森泰吉郎記念研究振興基金研究成果報告書

 

環境に配慮した新エネルギー地産地消システムの提案

 

慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程1

重松 浩一郎

 

Proposal of Local Energy Production for Local Consumption System Considering Environment

Koichiro  SHIGEMATSU

 

 

Abstract

 

In this term, I examined the micro-grid system in Hachinohe, renewable energy system in Kuzumaki and new energy developed country in North Europe.  This is the term report about those field works.  From these examine, I found that issues are compute about economic ripple effect and proposal of model not leaning on bounty.  Moreover, I think that inspection of destination is problem that we have to solve.  Last, characteristics of the region should be figured out thoroughly before making new energy model.

 

Keywords: 地産地消(local production for local consumption),経済波及効果(economic ripple effect),補助金(bounty),需要家(customer),地域特性(characteristics of the region

 

 


1.             はじめに

 

 二酸化炭素の明白かつ急激な増加は氷河・氷床の融解による海面上昇,植生の変化,新たな感染症の拡大と言った様々な地球規模での問題を生み出している.現在,大量の二酸化炭素を排出する原因としてエネルギー部門が挙げられるため,原子力発電への依存が日本国内では高まりつつあるが,一方で安全性への懸念から立地確保の問題が起こっている.

そこで,原子力に依存せずに,かつ環境性の高いエネルギーとして太陽光・風力・バイオマスなどの新エネルギーへの期待が高まっている.しかし,太陽光・風力は出力変動が常に付きまとうため,系統電源に接続することを前提とした場合,それらの出力が大きくなるにつれて補助するための火力発電の増設や蓄電池の追加が必要となる.そのため新エネルギーは代替エネルギーとしてのメリットを半減させてしまう.また,太陽光・風力発電は補助金なしでは採算がとれず,高コストが大きな課題となっている.なお,「技術的に実用化段階に達しつつあるが、経済性の面での制約から普及が十分でないもので、石油代替エネルギーの導入を図るために特に必要なもの」として風力・太陽光は新エネルギーに位置づけられている.

 本報告書では,新形態の新エネルギー利用が進む青森県八戸市,新エネルギーを活かして地域活性化につなげた岩手県葛巻町,および環境先進国として盛んに新エネルギーを導入しているデンマーク・ドイツ・フランスについて立地,事業形態,需給規模の点から視察報告を行う.その上で,利用促進手法としての地域通貨や,日本の新エネルギー政策等に触れ,適切な利用形態のあり方について考察する.また,需要特性の把握と言う観点から今後の方向性を示す.

 

2. 新エネルギーシステムの視察

 

2.1. マイクログリッドシステム(青森県八戸市

 風力・太陽光のような自然エネルギーは出力に大きな変動が生じるため,系統電力に接続した際,大きな負荷となってしまう.その変動を制御し,系統への負荷を最小限に抑える仕組みがマイクログリッドである.

 

1 八戸のマイクログリッド概要図

 

 このシステムはNEDOの実証実験で,三菱総研・三菱電機・八戸市・青森県が一体となって取り組んでいる.また,重点検討項目は,@需要変動への対応能力調査,A導入に係るコスト算出,B地域による運営可能性,C環境性評価,D普及に関わる政策の抽出の5点となっている.

 設置されているシステムはバイオマス発電,木質バイオマス発電,太陽光発電,風力発電の4種類である.大量の下水が回収できることと,県内の森林資源,豊富な日射量と言う特性を考慮して前述のシステムが組まれている.

 需給規模は次に示す通りである.バランスのとれた規模になっており,適切な需給設計である.

 

1 八戸の需給規模

 

 本試験での成果としては需要と供給のバランスがほぼ一致しており,安定的な電力供給が可能だと言う点が挙げられる.しかし,このほとんどがガスエンジンもしくは二次電池によるもので,ポテンシャルの低い場所に設置された風力発電の影響はほぼない.風力発電の変動性をあまり加味できていない結果であるため,信頼性には疑問が残るが,地産地消システムとしての好例と言える.

 

2.2. 新エネルギーの自治体(岩手県葛巻町

 葛巻町は町内電力消費量のほとんどを新エネルギーで賄っている.下図にも示すように,町の86%を占める森林資源と盛んな酪農,そして豊富な日射量と強風と言う自然エネルギー利用に最適な地域特性を有している.これらを生かして様々な形態の新エネルギー利用が進んでいる.だが,あくまで売電形態をとっているため,直接的な地産地消システムとは言えない.

2 葛巻の新エネルギーシステム

 

 各事業の事業主体であるが,風力は電源開発鰍ィよび第三セクター,太陽光は町,木質バイオは町,NEDOおよび月島機械梶Cバイオマスは公社となっている.

 

2.3. ヨーロッパエコシティツアー

 2006829日から97日まで,デンマーク・フランス・ドイツでのエコシティツアーに参加した.この研修で視察した主な施設は下表の通りである.

 

2 視察施設一覧

 

これらの施設の中で,エネルギー関連のものを以下に取り上げる.

 

2.3.1. 農場用バイオガスプラント

 本施設は,家畜の排泄物を浄化処理,かつ可燃ガスを抽出する機能を有している.デンマークは酪農が大変盛んな国で,家畜から大量の排泄物が排出される.だが,地下水質基準が大変厳しいため,排泄物の適正処理を行わなくてはならない.この農場では農場主が1億円もの投資を行い,バイオガスプラントを設置,コジェネレーションを行っている.生産した熱や電気を母屋に送り,余剰分は電力会社に売電している.

 

3 バイオガスプラント全景

 

2.3.2. 廃棄物発電所

 この廃棄物発電所では,年間16.5万トンの廃棄物を焼却処理,そして40,000世帯分(2,800kW級)の発電能力と17,600世帯分の温水供給能力を備えている.

 運営は地元行政が行っている.

4 廃棄物発電所全景

 

発電所と消費者の間は片道6.5kmも離れていることがある.一般的に熱の供給は集落ごとに行うほうが効率がよいと考えられるが,高性能の断熱材を用いることによって,6.5kmの距離を移動しても熱は2℃しか低下しない.本来なら焼却するだけの廃棄物を,経済的な効果を生むように組まれている.

 

2.3.3. 自然エネルギー普及センター

 このセンターはデンマークにおける自然エネルギー推進の中心となる機構として1982年に設立された.あらゆる自然エネルギーの利用可能性に着目し,実験を行っている.

 デンマークは強風地帯にあるため,北西ユトランド半島の風力総ポテンシャルをもってすれば国内需要の132%を供給することができる.また,夜間の余剰電力はスウェーデン,ノルウェーなどに安価で売電している.その電気を用いて揚水発電を行い,デンマークが電力不足の際に売電すると言う相互依存の仕組みになっている.

 また,風力発電の歴史を示したモニュメントや菜種油で走る自動車,藻を使用した汚泥浄化装置など,直接触れることができる設備が展示してある.

 

5 菜種油自動車

 

2.3.4. サムソー島

 サムソー島は面積112km2,人口4,200人,エネルギー自給プロジェクトを成功させた島である.多くの人が離島していく中,島の生存をかけてスタートした.新しい雇用を生み,地域経済を潤し,島の自立性を保ち,かつ二酸化炭素の排出を抑制することを目標とした.

 現在,島内で必要とされるエネルギーの75%は事業用再生可能エネルギーで賄われ,残り25%は各家庭に設置されたソーラーシステムで賄われている.

 下図はバイオマス熱供給所である.サムソー島は農業が盛んであるため,大量のバイオマス資源が排出される.それを利用して熱供給所を設置し,20 km2を地域暖房でカバーしている.また,ここから10人の雇用が生まれた.

 

6 バイオマス熱供給所

 

また,1,000kWの風力発電機が11基稼動しており,そのうち2基は共同所有,9基は個人所有となっている.この11台で全島の電力ほとんどを賄っているのだが,余剰分はデンマーク本土への売電,不足分は本土から購入する形態をとっている.また,2,300kW×10基の洋上発電も設置されている.

 離島でのエネルギー自給策を考える際重要になるのは,島の特性を個別に考え,島内協力の体制を構築することが重要であると言う.最も重要なことは島内労働力のみに依存することだ.

7 1,000kW級風力発電

 

2.3.5. ソーラー住宅

 このソーラー住宅で発電される電気は売電を目的としている.また,太陽光の入射角を考えて設計がなされている.

 

8 ソーラー住宅

 

2.3.6. ソーラー市民発電

 下図の太陽光発電システムは,市所有のサッカースタジアムの屋上に設置してあり,パネルの所有権は市民にある.2,500uに280kWの発電機を設置した.このスタジアムをホームとする強豪チームの試合が大変人気でチケット不足が頻発したため,太陽光発電を買えば優先的にチケットを販売する権利を与えるという仕組みを作った.それによって,すぐに発電機は完売し,市民所有の太陽光発電所ができたのである.

 

9 ソーラー市民発電

 

2.4. 考察

 以上のように,それぞれの地域特性を生かした取り組みを見ることができた.

立地の点から考えれば,各事例ともに地域が有する資源を適切に評価した上で活用している.ただ,八戸の風力発電は実証実験とは言え設置すべきだったか疑問だ.

 事業形態の点では,日本では基本的に行政や企業が保有しているが,それに対し海外では個人所有の割合が多いようである.日本においても個人所有を促すための政策整備を行い,負担の大きい新エネルギー開発を国民とともに推し進めていくべきである.

 需給規模としては,日本は保守的だと考えられる.ただし,これは日本の有する新エネルギーポテンシャルによる部分が大きい.例えばデンマークは恒常的に強風が吹くと言う豊富な風力ポテンシャルを有しているため,大規模発電を導入しても供給に支障をきたさない.逆に,分散型システムの部分に着目すれば,双方とも適切な規模で設計していると考えられる.

日本における地域特性を十分に理解し,新エネルギー導入モデルを検討していかなくてはならない.また,現状の技術レベルでは,安定供給の点から考えれば系統からの独立運転は回避すべきである.したがって,系統連系を前提とした安定供給のための利用方法を検討すべきである.

 

3. 地域通貨の可能性

 

 エネルギーと組み合わせた地域通貨の仕組みが数例ある.

 省エネルギーの分野では,山形県庄内町において節電に応じた地域通貨が付与され,町内34箇所にて使用可能となっている.この取り組みは20038月から半年間行われたのだが,23,183kWhもの節電効果があった.しかし,地域通貨が励みになったと答えた住民は65%と,インセンティブ的役割を果たせたとは言えない.この事例のもっとも重要なコンセプトは,現在のエネルギー価格から得られる節電金額はあまり大きくないため,節電行為に対して地域通貨と言う新たな価値を付与したことにあると考える.

 新エネルギー分野では,茨城県つくば市における地域通貨が挙げられる.これは市内小中学校52校に風力発電機を設置し,その売電収入(予想1,800/年)を原資に地域通貨を発行し,二酸化炭素削減活動に取り組んだ主体に付与すると言うものだ.結果として風力発電機が稼動しなかったため,地域通貨構想も頓挫したが,新エネルギーを原資としたと言う点は興味深い.

 新エネルギーを導入すると住民に対するどのようなメリットが生まれるかと言うことは必ずしも明確ではない.その点では,経済波及効果を明らかにするとともに地域通貨と新エネルギーの可能性を探る必要もあるのではないだろうか.

 電力完全自由化前後では次のような地域通貨モデルが可能ではないかと考える.すなわち,電気購入先選択権のない自由化以前は新エネルギー基金を設立し,新エネルギーによる売電収益を原資に通貨を発行,その寄付に応じて通貨を付与し,行政サービスなどに使用可能であると言うものだ.逆に達成後は,新エネルギー購入量に応じて通貨付与をしていく.このようなモデルも将来的には可能性があると考える.

 

4.日本の新エネルギー政策について

 

 1973年のオイルショックを発端に,新エネルギーへの転換と省エネルギーの促進が迫られた.そこで国が提示した政策としてサンシャイン計画(新エネルギー開発実用化計画)とムーンライト計画(省エネ技術開発計画),地球環境技術開発計画が挙げられる.その後1992年にこれら3つの計画が統合され,ニュー・サンシャイン計画が発足し,さらなる技術開発を後押ししている.

 また,2度目のオイルショックは1979年に起こった.その翌年の1980年に「石油代替エネルギーの開発及び導入の促進に関する法律(代エネ法)」が制定された.それまで大量の原油を中東に依存していた日本はエネルギーセキュリティを向上させるためにエネルギー政策の抜本的な見直しを迫られたのである.

 1997年には「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法(新エネ法)」が制定され,国,地方公共団体,企業,国民の役割を明確化する基本方針が出され,また金融上の支援措置を行うなど国の役割が打ち出された.

 2002年には電気事業者による「 新エネルギー等の利用に関する特別措置法(RPS法)」が制定され,電気事業者が一定量以上の新エネルギーを利用することを義務付けた.

 

5藤沢市新エネルギービジョンの現状と課題

 

 地域新エネルギービジョン策定等事業および地域省エネルギービジョン策定等事業は地域レベルでの新(省)エネルギー導入にあたって独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が新エネ法に基づき補助金を出すものである

 藤沢市の新エネルギービジョンは2004年に策定された.本ビジョンでは,市域の利用可能エネルギー賦存量を大まかに算出し,その活用構想を描いている.

だが,エネルギー源として捉えるにはあまりに大雑把過ぎることが課題として挙げられる.また,供給サイドからの特性はある程度把握しているものの,需要サイドの特性把握がなされていない.さらに新エネルギービジョンが策定されている自治体は全国何割に上るのか,また,実際にどのような場面で活用されているのかを明らかにする必要がある.

 

 

6.考察

 

 以上の調査から,新エネルギー地産地消システムを提案するために解決すべき課題が3点明らかになった.

 第一に,新エネルギー導入による経済波及効果算出方法を明確にすることである.伊藤(2004が葛巻町を対象に経済波及効果の試算を行っているが,他に新エネルギーによる経済効果を示したものが見当たらない.

 第二に,補助金なしで採算可能になるモデルを提示するべきである.一般に市場原理の導入がコスト低減のもっとも有効な方策であると考えられているが,他に示すことはできないのであろうか.

 第三に,電力の供給先を検討することによる新エネルギーの新たな位置づけを考えるべきではないかと言う点である.これまで新エネルギーの出力変動問題からその抑制技術を開発する部分にばかり着目されてきた.蓄電技術の開発,マイクログリッドの提唱,機器の高性能化と言ったものはまさに変動抑制を狙ったものである.逆に低品質でも構わない需要家を抽出し,一つの地域特性として捉えてはと考える.

 

10 新たな視点

 

 以上から,私が提案したいサービスモデルは次のようなものである.

11 サービスモデル

需要家のレベルを必要品質ごとの数段階に分類し,系統に完全接続すべき需要家とそうでない需要家を選別する.そしてその契約状態に応じて新エネルギーと系統から電力が供給されると言うものだ.これは,新エネルギーによって供給される電気が通常レベルで支障のない程度の品質になることと,送電線敷設コストが下がることが前提となる.また,新エネルギー電力と供給契約締結を促進する方法も必要となってくる.

 

今後の流れ

 

 以上の視察・調査活動より,不安定な新エネルギーをいかに利用するかと言う着眼点で研究を進めて行きたいと考える.現在,新エネルギーの安定供給特性に関する研究は盛んになされているが,需要サイドの特性については実態の把握が不十分である.そのため,潜在的な新エネルギー需要家を抽出し,需要特性を明らかにしたい.

 具体的な流れとしては,@電力需要家の分類,A品質別需要家の順位付け,B潜在的需要量の算出,C適切な需給設計である.また,早急にそれぞれの評価手法の検討を行う必要があると考えている.

 

謝辞

 

本研究は2006年度森泰吉郎記念研究振興基金の一環で行われたものである.また,本報告書を作成するに当たり八戸市マイクログリッド実証実験関係者のみなさん、葛巻町役場の方々、厳網林助教授および厳研究室の院生,学部生のみなさんに多大なるご指導をいただいた.この場をお借りして謝意を表したい.

 

参考文献

 

資源エネルギー庁,資源エネルギー政策の展開,<http://www.enecho.meti.go.jp/policy/index.htm >

三菱総合研究所(2006),八戸市水の流れを電気で返すプロジェクト,三菱総研報告書.

伊藤吉紀(2004),地域自然エネルギーシステムの導入による経済波及効果の試算 エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス講演論文集Vol.20th Page.313-316