ユビキタス環境における未来の本棚「ボクダナ」の開発

2006年度 森基金報告書
慶應義塾大学 政策・メディア研究科修士課程 和田裕介

研究目的

本研究ではユビキタス・コンピューティング環境における未来の本棚「ボクダナ」のプロトタイプを作成し、本棚を介した新しいコミュニケーションを提案する。

ここで言う本棚を介した新しいコミュニケーションの一つにはWeb2.0[2]に代表されるウェブ上でのコミュニケーションがある。個人が所有する本や音楽情報をウェブサイト上で共有し、その所有情報を元に趣味の近いユーザーを見つけ、そのユーザーが所有している本や最近聴いた曲などを閲覧できるというサービス[3][4]がいくつか存在する。またAmazon.com[5]では本の紹介支援サービスを以前から行っている。これらのサービスはインターネットが普及する以前にはない、本や音楽もしくは、出会ったことが無いけれども趣味の近いユーザーとの出会いのきっかけを緩やかに[6]提供してくれる。

ボクダナは、これら本や音楽に対する行為が情報化しネットワークで共有されることの有効性をPCとウェブブラウザといった現在使用されているインターフェースではなく、ユビキタス・コンピューティングのテクノロジー及びタンジブル・ユーザーインターフェース[7]などの理論を応用し物理的な本棚に近い形で可能にする。そのことにより幅広い年代の人が日常の生活の中でこれらコミュニケーションを体験できることを目的とする。また、Web2.0で行なわれているコミュニケーション以外にも、物理的な本棚を用いるからこそ生まれるインタラクションの価値を作り出すことも考えている。

ボクダナ概要

ボクダナは本棚、本、ウェブサービスの3つで基本的には構成されている。本には無線タグが付加されていることが前提になっている。本棚には本に付加された無線タグを読み取るためのアンテナ、それら情報を管理するための小型PC、棚の一画に埋め込まれたディスプレイと操作ボタンで構成され、インターネットに接続されている。ウェブサービスはインターネット上のサービスで、複数台の本棚の情報を管理し、ボクダナにおける本棚及びウェブブラウザを介したユーザーからのリクエストに対して応答する。

システム

ボクダナを使ったユーザーにとっての基本的な機能は以下である。

ウェブサービスの実装

従来までのボクダナのプロトタイプでは2台の本棚を直接ネットワークでつなげて通信を行なっていた。つまり各々の本棚にどのような本が入っているかという所有情報は各自の本棚に備わっているPC上に存在していることになる。今回はそうした所有情報を一括に管理し、WebサービスAPIを通じて本棚のPCと通信をする独自のウェブサービスを開発する。これにより複数台の本棚を使った実験が簡便になり、さらにウェブブラウザを通してボクダナのサービスをユーザーが体験できるようになる。また、ウェブサービスを利用するためのクライアントソフトウェアの開発も行なった。

開発にあたり、ウェブサービスで扱う情報をなるべく簡潔にすること、既存のフレームワークやAPI仕様などがあれば極力それを用いるという方針を立てた。ウェブサービスのデータベースは「誰が○○○という本を持っている」という最小限の情報と所有者のコメントや評価を加えた一つのテーブルのみを使用する。またウェブサービスとクライアントの通信では、REST形式(GETメソッドによるXML over HTTP)及びAtomPPプロトコルを用いた。

プロトタイプ / 検証

ボクダナの基本機能を実現するプロトタイプを作成した。本棚の数は2つで無線タグを読み取るアンテナを棚の一画に配置し、その隣の一画にはディスプレイ及び操作パネルを設置。また、ウェブサービスを制作し本棚とインターネットを通じて情報のやり取りを行なうようにした。

プロトタイプ

プロトタイプを実際に使ってみることで簡単な検証を行なった。 まず、印象的な点は、本棚の一画にディスプレイを埋め込んだことによりコンピュータを意識せずにボクダナのサービスを利用することができたことである。 例えば、一方の本棚から片方の本棚をに入っている本の一覧を埋め込まれたディスプレイ経由でみることで、「覗き見る」感覚を得ることができ、また2つの本棚を見比べるようなことを体験することができた。

今後の課題としてより多くのユーザー・本棚による実験を行なうことが挙げられる。 その場合、ユーザーが閲覧したい、覗きたい本棚といった「お気に入り」を登録し閲覧できるようなソーシャル・ネットワーキング・サービスの要素を含む機能を導入することも考慮される。

参考文献及びウェブサイト

[1] Weiser, Mark. "Hot Topics: Ubiquitous Computing." IEEE Computer (1993).
[2] O'Reilly, Tim. "What Is Web 2.0". (2005), http://www.oreillynet.com/pub/a/oreilly/tim/news/2005/09/30/what-is-web-20.html.
[3] ブクログ. http://booklog.jp/.
[4] Last.fm. http://www.last.fm/.
[5] Amazon.com. http://www.amazon.com.
[6] 増井俊之. 本棚通信: 控え目なグループコミュニケーション. インタラクション2005論文集. 情報処理学会. 2005年2月. pp.135-142.
[7] Ullmer, Brygg, and Ishii Hiroshi. "Emerging Frameworks for Tangible User Interfaces." IBM Systems Journal (2001).

Yusuke Wada E-mail: yusuke (at) kamawada.com