2006年度(平成18年度)森基金研究成果報告書

慶應義塾大学 政策・メディア研究科 関山和秀

 

合成クモ糸の実用化に向けたクローニング法および生産技術の開発

 

要旨

  石油枯渇が懸念されている昨今,化学繊維に取って替わる石油非依存の繊維素材の開発が求められ,クモ糸が注目を浴びている.クモが生成する種々の糸は,ナイロンなど既存の化学繊維を遥かに上回る強度,伸縮性,耐熱性を持っており,また石油非依存で生成できること,生分解性であることなどから多大なる注目を集めているが,現在クモ糸を人工的に生成する技術は確立されておらず,技術面およびコスト面における様々な問題があり,産業利用に向けた大量生産化には至っていない.

  本研究では,クモ糸をベースとした新規タンパク質素材のデザインを行うための基盤技術を構築した.本クローニング技術を用いることでいかなる人工的に設計された遺伝子も容易に構築することが可能となった.テストケースとして,Nephila clavipesの牽引糸のタンパク質であるMaSp1をベースとした人工遺伝子rcMaSp1を構築した.また,構築したrcMaSp1遺伝子をベースに8つの人工クモ糸遺伝子を構築した.構築した人工クモ糸遺伝子を大腸菌および枯草菌にて発現させるため,それぞれ特徴の異なるプロモーター(PRプロモーター,PS10プロモーター,PspoVGプロモーター,PT7/lacプロモーター)および適する大腸菌株(DH5α株,GI724株,Rosetta株,HMS174株)を選択し,サブクローニング,形質転換,タンパク質の発現確認を行なった.その結果,プラスミド上での人工クモ糸遺伝子の安定な保持にはプロモーターの発現制御が不可欠であることが示され,人工クモ糸の高効率な生産にはPT7/lacプロモーターおよびRosetta株を用いた発現系が最も適していることが明らかになった.そこで,構築された人工クモ糸遺伝子His-8MおよびHis-rcMaSp1を選択し,PT7/lacプロモーターおよびRosetta株を用いて合成クモ糸タンパク質の発現を行なった.発現させた合成クモ糸タンパク質は,異なる3つの精製法にて精製を行なった.その結果,グアニジンによる溶解および親和性クロマトグラフィーを用いた精製法が最も適していることが示された.さらに精製したHis-8MHis-rcMaSp1タンパク質を用いて紡糸を行ない,合成クモ糸タンパク質が繊維化することを証明した.

  本研究により,人工的にデザインされた繊維タンパク質の遺伝子を容易に構築することが可能となり,新素材開発段階での小規模生産の手法が確立された.また,人工クモ糸遺伝子のクローニング法,合成クモ糸タンパク質の検出法,生産法に関して得られた数多くの新たな知見は,本研究で進めている枯草菌を用いた大量生産手法の有用性を強く支持する結果となり,今後の合成クモ糸大量生産技術開発の展開が期待される.

 

キーワード:合成クモ糸,遺伝子デザイン,タンパク質大量生産