2006年度森基金報告

政策・メディア研究科 修士課程1年 小柳玲乃


■研究テーマ

加速度センサの使用による球の要素特定手法の提案

■研究の目的

 速度センサを内蔵したボールの加速度センサの波形の振る舞いより球の物理要素(初速度、角速度、回転軸の方向)を特定する。

■研究の背景・概要

本研究の目的は、加速度センサを内蔵させた球の挙動を計測し、加速度の示す数値と球の挙動との整合性の計測および実験、解析を行い、この計測手法にどの程度の精度があるかを明確にすることである。球の挙動の観察は球技のスキル検出において非常に重要である。しかしその球に伝達された力は、その計測や評価が非常に困難である。例えば野球においてスカウトは、球速の大きい投手を選んで採用する傾向にある。この傾向は他に判別方法が無いため、速度の大小により評価せざるを得ないことに起因している。そのため球にかかる物理要素のうち速度以外を計測することが出来れば、球技における新たな評価指標の作成が可能となる。本研究における新たな手法は、それを可能にするものであるため、本研究の素材として採用した。この計測器具を用いた球の挙動の計測を行い、球の速度以外の球の挙動を決定する要素の計測アルゴリズムを確立することが本研究の目的である。

 今までバイオメカニクスの分野において最も一般的に用いられてきた画像処理による分析手法のフィードバックの遅さ、実験の困難さなどを考慮し、加速度センサの波形の振る舞いによるより簡便な分析を行う。そして投動作のスキル評価への指標として先にあげた三つの物理要素(初速度、角速度、回転軸の方向)の特定する。この三つの要素は投手がある程度この値を変化させることが可能であるため、この要素が投動作のスキルと非常に関連があるものであると思われるためである。サッカーやバスケットボールなどの球技において、人間の身体運動を球の要素のみより鑑みることはそのスキルの非常に狭い範囲しか計ることは出来ないが、野球の投動作は他の運動と比較して環境からの影響が少ないため、球の要素を計測することによってそのスキルの広い範囲を網羅することが可能であると思われるためである。

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図1:研究の概要

■今学期の研究活動

○先行研究調査

秋学期

・Rabindra, D.M.,(2006). An overview of criket ball swing. Sports Aerodynamics Consultant, 181-192

・Abdel-Aziz, Y.I., Karara H.M.,(1971).Direct Linear Transformation from Comparator coordinates into Object Space coordinates in Close-Range Photogrammetry. Proceeding of the Symposium on Close-Range photogrammetry, 1-18 ., Falls Church: American Society of Photogrammetry.

春学期

・Alaways, L.W., Mish, S.P. and Hubbard, M. (2001). Identification of release conditions and aerodynamic forces in pitched baseball trajectories. Journal of Applied Biomechanics, 17, 77-83

 ・Alaways, L.W., and Hubbard, M. (2001). Experimental determination of baseball spin and lift. Journal of Sports Sciences, 19, 349-358.

 ・Watts, R.G.., and Ferrer, R. (1987). The lateral force on a spinning sphere: Aerodynamics of a curveball. American Journal of Physics, 55, 40-44

○オーストラリアへの視察

オーストラリアブリスベンにあるGriffith Universityの学部のひとつであるremote sensingの研究室の見学を行い、相互の交流を深めた。また、Griffith Universityに隣接しているQASC(Queensland Academy of Sports Centre)内の研究室の見学を行い、その環境を見せていただいた。

私は今回の視察に際して、自らの研究をGriffith Universityの学生に発表する機会を得た。私は対外的に研究の発表や、プレゼンテーションを行う機会がなかった。また、英語でのオーラル発表を行う機会もなかったため、今回の渡欧は非常に有意義なものであった。

○実験

 12月20日

  実験機材:高速度カメラ(Photoron社製)

  内容:投球動作のリリース付近の映像を撮影することにより、ボールの中心位置、速度、回転軸の方向、角速度を計測する。映像は高速度カメラを用いて撮影を行い、DLT法による3次元解析を行い、ボールに塗布したマーカーの座標を算出する。

また、自作したキャリビュレーションポール及びトリガー発生グラブが実験に耐えうるものであるかなどを検証した

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図2:実験の様子

■今後の予定

 2月20日

 実験の簡略化を計るための予備実験

  実験機材:高速度カメラ(Photoron社製)

  実験目的:前回12月に行った実験より、カメラの位置やキャリビュレーションに実験の時間の多くを割かれた。よって次回の実験時により早く実験を遂行するため、今回の実験を行う。

 3月前半

 加速度センサの波形の計測

  実験機材:高速度カメラ(Photoron社製)、加速度センサ

  実験目的:上の画像処理法を利用し、加速度センサを内蔵させたボールの物理要素と加速度センサの波形との整合性を観察していく。

○その他

 角速度のキャリビュレーション

  機材:回転台