2006年度 森泰吉郎記念研究振興基金 報告書

政策・メディア研究科 修士課程2年
メディアデザインプログラム / 奥出研究室
青木 啓剛

研究課題

研究課題名 :
同じ境遇でつながるモバイル音声交換メディアの開発
研究課題 :
本研究では、同じ境遇の「信頼できる他人」とモバイル空間で音声コミュニケーションを行うソーシャルメディアを開発する。母体となる集団で少数派に属する経験をした人同士は、共通の経験・境遇を持っているために、人間性を知らない相手であっても言動が信頼に値する。本研究で提案するメディアは実世界の都市空間に同じ境遇の人が集まるコミュニティを形成し、コミュニティ内に音声メッセージをブロードキャストすることで悩みの相談や互いに利益になる情報の交換を行う。本年度の研究ではプロトタイプの制作を進めると共に、都市空間のコミュニティを形成・探索するための方法としてGPSの位置情報とfolksonomyによる分類手法を組み合わせた場所性に基づくメタデータの検索手法を提案する。

研究報告

概要

申請時に研究課題として提示した研究課題を再検討し、格言を記録するための音声メディア「コミュニタスメディア」として再定義した。我々は普段、生活をする中で友人や家族、恋人など様々な人と多くの会話を交わしている。また、講演・授業・説法など多くの話を聞く機会をもっている。そして、それらの中には自分にとって価値のある言葉「格言」が存在する。格言は時として人生を変えるような影響を我々にもたらすため、格言を記録・共有することが結果として共有の境遇をもつ他者との出会いを促すと考えられる。

コミュニタスメディアのコンセプト

コミュニタスメディアとは、日常生活で遭遇する格言を録音し、生活圏の重なる他者と共有することのできる持ち運び可能な音声メディアである。携帯端末とのインタラクションを通じて、マスメディアや国家など階層化された集団を介さず民衆の声が直接社会に流通するためのサービスを実現する。

コミュニタスメディアは主要な機能として次の2つを実現する。(1)内蔵マイクで日常で出会う格言を録音し、それを繰り返すことで自分オリジナルの格言のコレクションをつくることができる。録りためた格言はメタデータを用いて探し出し再生することが可能である。(2)過去に録音した格言を再生する際、地理的に近いユーザに対して「漏れ聞こえる」仕組みを提供する。漏れ聞こえた格言を聞いたユーザは、気に入ればその音声データを自らのコレクションに追加することができる。この2つの機能の連鎖によって、格言の伝播を促進する。

プロトタイプのデザインと検証

コミュニタスメディアのコンセプトを実現するために、格言のコレクションを管理する録音デバイス「KOMODATAMI」と、格言の伝播を実現するサービス「UBATAMA」をデザインした。ユーザはKOMODATAMIを道具として用いて日常の中の格言を肉声として記録し、格言のコレクションをつくる。一方、UBATAMAは通常ユーザに存在を意識させることなく、ユーザがKOMODATAMIを利用する行為をきっかけとして格言の伝播を受け持つ。

そして、コミュニタスメディアが実現する一連の経験を体験できるプロトタイプを2種類制作し、コンセプトの検証を行った。

修士論文の執筆

本研究の内容を修士論文として執筆した。論文要旨を下記に記す。

題目 :
コミュニタスメディア:肉声による格言記録・共有サービスのデザイン
修士論文要旨 :

コミュニタスメディアとは、日常生活で遭遇する格言を録音し、生活圏の重なる他者と共有することのできる持ち運び可能な肉声メディアである。我々は普段、生活をする中で友人や家族、恋人など様々な人と多くの会話を交わしている。格言とは、そうした会話の中に登場する、自分にとって価値のある言葉である。

コミュニタスメディアは主要な機能として次の2つを実現する。(1)肉声を格言として録音し、自分オリジナルの格言のコレクションをつくることができる。(2)過去に録音した格言を再生する際に、近隣の端末に対して格言を伝播させる。そして、それぞれの機能を実現するために、録音デバイス「KOMODATAMI」と伝播サービス「UBATAMA」を提案する。

ユーザはコミュニタスメディアを利用することで、感銘を受けた格言を音声として蓄積することが可能である。格言は再生されると、その言葉をうけたときの感動を思い出すことができる。そしてユーザのこれらの個人的活動をマクロな視点で見ると、一般市民の肉声が力を持ち社会に浸透することを可能にする。

本論文ではコミュニタスメディアのコンセプトを提案し、そのデザインを検討する。

キーワード :
格言   コミュニタス   肉声共有   タグ付け   音声メディア

今後の研究方針

今後は、社会へ普及させることを念頭においてデザインを改良していくことが課題である。プロトタイプによる検証をさらに行いながらデザインを進めていきたい。