2006年度 森基金研究成果報告書

研究課題名:「LRT導入による富山市の持続可能な都市への脱皮」


武藤正紀

政策・メディア研究科
修士課程
 


本研究では、今年度「地方都市の持続可能な公共交通政策としてのLRTの導入効果に関する研究−富山市を事例として−」というタイトルのもと修士論文を執筆し、これまでの研究成果を結実させた。以下、その論文の概要について報告する。

1.本研究の概要:

近年、日本の地方都市においては自動車交通の拡大(モータリゼーション)とそれに伴う都市の郊外への拡散(スプロール化)が発生し、中心市街地の衰退や公共交通の衰退、更に人口減少・少子高齢化の進展から、低密度な都市域の行政管理コスト拡大など、環境的、社会的、経済的と、多様な側面からの持続可能性が危ぶまれている。 本研究は、このような問題に対処し、都市の持続可能性を獲得する手段としてLRT(Light-Rail Transit)システムの導入による公共交通再生が有効であるという考えに立ち、LRT導入の影響を日本の地方都市の持続可能性という観点から明らかにし、その成果を今後の日本へのLRT適用にあたり成功への戦略として提供していくことを目的としている。日本初の本格的LRTとして2006年4月に富山県富山市に「富山ライトレール」が開業しており、本研究ではこの事例の分析を通し、LRTシステム導入の効果を検証している。 具体的な分析方法としては、調査票による沿線住民へのLRT導入効果に関するデータ収集を実施し、統計的手法と「行動群」の理論(後述)を用いた検証を行った。 分析の流れとして、まず1)「LRTの持続可能性獲得手段としての妥当性検証」として、LRTが提供するサービスが、持続可能性獲得という目的に際して強い効果を発揮しうるものであるかどうか、そうだとしたらどのサービスが、どの層に対して影響を及ぼすのか、についてカイ二乗検定を用いて分析を行った。これにより、LRTシステム導入によるサービス向上は社会的・環境的持続可能性を獲得するための特徴を有しており、地方都市の持続可能性獲得手段としての適用妥当性があることを明らかにした。2)「LRTによる持続可能性獲得効果の測定」として、LRTシステム導入による交通機関利用時間の変化、行動機会変化などを確かめ、適用妥当性があるとしても、実際の効果はどの程度得られるのかを検証した。その結果、地方都市の課題に対応し、環境的・社会的持続可能性を高めることなどを明らかにした。 LRTシステムによってカバーできる部分、できない部分を提示したことで、今後の日本の地方都市における持続可能性獲得に向けたLRT導入計画において、より効果的な導入戦略策定へとつなげることができると考えられる。


2.本研究の成果の概要:

T.「LRTの持続可能性獲得手段としての妥当性」を明らかにした

■「社会的持続可能性」獲得妥当性
*利便性、バリアフリー → 高齢者中心に強く反応
*デザイン → 都市活動の活発化

■「環境的持続可能性」獲得妥当性
*終電等利便性 → 自動車利用を行う就業者中心にシフト

少子高齢化、中心市街地衰退、自動車利用拡大と公共交通衰退という課題を抱える地方都市に対する処方箋として、有効に機能しうる。

U.「LRTによる持続可能性獲得効果」を明らかにした

■「行動群」の理論
属性で異なる活動特性に着目し住民を分類したもの。既往研究(池田、2003 et.al.)では、パーソントリップ調査を元に11の行動群に分類し、それぞれの行動群ごとに異なる政策アプローチをすることの重要性を説いている。本研究では、富山市住民の行動特性に関する分析を通し、行動特性に影響の強い5変数によるクラスター分析を実施、既往研究の分類を研究目的に合致する形で統合された6分類が得られた(表2、図2)。

■環境的持続可性の獲得
*どの行動群でも、一律の公共交通(LRT)利用増加
*非自動車依存層の中でも特に自動車利用の多かった「就業者型」での自動車→公共交通のモーダルシフトの確認
*非自動車依存層の全体割合増加

■社会的持続可能性の獲得
*郊外→中心市街地
*高齢者を中心としたモビリティ向上
*沿線経済活動活性化

■将来予測からみるLRTの長期的持続可能性獲得の評価
*少子高齢化の進展により、LRT化事業が行われなかったと仮定した場合でも約2%の自動車依存→非自動車依存への割合シフト(しかしながら行動特性は変わらない点に留意)。
*LRT化事業を実施した場合、2020年において、未実施と比べ約5%、導入前の2005年と比較して約7%の自動車依存→非自動車依存への割合シフト(加えてLRT化による行動特性変化も有り、実際はより効果が高いと考えられることに留意)。

3.本研究の結論:

@社会的持続可能性:
LRTのサービス特性は持続可能性獲得に重要な層への影響、特に高齢者等の行動活発化など都市活動の再生効果が見られる。
→ 日本の地方都市の課題(高齢化)などが見込まれる際、持続可能性獲得手段として効果的な公共交通再生手法である。

A環境的持続可能性:
通勤者からのシフトや長期的な自動車依存層低減など一定の効果が見られた。
→ しかしながら、自動車依存度は依然として高い割合であり、更なる効果獲得のためにはTDM等他施策とのパッケージ戦略を提供していく必要がある。


4.研究成果の対外発表:

本年度は、以下の研究発表機会があった。

*2006.08.25-27.…"The 11th Inter-University Seminar on Asian Mega-Cities"へ英語論文投稿、英語口頭発表(タイ・バンコク・チュラロンコーン大学)
*2007.02.…富山市への調査結果報告(論文及び報告書)


5.謝辞:

本研究を進めるにあたっては、森基金の研究助成に大変お世話になった。特に、富山市での現地調査の旅費や調査票の郵送費、必要研究機材の調達費など、研究助成により多くを支えられ、基金なしに十分な研究を遂行し難かったであろうことは間違いない。故森泰吉郎氏のご厚意と、基金を支えられてきた多くの方々に最大限の感謝の意を表したい。

以上


Last modified: Tue Feb 27 00:00:00 JST 2007