中国における物流情報システムの構築に関する研究

北京の物流業における情報システムの構築を中心として

      慶應義塾大学

政策・メディア研究科

修士2年孫夏


本研究では,中国における物流情報システムの現状調査,RFIDの導入の可能性及びRFIDの導入が中国の流通業と物流業の近代化の推進に果たす役割の研究等を行い,中国における物流情報システムの設計と構築について提案を行う。また,中国特に北京におけるサプライチェン情報システムの設計と構築についても提案したい。


1.研究の目的

香川敏幸・孫前進の研究において,中国の物流には,「中国経済発展の新しいボトルネックになる問題」が依然として頑強に残っているという指摘がなされている。(「中国経済発展の新しいボトルネックー中国物流問題の現状と課題」KEIO SFC JOURNAL VOl.2NO.1 2003 3月)

近年急激な経済成長を遂げている中国は,食品、衣料、工業製品などの大量生産国である。中国の製造業者や生産者は,日々,大量の商品などを生産しており,これらが,輸送業者、卸業者、倉庫業者などを経て,小売店に流れて行く過程においては,入出荷作業や検品作業などが随時発生し,大変な労力とコストがかかっているという状況にある。そのため,それぞれの作業を正確かつ効率的に進めるとともに,物の流れを効率的に管理するためのキーデバイスとしてRFIDが注目を集めている。

このボトルネックとなる問題を解消し,中国物流の近代化を推進することが,本研究の目的である。


2.研究の意義

現在の中国における物流については,原材料・資材から最終生産物まで円滑に物が流れる上に,物流・流通チャンネルそのものの問題がある一方,物流システムと物流情報システムの技術的問題がある。効率的な物流情報システムを構築することにより,中国の流通業と物流業の現代化を推進することができる。

(1)流通と物流の効率向上

RFIDという革新的技術の導入により流通と物流の未来ビジョンを打ち立てる。RFIDによる物流・ロジスティクス/流通過程すなわちサプライチェンの効率化への挑戦は,関連業界全体を巻き込む大きな渦を起こしつつある。

(2)物流情報システムの構築

中国の製造業界は年間8千500億ドルの製品を生産しており大部分が輸出されている。RFIDタグをつけた製品のグローバルサプライチェンを考慮に入れる際,いかに中国の市場影響力を確保しつつRFIDビジネスの戦略を立案するかということが重要になってくる。

AUTO LDの目的はグローバルなオープンネットワークを創出しどこでも自動的に物体(商品,貨物)を認識することにある。情報の透明性が完壁に限りなく近いサプライチェンが創出されると入力ミスの低減,在庫管理の効率化による適正在庫の確保,商品回転率の向上,損耗・紛失の減少,安全性セキュリティーの確保等ができる。


3.研究の背景

(1)中国の物流業に関する先行研究――課題研究の必要性

前記の香川敏幸・孫前進の研究は1970年代後期以来,改革・開放を進めている中国には,現在,急速な経済発展のテンポに対して遅れる物流部門の問題が,経済発展の新しいボトルネックになっている」と指摘し中国物流の現状と課題をマクロの視点から分析している。

① 物流問題が中国経済発展のボトルネックになる

② 物流問題が中国経済発展のボトルネックになっている理由

(2)中国政府の促進策――課題研究の重要性

20031125 中国国家標準化委員会は「電子標簽」(RFIDタグ)国家標準グループ(RFID Nationa1 Standards Working Group、略称RFID NSWG)を設置した。中国のRFIDについての政策として,「独自の知的財産権を有すると同時に,国際共通の標準仕様にも互換性を有すること」を原則とし,中国政府は「RFIDの標準化を促進する」としている。

あるアンケート調査によると,20038月の時点では31%の中国の企業がRFID技術を聞いたことがないと言っている。40%は言葉を聞いたことがあるがそれ以上の知識はないという。そこで,RFIDを早く中国に導入し,利用を推進するため,いろいろなイベントが開かれている。例えば,20041011日,北京で「世界RFIDフォーラム」が開かれ,また,200542628日の間,北京で「RFID中国論壇」のイベントがあった。

(3)新しい流通ビジネスモデルの誕生――課題研究の実用性

RFIDとはRadio Frequency-Identification(無線電波方式認識)の略で、無線を使った個体識別技術である。一般的に内部のメモリに人や物を管理するためのIDなどの情報を記録電子タグである。

 RFIDシステムとは: 

◎ 携帯容易な大きさであること、

◎ 情報を電子回路に記憶すること、

◎ 非接触通信により交信すること。(日本自動認識システム協会の定義により)

 RFIDの特徴:

◎  非接触でデータの読み出し(Read)&書き換え(Write)が可能

   ◎  電波電磁波で交信するため、汚れ、ほこり等の影響を受けにくい

  障害物を介して、データの交信が可能(金属等を除く)


4.研究の内容

(1)RFID使用分野

RFIDが使用される代表的な需要分野とアプリケーションは表-1に示すものである。

もうすでに実用化を行っているアプリケーションや、実証実験、計画中の案件なども含まれており今後は実用化に向けての取り組みや新しいアプリケーションが拡大されていくと考えられる。

表-1 代表的な需要分野とアプリケーション

需要分野

アプリケーション、媒体

主な実施主体、協力

製造業者

生産管理

工程管理

工具管理

 

製造業者における工場など

物流分野

宅配便

航空手荷物タグ

鉄道コンテナ

パレット

宅配便会社

新東京国際航空公団

日本貨物鉄道

流通システム開発センター

流通分野

アパレル

 

家電リサイクル

流通システム開発センター

伊勢丹

日本自動認識システム協会

セキュリティ分野

イモビライザー

自動車メーカー、機器メーカー

アミューズメント分野

スキー場、プール、サウナ、

ゲームセンター等

左記の各経営者など

レンタル、リース

図書館、レンタルショップ

流通システム開発センター

その他の分野

回転寿司

ビデオセット

内田洋行

ソニー

出処:「大容量自動認識システム市場の現状と将来展望」より

 

RDIDが利用されると読み取り可能な距離が長いものについては物流やサービスの効率化に貢献するとの期待が高まっている。これまで物を管理する場合にはバーコードが用いられてきた。RDIDとバーコードの特性は、表―2に示すようなものである

 

表-2  RDIDとバーコードの比較

RFID

バーコード

具体的な物体を識別することができる

1種類の物体を識別することしかできないのではない

無線で電外部の材料を通してデータを読み取ることができる

レーザーに頼って情報を読み取りなければならない

同時に多数の物体に対して読むことができる

ひとつひとつ読むことしかできない

注:筆者作成

 

(2)現場調査

2006年夏休みに行われたフィールド・ワークの結果に基づいたものである。資料としては,北京市物流部門、中国地元物流企業、外資物流企業を対象に実施したインタビュー記録、調査資料も扱われている。もちろん,調査した企業の数が限られており,それをもってほかの企業にあてはめることができないが,この調査を通して,中国ではもっとも発展している北京、上海物流現状とそのボトルネック問題を解消方法について検討することにこの研究の目的である。RFIDの中国での利用状況を主要調査内容とする原因は,“中国の物流問題は,中国経済発展の新しいボトルネックである”という先行研究成果と観点を解明する一方,この新しいボトルネックを解消する方法を探究しようという動機もある。物の流れを効率的に管理できる方法の一つは,RFIDが使われることであるという認識あるので,中国でのRFIDの利用現状に焦点をあてて調査してきた。

本調査は,中国最大に二大都市である北京市と上海市にある六つの物流研究と企業を調査してきた。主な調査内容は,中国物流業の現状、一般物流企業の物流情報システムの様子と現状,RFIDの利用現状などである。

調査企業は,「北京現代物流研究基地」、「北京物流技術とシステム重点実験室」、「北京京客隆集団公司」、「ProLogis北京」、「夏輝食品物流有限公司」、「山九物流株式会社上海支社」六つの企業である。投資主体分類すれば,調査企業は、北京市にある物流研究機関、中国地元小売り企業、外資物流企業、上海の日系物流企業など四つの種類がある。調査企業は,北京に五ヶ所、上海には一ヶ所である。

2004年に北京市商務局公表された「北京市の物流の発展計画」によると,北京の物流処理総量は3.87億トンである(品物の輸送量、貯蔵量、配送量、流通の加工量を含む,品物の貯蔵量を含まない)。全市では13000数個倉庫があって、総面積が1350数平方メートル,倉庫容積が4340万立方メートルである。鉄道の専用線が375本,道路の貨物輸送車が20数万台の規模がある。


5.現状への認識と悟り

中国の経済の発展に伴って物流も速いスピードに発展しているが産業地帯が沿海部に集中している。だがエネルギー資源の産地は北西の内陸部にあるため先進的な物流網が要求されている。同時に流通面でもスーパーとコンビニの普及チェーン経営の発展など小売業が導入され先進的な物流網が必要である一方先進的な物流情報システムも必要である。以上の調査を通じて、以下のことを考えられる。

(1)理論と現場間の差

 調査企業に訪問資料などを通じて北京の物流企業の現状と概況が多少分かってきた。特に直接的に物流企業現場の様子物流情報の伝達手法物流企業がRFIDの使用への認識程度RFIDの使う現状が理解できた。

 現場への認識は学校で書籍を通じて得た知識やイメージとは異なる点が存在している。これは理論面と実践面との差と思っている。

(2)物流業の激しい競争

北京の物流業は発展が速い一方少なくない問題が存在している。大型の物流企業はほとんど計画経済時代から存在している国有(あるいは株式会社であるが政府の相関部門大株主である)企業は経営の活力があまり強くない。外資物流企業は20051211日から(WTOの加入の承諾加入時期から三年間で物流市場の全面開放)中国市場に自由に進出ことができた。沿海部の民間物流企業も急速的に成長しているためその三者の間に激しい競争局面になってきた。

(3)急速発展の緊迫感

中国の物流の概念とやり方は主に日本から導入し一部は欧米から導入しているものである。日本は二十世紀70年代から物流という概念を使っている。たとえば物流に関する教科書の内容は概念面のものが多い一方だいたい同じというイメージがある。一部内容はもちろん新しい概念と理論を使っている、たとえば3PLサブライチェンを用いるのだが実例で説明が少ないのである。中国の物流市場の育成物流企業の成長流通ルートの発展と建設など日本と気ラベルと物流の初期階段に発展中のことと思われている。

(4)構築中の情報システム

先進諸国には二十世紀の80年代と90年代に情報革命というこことが発生された。政府の情報網の建設と当時に企業の情報システム特に流通業に情報網の建設をもしていた。日本のセブンイレブンがEDI技術を利用し当時にPOSシステムによって物流センター、メーカー、店、卸売り、金融機関などが繋がっている。現在の中国の小売業の情報システムは日本の80年代と90年代の大体相当していると見られているでも全面的に観察見るとたくさんのところはまだ建設中の状態である。

(5)RFIDの使用の促進策

全般的に観察すれば中国政府にRFID技術の開発と応用が重視されてきた。例えば2006年には「中国RFID技術政策白書」公布され鉄道部門、郵政部門、コンテナ、空港など処にRFIDの応用と普及を促進している。年一回の全国的なRFIDフォーラムも開催している。

2005122 午前中中国無線ダク認識システム(RFID)チームが北京で正式成立した。今RFIDタグの仕事の業務の機能は7大部分に分けてある。すなわち総体グループ、ラベルと読み書き器グループ、周波数と通信グループ、知的所有権グループ、データのフォーマットグループ、使用グループと情報セキュリティグループである。


6、RFIDの利用現状と問題点

RFIDタグや関連製品を展開している各企業においては様々な考えや思惑が市場には存在している。しかし現時点で考えられる課題問題点を集約すると以下3点にまとめることができる。さらに解決のための糸口についても現状でのシナリオとしてまとめている。

表―3 主な課題、問題点と現状での解決の糸口

 

主な課題、問題点

現状での解決の糸口

1

高価額

●市場の立ち上がり(量産化)

     チップ及びタグの量産化体制確立(ビッグプロジェクトの立ち上げなど)

     海外メーカーの活用や海外工場への展開 等

2

標準化の遅れ

ISO/IEC標準化やJISの早期策定

各業界団体での標準化推進

     無駄な開発費の節約のため

     標準化による、周辺機器を含めたシステム

全体の低価額化を期待、等

3

RFIDタグ

環境のイフラン整備

     リーダ/ライタ設置の早期整備

     設置費用負担の明確化

     正当な設置者・負担者の市システム作り 等

出処:「大容量自動認識システム市場の現状と将来展望」より

 

(1)コストが高い

RFIDは他の大容量自動認識システムに比べてやはりイニシャルコスト及びランニングコストが高い。FA分野など再利用タイプで現在300円程度流通分野に代表される使い捨てタイプで100円のものが使われており今後は再利用100円前後使い捨て20円程度と市場内としては安価になっていくがまだまだ他のシステムとコスト的に比較するレベル低い。

RFIDタグはどうしても安価なバーコードと比較される。現在のバーコードの1枚あたりコストはほぼ0円に等くし現状では価額的に対象にはならない状況である。

現在のRFIDタグの価額は流通量が比較的多いもの(10万個レベル)でも100200円点程度(タグの性能やロット数によって価格は変わる)と言われている。将来的に落ち着く価格は数十円程度と考えている業界関係者が多くこのあたりの金額になると安全性や高機能のメリットを重視し導入するユーザーもかなり増加してくると考えられる。そのためには量産化により価格が下がることを市場関係者は期待している。

(2)標準化の遅れ

現在RFIDタグ市場が発展途上のためマーケットには様々製品がある。有望な製品がマーケットにはあるがどの製品が標準化されるかは決定するまで見極められないであろう。

しかしユーザー側見るとISOIECなどの規格で整備された方が様々なアプリケーションなどで使用できるなど非常に都合がよくなる。また価格面でも規格に準拠した製品が多数のメーカーから出てくれば価格競争により低価格な製品もマーケットに投入されることになる。

ユーザーの立場からでもまたメーカーの立場からでも大半が早期の標準化実現を望んでおりそれによる低価格製品の普及とRFIDタグシステムの認知度アップを期待している。

(3)RFIDタグ環境のインフラ整備

設備投資の大半を占めるインフラ環境の整備が重要である。RFIDタグシステムは導入拠点が多いほど享受できる総メリット量が相対的に多くなるため対象物が流通する過程すべてでインフラ環境が整備されるのが理想である。しかし各企業の設備投資捻出は非常に厳しく現状では困難な状況の企業が大半であろう。同一業界もしくはグループ企業によって導入リスクを減らし適正なメリットの享受が配分されるシステムづくりが急務であろう。

 


7、今後の啓発と思考

今度の現場調査により,主に次の二つのことを考えている。

(1)中国でRFIDの普及の可能性

 調査企業先から頂いた資料を分析すると近いうちにRFID技術が中国の大部分の流通部門、運送部門、公共事業管理部門に普及する可能性が高いと予想できる。その原因は前述の諸部門の情報システムが、ほとんどまだ建設していないですため、いったん建設し直接的に先端技術であるRFIDが使われる可能性が高いと予想できる。

(2)中国でRFIDの普及の必要性

経済グローバル化の拡大及び中国経済の成長に伴い中国経済活動は世界経済の重要の一部分になるため国内物流システムと物流情報システムの自身の建設一方国際経済活動の面から先進諸国同じようにRFIDの使用ことが要求される。したがってRFIDの使用と利用は必然なことだと思う。もちろんコストの下げることと標準化の問題の解決はその前提である。

 


 

参考文献(一部):

1http://www.prologis.com/US/EN

2http://www.jkl.com.cn/newsite/index.htm

3http://www.bjpopss.gov.cn/

4http://www.rfidchina.org/

5http://application.rfidchina.org/rfid-head-160.html

 

日本語文献:

6)田中道雄・栗田真樹 編著 「現代中国の流通と社会」ミネルヴァ書房 2005

7)田中信哉 編著 「入門の入門 物流のしくみ」 日本実業出版社 1997

8)寺嶋正尚・後藤亜希子・川上幸代・洪緑平 編著

「よく分かる中国物流業界」(株)日本実業出版社 2003

9)香川 敏幸 孫前進 「中国経済発展の新しいボトルネックー中国物流問題の現状と課題」

KEIO SFC JOURNAL VOl.2NO.1 2003 3月)

11)黄磷 編著 「WTO加盟後の中国市場-流通と物流がこう変わる」 蒼蒼社 2002

12)流通政策研究所 編著「流通新世紀」 日本経済新聞社 1989

13)岸上順一 著 「RFID教科書」 カットシステム 2003

14)総務省研究会資料 「RFIDの普及に伴い今後予想される技術的課程」 20061212

15)理化学研究所 「中小企業基準認証研究開発事業RFIDリライト複合媒体タグの標準化」 2004

16)(株)矢野経済研究所 「大容量自動認識システム市場の現状と将来展望」 2003

 

中国語文献:

17)北京市商務局・北京物資学院 編著 「北京物流藍皮書」 2005 新華出版社

18)北京現代物流研究基地 編著 「北京現代物流研究報告2006 同心出版社

19)孫前進・香川敏幸・陳宏 著 「亚经济形成中的流通境分析」