植物をインターフェースとしたデジタルメディア開発

政策・メディア研究科修士課程1年 栗林 賢

 


■研究課題

  植物の持つ豊かな表現は,我々に豊かな感覚を与えてくれる.本研究は生きている植物をデジタル情報を扱うメディアとして利用することで,生物と機械,人と情報の新しいインタラクションをデザインすることを目的とする.そのための手法として,生物学をデザインに利用したバイオメディアデ ザインと生物をデジタル情報を扱うインタフェースとするリビングインタフェースという手法を追究する.本研究は,植物が人間に与える心理的効果を利用した情報表現,感情等曖昧で動的に変化する情報の効果的な表現,生物同士 のコミュニケーションを通したデジタル情報伝達等へ貢献が期待される.

■研究概要

 本年度は,情報の入出力を可能にするツールキット"I/O Plant"を開発した.これにより,植物を各種物理量の変換を行うトランスデューサのように使用することを可能にする.例えば,植物に意図的に与えるエネルギーを,植物の形態や動作へと変換する.また,環境変化に対して起こる生体反応を数値に変換し,種々の処理へと利用可能にする.この変換機能に注目することで,植物のモジュールとしての役割が見えてくる.植物をセンサやアクチュエータ等のモジュールと組み合わせることで,植物と人間とコンピュータのインタラクションデザインを支援する.このツールを用いたデジタルメディアによって,"Gardening Computing"という手法を提唱し,ガーデニングにおける新しいコンテンツ表現を提案する.


■I/O Plants
設計

 I/O Plantsは,汎用的に使用できるツールとして設計されている.また,環境刺激のエネルギーを植物の形態や動作へと変換する機能と,刺激に対する植物の生体反応を利用可能なデータへと変換する機能の両方を有する.また,植物や環境に限らず正確に動作させるために、植物の自発電位変化と刺激に対する電位変化を自動的に登録・判別する機能を有する.
 I/O Plantsは,図1のコンセプトモデルに示すモジュールとしての機能、図2に示す変換器としての機能を持つ.身近に手に入る植物に本ツールを付けるだけで,センサやアクチュエータなどのモジュールとの連携を可能にする.これにより,誰もが自分で植物をトランスデューサのように運用し,情報やエネルギーを変換することができる.例えば,センサから入力された情報に基づいてアクチュエータを動かすことで,植物に意図的にエネルギー刺激を与え、植物の成長や形態や動作へと変換する.また,環境変化と外部刺激によって変化する生体電位反応を数値へと変換し、アクチュエータの処理に利用可能とする.


  ■アプリケーション

 情報入力によって与える刺激を植物の形状や動きに変換したアプリケーションとして,PlantDisplayを開発し,すでに運用している.本章では,環境変化に対する植物の生体反応を数値へと変換し,種々の処理に利用可能とするアプリケーションについて述べる.

Ambient Plant interface

 環境に溶け込んだ植物を,既存の家電機器を制御するインタフェースにする.これにより,光や接触や水の供給や周囲における人の動きといった植物への刺激を通して,情報を入力することができる.図3-6の一例では,葉に触れることによる生体電位変化を検出することで,照明を点灯させている.この時,触れる人や場所によって異なる電位変化によって,照明の明るさや色,点灯の仕方を変えることができる.また,アクチュエータや植物は付け替え可能である.例えば,スピーカーに付けることで,植物を楽器に変換できる.これらは,自然物を前面に出したインタフェースを用いた空間デザインやインテリアデザインに活用できる.利用例として,自然テーマパークの音声ガイドがある.これは,木への接触や周囲における人間の存在を入力として,スピーカーから木の説明を流すことで実現できる.これにより,風景を壊さずに,まるで木が教えてくれたかのような感覚と経験を生み出すことが期待される.

Interactive Flower Arrangement

 環境変化や人とのインタラクションによって動的に表現が変化する新しいフラワーアレンジメント手法を実現する.電極化した剣山に生けた花全体をセンサーとして扱うことができる.図7と8にこれを用いたアレンジメント作品の一例を示す.刺激による生体電位変化をきっかけとして,装飾に用いた光ファイバーや花器に組み込んだフルカラーLEDの色を変化させる.この光の表現は,環境とのインタラクションによって,ダイナミックに変化していく.これにより,花が生きているリズムを鑑賞者に感じさせることができる.その結果として,まるで植物と対話しているような経験を生み出すことができる.

Grafted Illumimation

イルミネーションを挿し木する.木に付けた照明を,生体電位の変化によって,フルカラーLEDの色を変化させる.これにより,環境や人とのインタラクションで動的に変化するイルミネーションを実現する.例えば,時刻や温度などの環境変化や人間の接触や接近などの刺激によって電位が変わるすることで,光の色が変化する.また,意図的な刺激による急激な変化が検出されると,その情報が周囲の樹木へも伝達され,光が周囲の街路樹へと波状に広がって行く演出を生み出す(図9).また,遠隔地の樹木とネットワークで接続することもでき,樹木の光を通して,遠隔地の環境や人の存在を感じることができる.

Plantio / Pocket Plantio

Plantioは植物の生体電位反応を光や音として表現するインタラクティブなプランターである.植物側からの自己表現を可能にし,人間との積極的なコミュニケーションを生むことで、植物をまるでペットのように感じることができるライフスタイルを提案している。Pocket PlantioはPlantioの携帯版である、植物と一緒に街を歩くと,環境変化から引き起こる生体電位変化を光ですことができる.(図10)
  ■研究成果

Conference / Exhibit
EC06「I/O Plants:ガーデニング・コンテンツのオーサリングツール」
WISS06「I/O Plant:植物の性質を利用した入出力インタフェース設計支援ツール」Our research took seventh place of demo session.
ORF06「I/O Plant; Plant Feel Light, Interactive Flower Arrangement, Pocket Plant」
ー大手町カフェでの展示
ーインタラクション07「Pocket Plant:植物の生体反応を増幅する携帯型プランター」
ーCHI07 Work in progress「I/O Plant: A Tool Kit for Designing Augmented Human-Plant Interactions」

Submission of paper
ーACE07 short paper + demo「Plantio: An Interactive Pot to Augment Plants' Expressions」

Patent filings
「植物の生体信号測定方法、植物の生体信号測定用電極、外部刺激検出方法、及び、外部刺激検出装置」

   

 


図1

図2
図3

図4

図5

図6

図7

図8

図9

図10