2006年度 森基金報告書
「シニアライフ支援拠点に関する総合政策学的研究
〜ふらっとステーションドリームのフィールドワーク〜」
政策・メディア研究科修士課程1年 徳村光太
2010年以降、戦後生まれの世代が65歳以上の高齢期に入る。これからの高齢者は、子供が少なく、さらに子供と同居を選択しない傾向が強い。そのために彼らが孤立しないネットワークを形成することが求められる。また団塊の世代の大量退職問題いわゆる2007年問題と言われるように、高齢者(特に男性)の退職後の暮らし方にも注目が集まっている。
我々が注目するのは高齢者に「居場所」を提供し、パーソナルネットワーク形成つまり「仲間・友達作り」と「自己実現」を支援する場所としてのサロンである。(以下高齢者拠点とする)これからの高齢者は、高齢者ライフを共に過ごす仲間を作り、主体的に様々な活動を行うことにより新たな生き方の方向性を見出すものと考えられる。本研究においては高齢者向け拠点の先進的事例として横浜市戸塚区ドリームハイツの「ふらっとステーション・ドリーム」を取り扱う。(以下ふらっとステーションとする。)
本研究の目的は先進的事例であるふらっとステーションの活動メカニズムとその有効性を明らかにし、高齢者向け拠点を他地域への普及を志向した上で必要な実践的及び政策的知見を得ることである。視点としてふらっとステーションに関わる利用者及びスタッフを含めた「当事者個人にとっての意味・機能」に着目する。「当事者個人」にとっての意味・機能との関係の中で「事業体」としてのふらっとステーションの活動を分析していくことにより詳細な活動メカニズムを描き出す。(図1の@に相当。)その上で、ふらっとステーションの事業モデルを取り巻く行政を中心とした諸機関との関係というマクロな事象に視点を移す。視点の移動により、個人とふらっとステーションの関係の中で描かれた活動メカニズムから、行政を中心とした諸機関による事業体への支援という政策的な議論へと結びつけることが可能になると考えられる。
図 1 研究目的のフレームワーク
本研究は主に社会学・人類学において用いられるエスノグラフィー[1]の手法を総合政策学に応用する。研究実施担当者である徳村は、ふらっとステーション・ドリームが位置する横浜市戸塚区ドリームハイツに2006年8月以降移り住み集中的なフィールドワークを行っている。エスノグラフィーは、参与観察を元にした旅行記に近い定性調査と一般的には理解される。しかし佐藤郁也が「恥知らずの折衷主義」(佐藤 2002:p67)と呼んだように、参与観察・インフォーマル及びフォーマルインタビュー[2]・サーベイ調査・統計資料の分析・ドキュメント分析等多面的な手法を組み合わせる「マルチメソッド」によって対象への深い考察を志向するところにその本質的特徴がある。さまざまな手法から導かれるデータは時として矛盾を引き起こすが、その矛盾の要因を考察することが対象へのより深い理解を可能にするであろう。実施する調査は以下の4つである。また図2に各調査手法とリサーチクエスション・仮説の関係を示している。
図 2 各手法とリサーチクエスションの関係
情報相談チーム、運営委員会、カレッジ写真撮影係としての参与観察を継続的に行う。
現在利用者4名に行ったフォーマルインタビューを継続的に行っていく。対象者は利用者のみならず、現場に関わるサロンスタッフや情報相談のメンバー達にも広げて実施していく。
おもにサロン来訪者を対象として溜め置き型のアンケート調査を実施する。フォーマルインタビューと参与観察で集まったデータを細くするためのデータとして位置づける必要がある。実施機関は1ヶ月ほどを予定している。1ヶ月であれば900人程度の来訪者があるため統計解析にも耐えられるだけのサンプル数が収集できるものと考える。
どうしてもイベント的なエピソード収集に偏りがちであるため、一定期間内(1週間が1サイクルか)記録専門の役割で入り、観察を行う。これにより現場で実際に何が起こっているのかを網羅的に記録していく。
表1に研究のスケジュールをまとめた現在までに実施済みなのは「フェーズ1 計画策定・予備調査」である。
表1 フィールドワーク各段階における目的・手法・アウトプット
調査の段階 |
目的 |
調査手法 |
アウトプット |
フェーズ1計画策定・予備調査 (2006.8 -2006.1) ※実施済 |
・活動概要の把握 |
・文献サーベイ(エスノメソッドに関する文献が主) |
・フィールドノート |
フェーズ2中間段階・本調査 (2006.2 -2007.9) |
・リサーチクエスションに基づく仮説検証 |
・参与観察(焦点を絞り込んだ観察) ・
一定期間の網羅的観察 ・
小地域GIS分析 |
・フィールドノート |
フェーズ3補足調査 (2007.10 -2007.12) |
・論文執筆に向けての補足的データ収集 ・修士論文執筆 |
・補足的な参与観察 |
・修士論文第一部 |
2006年8月から行っているフィールドワークを通じて仮説群の生成と構造化を行っている。今後下記の仮説を更に修正しながら、データ取得と分析を継続的に行っていく。
@当事者個人の視点からふらっとステーションの活動メカニズムを明らかにする。
1 ふらっとステーションに関わる当事者個人はどのような特徴を持っているのか。
ふらっとステーションに参加する当事者は、趣味・地域活動・仕事等に積極的な層に偏っている。全ての高齢者にとっての拠点とはならないのでは無いだろうか。
ふらっとステーションの参加者は女性に大きく偏っている。男性にとっての参加は難しいのだろうか。
ふらっとステーションは「積極的」な「女性」高齢者がメインターゲットするならば、それ以外の消極的層に対しての入り口をどのように設けるのか。
2 どのようなきっかけで個人はふらっとステーションと関わり始めるのか。
どのようなきっかけで当事者はふらっとステーションと関わり始めるのか。
関わり始める際のきっかけとしては、ふらっとステーションへ関わる前からの人間関係による口コミがベースになることが多い。特にこれは情報相談チームのメンバーやマイショ
ップ出店者に多く見られる特徴であると考える。
一方で通りがかりで来店し、そこから継続的に通うようになる当事者も存在する。
3 ふらっとステーションで出会う当事者同士はどのように関係を結んでいくのか。
元々知り合いだった者同士がふらっとステーションで出会う場合に、元の関係はどのように変容するのか、維持されるのか。
ふらっとステーションで新たに知り合った人々はどのように関係を発展させていくのか。
4 ふらっとステーションに関わり始めた当事者は、他の当事者とのコミュニケーションを通じて自らの活動を発展させていくのではないか。
自らの活動を発展させていくことは当事者個人にとってどのような意味を持っているのか。
5 当事者が当初の活動を発展させるだけでなく、ふらっとステーションの他の活動レイヤーにも移動していく。
活動レイヤー移動を可能にするのは、何か?
レイヤー移動を促すガイド役がふらっとステーションには何名か存在している。ガイド役は新たなレイヤーへと個人を誘いだし移動させる。
活動レイヤーを移動することは当事者個人にとってどのような意味を持つのか。
レイヤーを移動後の元のレイヤーとの関係は維持されるのか。
Aふらっとステーションを取り巻く社会・制度等のマクロな事象はふらっとステーションをどのように枠付けているのか。
1 行政との協働は何をふらっとステーションの活動へ何をもたらしたのか。
行政との協働によって活動の柔軟性が失われているのではないか。
2 大学との協働はふらっとステーションの活動へ何をもたらしたのか。
佐藤郁哉(2002)「フィールドワークの技法 問いを育てる・仮説をきたえる」新曜社