結果


まず,コザックのコンセンサス配列については,開始コドンの直前(-1bp)にこの配列(5’-GCCACC-3’)をもつmRNAが,より上流(-45bpから-2bp)の領域で観察されている水準に比べ少なくとも5倍程度の水準で観察されているという結果が得られた(図1-I(A)).これと同様にGRSF-1認識配列に対して解析を行ったところ,開始コドンからの位置ごとに調べた場合は該当するmRNAが30から40という水準でほぼ一定の割合で出現していた(図1-I(B)).一方,GRSF-1認識配列について5’端からの位置ごとに調べた場合は,全体的には同様に30から40という水準で観察されているものの,5’端から6-10bp下流という特定の領域ではその1.5倍から2倍程度という高い水準で観察された.この領域での出現水準の平均の,この領域を除いた領域(1-5bp下流および11-45bp)での出現水準の平均に比較した高さの有意性を検証するため,6-10bp下流での水準の平均値μ1とそれ以外の領域での水準の平均値μ2について帰無仮説μ1=μ2,対立仮説μ1>μ2としてWelchの検定を行った.この結果5%有意水準で帰無仮説は棄却され(p= 0.0162),6-10bp下流での出現水準の平均がそれ以外の領域での出現水準に比べ有意に高いと判断された.



図 GRSF-1認識配列のヒト5′UTR上の分布
I(A)は開始コドンから数えた距離ごとのコザックコンセンサス(GCCACC)の分布,I(B)は同じく開始コドンから数えた距離ごとのGRSF-1認識配列の分布,II(A)は5’端から数えた距離ごとのGRSF-1認識配列の分布を示す.横軸は5’UTR上の位置を表し,縦軸は各位置に認識配列をもつmRNAの数(31932サンプル中)を表す.mRNAの数はその位置におけるサンプルサイズで正規化している.図中の折れ線は5区間移動平均を表す.


Ref:
Imanishi, T., Itoh, T., Suzuki, Y., O'Donovan, C., Fukuchi, S., Koyanagi, K.O., Barrero, R.A., Tamura, T., Yamaguchi-Kabata, Y., and Tanino, M. et al. (2004). Integrative annotation of 21,037 human genes validated by full-length cDNA clones. PLoS Biol. 2, e162.
Kozak, M. (1987). At least six nucleotides preceding the AUG initiator codon enhance translation in mammalian cells. J. Mol. Biol. 196, 947-950