センシングデバイスから得られる情報を用いたコミュニティサイトのデザイン

□ 研究計画の修正

 ケータイなどやハンディGPSなどセンシングデバイスを入り口に、住民がまちづくりを行うという構想を研究計画に書いた。だが、フィールド調査を重ねるにあたって、当の住民の多く(主として、まちづくり関係者だが)が装置の操作に慣れていなく、実際の導入には困難を感じ、研究計画を修正することに至った。また、ハンディGPSは日本では多機能なものが多く高価で手に入りにくいことや、ケータイGPSを実際に使っているひとはまだまだ多いとは言えないことなども、その理由である。

研究計画:じぶん史作成ゲーミングの開発ーライフストーリーの聞き取り手法

背景

□ 葛飾柴又でのフィールドワーク

 加藤文俊研究室では、葛飾柴又で2004年からまちづくりの一端に関わってきており、地元の商店主やまちづくり関係者と関係を作ってきた。そこで本研究もひきつづき、柴又を舞台とし 葛飾柴又において一年にわたりフィールドワークを行なった。また今夏はとくに高齢者をターゲットとするので、柴又敬老館に通う高齢者に商店をあて接触し、聞き取り作業を行っている。とくにライフストーリーインタビューに興味をもちすすめていくうちに、柴又敬老館には定期的に通うようになった。柴又敬老館では、毎週水曜日に訪問を行ない、年配者を対象に聞き取りを行なった。現在もひきつづき、継続して調査を行っている。

□ 音声による地域ログの収集

 地域のデータベースを作るにあたって、聞き取り作業の音声録音に注目する。音声によるデータ収集の面白みは、通常のテキストに還元されるような情報だけでなく、声の抑揚や話口調から想起されるその人らしさが音声に含まれるということにある。最終的には、場所と音声コンテンツが連動するようなシステムを作ることを想定している。
 また高齢者の中には何かを記入することを極端に嫌う人がいる。ちょっとしたアンケートの記入さえ厭い、拒絶する人もいる。それに対して、会話を録音することにはあまり抵抗がないように思える。それも本研究が音声コンテンツの作成に注目した所以である。

結果と考察

 じぶん史やライフストーリーの作成において、重要とされるのが、地域史や歴史書に書かれているような一般的な出来事といよりむしろ、できるだけ個人に密着した思い出やその人物を表すエピソードを引き出すことである。しかし高齢者自身は、ライフストーリーという分野やじぶん史などを知らないので、より社会的に認知されている事件のほうが調査者にとって有益だと思い、それについて語ろうとしがちである。つまり、個人の経験やエピソードを集めていくという、調査内容を理解してもらうのに、想像以上の手間が生じてしまう。そこで聞き取り作業をゲームとして行うことを考える。なぜならば、高齢者にとってゲームは、ふだんデイケアサービスなどで多く体験しているので、理解しやすい文脈であるからである。ゲームをしているうちに、じぶん史やライフストーリーに必要なデータ収集ができるよなものが望ましいと考えるに至った。
 地域の情報を聞き取るために、どのようにして調査対象者の自主的な語りを引き出すか、それを支援するツールはいかなるものか、ということが問題になる。そのために本研究では、じぶん史の聞き取りという形で高齢者から場所に付随する情報を聞き取ることを試みたい。

今後の展開

 今後もフィールドワークを続け、柴又に住む他の高齢者にもアクセスする。その際、柴又の写真や音声、記事などを見ながら、どこか葛飾柴又の特定の場所に対する思いやエピソードを吹き込んでもらう。そういった作業を通し、柴又に住む高齢者の自発的な語りのトリガーがなにかを考える。高齢者は一人につき3回ほどワークショップに参加してもらい、3回が終わると、その人のじぶん史がまとめられるようなプログラムを作成する。
 またそうして得られた音声データを、地図上へマッピングしたりカテゴリごとに整理したりし、WEB上で参照できるようにする。こうして音声データの収集を続けながら、試作を繰り返す。

その他の活動

ゲーミングシミュレーション学会 秋季大会にて発表

斎藤卓也・加藤文俊(2006)ケータイを活用したフィールド調査用ツールの開発:まちづくりゲーミングのデザインに向けて 「日本シミュレーション&ゲーミング学会全国大会論文報告集」(2006年秋号), pp. 123-126.
本文

□かつしか産業フェアに出展

葛飾区産業フェアにおいて、Podwalkのポストカード(柴又バージョン)を作成し、配付を行なった。詳細はこちら

□ORF2006

ORF2006において、Podwalkのポストカード(丸の内バージョン)を作成し、配付を行なった。詳細はこちら

□フィールドワーク展III

2007年2月2日(金)〜5日(月)にgallery size(自由が丘)にて展示を開催し、出展した。
フィールドワーク展lll

参考文献など

・川添 登(2004)『今和次郎―その考現学』筑摩書房
・Kato, F. (2006) Seeing the "seeing" of others: Environmental knowing through camera-phones. In Krist庸 Ny池i (ed). Mobile Understanding:The Epistemology of Ubiquitous Communication (pp. 183-195) Vienna: Passagen Verlag.
・ドロレス ハイデン(2002)『場所の力―パブリック・ヒストリーとしての都市景観』学芸出版社 ・桜井 厚、小林 多寿子(2005)『ライフストーリー・インタビュー―質的研究入門』せりか書房
以上。