2006年度 森泰吉郎記念研究振興基金 報告書

「タグ付けによる情報共有を通じた経済価値創出実態の検証」
研究代表者名:政策・メディア研究科 深見嘉明



要旨

各種ソーシャルブックマークサービス、FlickrやYouTubeなどの画像・動画共有サイトなど、情報蓄積時にキーワードやコメント(アノテーション;注釈)
を付与することのできるサービスが増加している。 これらのサービスのもつ特徴は大きくは2つある。1つは蓄積情報の整理のためにアノテーションの機能が提供されていること。
特に「タグ」と呼ばれるキーワードは自動的にハイパーリンクやキーワードページが生成され、タグを介した情報の集約が行われるようにされている。もう1つは基本的に蓄積したデータ・アノテーションを公開・共有するという仕様となっており、これらのサービスが個人の情報整理ツールを超えた機能を果たすこととなっている。
情報の整理のために付与されるタグは、これまでコンピュータ上での情報整理における主流の手法であったディレクトリ構造とは異なり、分類体系にヒエラルキー構造が存在しない。そのため同一個人が複数の分類基準の同時使用することや、
異なる価値観・分類嗜好をもつ個人同士が蓄積情報の共有・活用が容易になると考えられる。また、ユーザ個人の情報整理基準を可視化させるとともに、ソーシャルブックマークでは蓄積するURLに存在する記事制作者との間やサービスユーザ同士で発生するコミュニケーションのための新たな表現形態となりつつある。
こうした特長を持つタグ自身が果たす機能、ならびにタグを蓄積・活用する際のユーザの意図を分析することはユーザ間コミュニケーション・情報共有の新たな様式ならびに公開された蓄積情報の利用のために欠かせないと考える。
本研究では株式会社ECナビの協力の下 Buzzurl:http://buzzurl.jp/(データ受領時はECナビ人気ニュース)、ECナビリスト:http://list.ecnavi.jpというそれぞれ異なる特徴を有するソーシャルブックマークサービスの蓄積データ解析ならびにユーザ調査からタグを中心とするアノテーション情報の機能を分析するものである。 蓄積データ分析ではタグの機能分類を実施し、タグの果たす機能を特定するとともに、どのような役割を果たすタグが多く生成されるのか、その傾向を把握する。
特にECナビリストはアマゾンジャパン(http://www.amazon.co.jp/)の商品データベース(データ受領時は書籍に限定)を活用した書籍情報の蓄積・アノテーションサイトであるため、既存の図書館学・図書分類(NDC等)や書店など流通現場における商品分類・陳列との比較を行うことにより、ユーザ・一般消費者にとりより便利な図書分類の際の基準を抽出することを目指す。 ECナビ人気ニュースは対象をニュースサイトに限定したソーシャルブックマークであり、スクープ機能、ユーザのお気に入り機能などユーザコミュニティ内でのコミュニケーションを促進させる要素が多く含まれていると考えられる。特徴の異なる2サイトを比較することにより、サイトのコンセプト、ユーザインタフェイス、提供機能がタグ生成に与える影響を分析する。
このような分析を行うことにより、1)ソーシャルブックマークサービスにおいて用いられるタグ(キーワード・語彙)の特徴、2)蓄積されタグなどのアノテーションが付与される傾向がある対象の傾向、3)ユーザの情報蓄積・アノテーション行動プロセス・意図、4)蓄積された情報、特にタグの活用動向を整理する。3)に関しては自身の情報収集・整理のため以外に広がる活用用途、特にコミュニティ内外のユーザに対するメッセージ発信としての蓄積・アノテーション行動に潜む構造に注目し分析を行う。
これらの分析を通じ、タグ集合(タグクラウド)として可視化された個人もしくは集団(コミュニティ)の分類体系・嗜好情報を消費者理解・マーケティング施策立案に活用する可能性について考察する。また、フォークソノミー(個人の独立したメタデータ付与行動=タグ生成による共有された意味体系の創出)という概念が注目されているが、この概念が実際に成立しうるものであるのか、ユーザがフォークソノミーという概念を前提としたアノテーション行動を行っているのか、仮にフォークソノミーが成立するならばどのような特徴をもつ体系となるのかについての考察を行っている。




研究進捗  

2006年6月より株式会社ECナビにおける前述ソーシャルブックマークサービス運営部門であるECナビラボのスタッフに対し インタビューを実施。サービス開発の経緯、サービス・提供機能にこめられた考え方やデータベース設計について把握してきた。
2006年12月に上記2サービスの蓄積データを受領し、本格的な分析作業に入る。
また、SBMの一般ユーザに対するインタビュー、アンケートデータの収集を既に始めているとともに、当該サービスユーザに対する調査(定量・定性)を3月に予定しており、タグ付与・選定語彙に関する意図やタグ情報の利用実態についての情報が得られることが期待できる。



成果

タグの機能分類に関する先行研究としてはScott A. Golder and Bernardo A.Huberman のThe Structure of Collaborative Tagging Systemsがあるが、図書の分類(ECナビリスト)では著者名やタイトルなど個人によるオリジナル分類以外の商品情報が数多く蓄積されていた。また、一般ユーザのヒアリングからタグ付け時に他者が自身の蓄積した情報を利用することを想定しないものの、結果的に他ユーザと蓄積情報の相互利用が進んでおり、かつ消費活動時の情報収集に繋がっている側面もみられ、意図せざる協働がSBMというプラットフォームによって実現しつつあることが垣間見える。
分析結果そのものは現時点では株式会社ECナビとの間に締結した機密保持契約のため、WEBに公開する事は差し控えるが、 情報社会学会、人工知能学会全国大会への投稿につながっている。