2006年度森基金報告書

政策・メディア研究科 

修士課程1年 石井未帆子

 

◆研究タイトル

『貧困におけるコミュニティの有用性 タイ北部を事例に』

 

     研究の概要

本研究はタイ北部の農村部において、HIV感染者がいかにして生活をしているか、生計をたてるためにどのような支えがありその支えがどのように有効的に働いているのかを検証する。

 

研究背景と問題意識

 現在グローバル的な経済活動が広がるなか、途上国には今までにはなかった様々な問題も同時に持ち込まれている。そして、貧困という現状に付随した問題は経済成長とはうらはらに悪化の道をたどっている。

農村部においてはいまだに貧困が蔓延し、生活のために児童労働や売春、ドラッグなどの問題が起きている。これらの問題を解決するためには、国の援助や補助も大いに必要であるがそのようなプロジェクトは実行までに時間と多大なる資金を必要とし人々の生活が豊かになる兆しが見えない。

そこで、そのような問題を抱えた人々はどのように生活しているのか、また人々が生活していくには何が必要とされているのか現地でインタビュー調査を行ない現状分析をする。

 

◆調査

コミュニティの影響の調査として、サンカンペーンという地域を中心に調査を行なう。サンカンペーンはタイ国民のうちでは温泉で有名な観光地であるが、HIV保持者を支援するコミュニティがある。今回のFWではそのコミュニティに参加している人々はコミュニティの必要性や重要性をどのように捉えているのかインタビューを行なう。

 

@     HIV支援をしているコミュニティ

サンカンペーンにあるHIV保持者の人々を支援するコミュニティを訪れた。

コミュニティに参加している人は主に未亡人である。そのため、一人では生計を立てられずにいる人々である。

タイでは、貧困のためにHIVに感染する人が多い。その原因は一つではないが要因として貧困が挙げられるのは間違いがない。HIVと判明すると村から追い出されたり、人々から村八分にされたりということがある。もちろん、健康上の理由から職に就けない人々がほとんどである。その状態で人はどのように生きていけばよいのだろう。残念ながら健康な人間であっても一人で生きていくというのは不可能であろう。まして、働く場所がなく、病気を患っている人間はどのように生計を立てていけばよいのか。

 コミュニティの重要性はそこに参加している彼女たちが十分に理解している。コミュニティは協会などの場所を利用することが多い。

・労働の提供

ここでは職を与えることで、彼女たちは生計を立てている。職とは、タイを観光する人が買う土産を作ることだ。

 作っているもの ⇒ サーペーパーを使ったモノが主流

メモ帳、扇子、人形。それから、錫で作られた栞、布でつくられて手提げや鞄、携帯電話入れなど種類は多様

彼女たちはそれらのモノをつくり、売ることで収入を得ているのだ。

 

A     農村開発、HIV対策をしている牧師さん

グループの支出入

支出・・・20,000B/月(スタッフの給料、光熱費・・・)

収入・・・寄付金は少ないけど、プロジェクトを立ち上げればファンドをもらえることが多い。NGO、政府、ユニセフなど。ユニセフはここ2年ほど寄付してくれている。また、寄付金箱を設置もしている。

 

活動問題

     HIV患者の家庭訪問

     グループでミーティング

     エイズにかかったときの自分自身の身体のケア仕方を教える

     緊急時に医療機関にかかれるような基金をつくっている

     庭に野菜を植えるなど、家計の支出を抑えられるように支援

     エイズ患者とどう一緒に暮らすか、生きていくのか

     Youth group, middle group, old groupの三つのグループでセミナーを持っている。

     Day care centerとしての役割

     知識センターでもある(ここには知識に関する本やレクチャーなどがある)

     チェンマイ各地の大学生や日本人が来て「モデルグループ」として参考にされたりする、ホームスティやFWしに来る人もいる。

     牧師さん本人が1991年に始めてから、7人の村のHIVの子供が大学に行き、彼らが戻ってきて、シニアとして若い子たちの面倒を見たり教えてくれたりしている。彼らは1月に1回はミーティングをしており、プロジェクトがある間は1月に5回ほどミーティングするときもある。

◆調査結果

人々の生活に共通していることはコミュニティである。比較的コミュニティに参加している人はお互いに助け合いながら生活ができているが、参加していないひとはとても厳しい状況の中暮らしているように思える。

経済面

コミュニティに参加する者は生産性を高める工夫をしており、労働自体とまた資金においても助け合いが生じる。一方、コミュニティに参加しない者は昔ながらの生産法をとっており、そのためなかなか高い収入が得られない。

精神面

協力すること、相談するなど仲間と打ち解けることにより、信頼関係がうまれる。

信頼は労働を提供し易い環境をつくり、さらに助け合う環境をつくる。

病気や貧困といった問題を抱えながらも、このような環境いわゆる心のつながりが持てることは生活していくうえで大きな支えとなっている。

 

このような結果から、ひとが生活するうえで、コミュニティの重要性というのがいかに豊かに生きるか、安全にいきるかという問題に大きく影響していることがわかった。

 タイでは貧困という問題を抱えている人がとてもおおく、まだまだ貧困にまつわる様々な問題(HIV、ドラッグ、生産性の低さ、借金)が蔓延している。それぞれに解決されなければならないことであるが、コミュニティという組織がこれらを緩和する作用を持っていることが今回のFWでの調査でわかった。

 

     資金の使途

森基金からご支援していただいたことに厚く御礼申しあげます。提供された資金は主にFWのための渡航費、宿泊代、書籍代にあてた。