間保育や病気になった子供の受入先がないため、仕事と家族生活の両立は大きな課題となる。 同僚同志で子供を預けあう等「自助努力」に努めているが、非常時の呼集や、長期にわたる特殊な訓練等、両立は難しい。本研究では自衛官がこれらの課題を克服し、少しでも不安を解消し、勤務環境を整備することで、雇用の確保ひいては制度の発展に寄与することをねらいとした。

 米海軍は女性軍人の採用が開始されてから、60年が経過しており、女性軍人は艦艇乗り組みや、艦長等部隊指揮官に配属され、戦力として活用されている。米軍では、チャイルドセンターは、夫婦が軍人の場合は優先され、子供の学校と軍との連携も緊密であり、協会等、コミュニテイも充実している等、支援体制が整備されている。横須賀基地における現状(参与観察)及び本国の現状(文献調査)を調査し、軍のサポート体制等制度発展の変遷及び現状について分析し、日米比較を試みることで、海上自衛隊の制度における問題点を明らかにすることを意図した。

 

3 活動報告

(1)フィールドワーク 

米海軍横須賀基地の部隊に勤務する軍人を対象にヒアリング調査を実施し、文献調査だけでは得られない実態を把握することに努めた。当初の予想どおり、横須賀在住の米海軍については、日本に存在する海軍としては、規模も大きく、チャイルド・センター、幼稚園から高校まで、アメリカのコミュニテイを有しており、チャイルド・センターでは、夫婦共に軍人である場合の子供を優先的に受け入れている等、施設面では極めて恵まれていることがわかった。

しかしながら、米軍では、産前・産後休暇が日本よりも2週間短く、育児休業制度もない等、制度面では日本の方がはるかに恵まれていることがわかった。制度上は、充実していないと感じたが、産前産後の休暇後任務に復帰できるよう、基地内保育が充実しており、有事即応態勢のために、育児支援が重要であるという位置付けがなされており、職場の同僚も、当事者が復帰するまでは、職務を分担して行う等、運用面において育児支援が浸透しているということが理解できた。これに比し、自衛隊は制度は充実しているものの、運用面が現場の裁量にまかされており、長期勤務の鍵は現場の指揮官が握っているという実態が見られた。

 

(2)     研究の成果

フィールドワークは、東京・横須賀地区で主として実施したが、三沢経由で大湊を訪

問し、有意義な実態調査ができた。米軍と自衛隊の比較によりそれぞれの長所、短所が把握できた。特に、女性自衛官の活用を図ることを防衛庁が積極的に取組んでおり、このためには、育児支援が不可欠であるということも示された。特に、福利厚生型の育児支援から、長期戦略にのっとった有事即応態勢のための育児支援を行う必要があり、そのためには、長期的な視野から、女性自衛官が出産後、安心して職務に復帰し、戦力化されるようインセンティブを与えることが重要であることを示した。本研究は、修士論文として提出し、題名を女性自衛官の仕事と子育ての両立、−共働き海上自衛官を事例にーとした。

 

 

4.研究費の使途について

研究をすすめるにあたり主としてフィールドワークを円滑に行うために、録音機、デジタルカメラ等参与観察・インタビューに必要な機器の購入・謝礼に当てた。その他PC周辺機材の購入、交通費等に活用した。