2006年度森泰吉郎記念研究振興基金 成果報告書

「ネットワークゲームにおける地形情報とアバタ移動履歴を用いた推測航法精度の向上」

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科修士課程2年 金田 裕剛

 インターネット上で大規模なユーザ同士が同時参加するオンラインゲームが普及している。オンラインゲームではお互いの操作内容をネットワーク上にメッセージとして流し、受信してゲーム空間に反映することでゲームを進行する。当然メッセージの伝搬にはネットワーク遅延が発生し、これにより同期やゲーム進行の品質に影響が出やすい。一般的には推測航法を用いて、ゲームエンティティの方角、速度、加速度の履歴を利用し、ネットワーク遅延時間の軌跡予測を行うことで影響を低減する。本研究ではゲームマップの地形情報とアバタの移動履歴を組み合わせた推測航法手法を提案する。

 今年度の研究進捗では、各推測航法手法を検証するためのエミュレータTriEPMの実装を行った。TriEPMはペンシルバニア大学のクライアント・サーバ型MMOGアプリケーションSimMudを改良し開発した。TriEPMのスクリーンショットを下図に示す。

(*)TriEPMスクリーンショット

TriEPMの基本動作について述べる。本アプリケーションは実験環境アプリケーションと実験シナリオ生成スクリプトから成る。まず利用者は実験シナリオ生成スクリプトを用いて、ネットワークノードのライフタイムリストを作成する。次にこのリストを実験環境アプリケーションに投入する。実験環境ではシナリオに基づくノードの参加および離脱を実施し、随時各種パラメータを記録して実験終了する。最後に結果集計スクリプトを用いて実験結果を参照する。

 TriEPMの特徴を下記に挙げる。

1.C/S型およびP2P型トポロジの対応

 TriEPMはSimMudにおける従来のクライアント・サーバ型トポロジに加え、P2P型トポロジによるオンラインゲーム環境のエミュレーションを可能にした。P2P型はハイブリッドP2Pに対応し、ネットワークに参加するノードに対し、ゲーム領域を割り振り担当させる機能を有する。これにより推測航法手法をC/S型・P2P型両トポロジで実験可能となった。

2.RAID機能の強化

 SimMudではクエスト呼ばれるRAID機能がある。RAIDとはゲーム中のボスに当たるイベントであり、複数のプレイヤアバタが協力しなければ攻略することができない。TriEPMではSimMudにおけるゲームエンティティが移動しない静的なRAIDイベントに加え、移動および攻撃に対応した動的なRAIDを実装した。TriEPMにおけるRAIDのスクリーンショットを下図に示す。

(*)RAIDスクリーンショット

 今後はこのツールを用いて推測航法向上手法の提案と実装および評価を行い、地形情報とアバタ移動履歴による推測航法の有効性を検証する。

【参照論文】

金田 裕剛

“P2P型大規模マルチプレイヤオンラインゲームにおけるゲームエンティティの負荷分散機構”

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 2006年度修士論文

金田 裕剛, 高橋 ひとみ, 斉藤 匡人, 間 博人, 徳田 英幸

“P2P型大規模マルチプレイヤオンラインゲームにおける領域負荷分散性の一考察”

電子情報通信学会 情報ネットワーク3月研究会 2007年3月