研究課題名:ネットワーク・コミュニティ 報告書

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l         渡邊 靖                            研究代表 政策・メディア研究科委員  アドバイザー

l         サイラス・ロルビン          環境情報学部 訪問講師    プロジェクトマネージャー

l         國領 二郎                        政策・メディア研究科委員  コラボレーター

l         飯盛 義徳                        環境情報学部 専任講師    コラボレーター

 

0. 研究目的

 

「言語教育」「文化理解」を通じて地域文化の再発見や再認識と、文化の発信を地域の活力を取り戻すために活用する手法を模索・提案する。

対象地としては、陶器を主要産業のひとつに数える福岡県東峰村小石原を中心に、中高生の英語カリキュラムの一部として「自分たちの地域文化を英語で世界に発信する」という実験的プログラムを実施し、そこで得るフィードバックにより理論と実践の両側面から地域文化の発信を通じた地域活性化へ向けた提案を目指す。

また、海外とのダイレクトなコミュニケーション経験を通じて、外部の視点を知ることで自己の属する文化の再認識を促し、地域社会や地域文化への愛着やプライドを育む土壌の形成に寄与することを目指す。

 

1. 報告概要

 

2007845日の二日間の日程において、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスのサイラス・ロルビン研究会(ABCJPプロジェクト)とともに東峰村の小中学生を対象とした英語学習のワークショップ(英語ビデオキャンプ)を実施した。

ABCJPプロジェクトは日本の文化的内容を取り入れた日本語学習教材の開発や、発信型英語活動の実践に取り組んでおり、本事業では東峰村の子どもたちが海外の子ども達にメッセージを発信することそして彼らの間の交流を助成することを目的とし、今回のキャンプでは2日間で東峰村の子ども達自身が英語を用いながら小石原焼や東峰村について紹介する様子の撮影を行う。作成された映像は地域や文化を紹介するビデオクリップとしてABCJPプロジェクトのウェブサイトから海外の日本語学習者に向けて発信される。

本事業を通じて、参加してくれた子ども達に発信型の英語活動を実際に経験してもらう機会を提供すると共に「東峰村を世界に」発信する体験を通じて子ども達が今まで以上に様々な視野や可能性を発見できるような場となることに期待し、気づきのきっかけを提供した。

 

▼ビデオキャンプの概要と流れ(募集リーフレットより)

 

2. 事業の内容

 

【英語ビデオキャンプ プログラムの流れ】

1.  今回のキャンプの目的を共有し、日本語教材や学習者の現在の状況を知る。

2.  小石原焼や村を世界に紹介するビデオ作成にあたり、まずは日本語で発信する

メッセージや内容を考える。

3.  海外の日本語学習者との交流機会を設け、上記の日本語によるメッセージ内容

を元にクイズ形式などを用いた交流を図る。

4.  日本語での紹介を練習し、日本語版のビデオ撮影を行う。

5.  日本語をより簡便な英語にし、英語での紹介を練習する

6.  英語でのビデオ撮影を行う

(今回のキャンプ日程では上記までを行う)

7.  映像を編集し、WEBサイトより世界へ発信

8.  発信した情報からフィードバックを得る/交流への発展を図る

 

【キャンプの様子「2007年 東峰村英語キャンプレポート」】

一日目(200784日)

10:00 集合&自己紹介

村役場に関係者が集合し、英語キャンプがスタートする。小学3年生から中学2年までの全員で机を囲むように席に着き、まず自己紹介から始まり、お互いの名前が覚えられるよう大学生スタッフ、教員も含め全員で名札を作成した。参加してくれた子ども達は初めて顔を合わせる大学生や先生を前に開始当初は緊張している様子が伺えた。

 

 

▲スタート直後の様子

 

10:15 キャンプ概要と問題意識の共有

ロルビン先生からは、このキャンプの目的やゴールについての説明が行われた。引き続き、現在海外で実際に利用されている日本語教材を実際に用いながら、その問題点や不具合を子ども達に感じてもらい、文化的な要素を正しく含んだ日本語教材が重要であることや学習者からもそうした教材が求められていることに気づいてもらうための機会を提供した。

その中で、今まで多くの教育現場で使われてきた学習用WEBサイトに「日本人は火鉢と呼ばれる小さなグリルで毎日料理をしています」といった記述がある現実を知った子ども達からは「信じられない」「何とかした方が良いと思う」といった声もあがり、問題意識を共有することができた。

 

  

▲既存の教材を用いた説明を受ける              ▲既存の学習用サイトの紹介

 

10:40 担当するコンテンツを決め、日本語の紹介文を練習

11:40 海外の日本語学習者とのテレビ会議

               自分たちの村の様子や小石原焼きを海外に発信するためのビデオ作成に取りかかるにあたり、実際に自分たちが作ろうとしているコンテンツがどのように海外の学習者に受け入れられるのかを実感してもらうために、海外とのテレビ会議の機会を設けた。今回協力して頂いたのは日本語を学んでいるオーストラリアの大学生とシンガポールの小学校である。

 

 

  

 

会場に設置されたパソコンに相手先の映像が映し出されると、キャンプ参加者は全員が熱心にテレビ会議に集中し、自己紹介から小石原焼きを用いたクイズまで積極的に取り組んだ。

 

■休憩

テレビ会議終了後のお昼休憩の時間は、テレビ会議を経て全体的な緊張もほぐすことができ、笑顔や笑い声が多くなってきた。午後からは、日本語による紹介ビデオの作成、英語の紹介文の練習と続く。

 

 ▲休憩時間にカメラで遊ぶ

 

13:30 日本語での練習と撮影

日本語での練習を行い、会場にセッティングされたカメラの前で撮影に挑む。撮影の最初こそなれないカメラに緊張する様子もあったが、短い練習時間の中で全員が見事に原稿を暗唱し撮影をこなしてきた。

 

 

▲日本語での練習の様子

 

15:00 英語による紹介の練習

日本語の撮影も終わり、いよいよ翌日の英語での紹介ビデオ作成に向けた準備と練習が始まる。英語は大学生スタッフのサポートの下より簡単な言葉を用いながらも既に習得した日本語での紹介文と対応するよう原稿を作成した。日本語文と英語文が対応した大型のカードを用意し練習に励む。発音の練習もスタッフと一緒になって会場中で声を出しながら練習した。

 ■宿題 

第一日目終了時に、各参加者へ大学生スタッフにより各担当部分の原稿が録音されたCDROMと原稿やカードを含む学習セットが配布された。今回のキャンプは宿泊型ではないため、翌日の撮影に備えて各自が自宅にて練習してくることとなり、一日目のプログラムを終了し解散。

 

二日目(20078月5日)

英語キャンプ二日目は前日と同じく役場に集合し、各々が担当するパートのおさらいをした後に撮影に挑む。また、午前の撮影と午後の撮影の間には昨日に引き続き海外とのテレビ会議による交流を一回設けた。

 

 ■英語版ビデオ撮影

いよいよ英語での撮影。英語での撮影はトピック毎にロケ地に出向き撮影を行なった。短い練習期間でしたが全員が説明文を暗唱し、全トピックの撮影を予定通りに進めることができた。二日間のビデオキャンプを通してスタッフ一同、子ども達の集中力とモチベーションに驚かされるとともに、当初予想されていた以上の多くの成果を得ることができた。

 

 

  

  

▲村内の各ロケ地における撮影の様子

 

3. 作成したWebサイトの紹介

 

東峰村でのビデオキャンプ終了後、SFCへ戻ったサイラス・ロルビン研究会のメンバーによりABCJPプロジェクト内に東峰村のサイトが作成された。本サイトでは、英語ビデオキャンプで作成された映像のみでなく東峰村の概要や小石原焼に関する基礎的な情報も公開されており、海外の利用者に向けて情報が発信されている。

 

ABCJP内の東峰村のサイト(一部抜粋)

 

4. 米国での活動報告

 

●訪米時の主な訪問先

10/17     MIT-Japan Program Japanese Lunch Table

10/17     Harvard Graduate School of Education Doctoral Seminar  

10/18     昭和女子大ボストンキャンパス

10/20     Boston Vegetarian Food Festival

 

●訪米時の活動

東峰村でのビデオキャンプ後、サイラス・ロルビン研究会のメンバーが1015日から渡米し、協力関係者よりABCJPプロジェクトおよび東峰村コンテンツの充実に向けたフィードバックを得るべく打ち合わせを行った。特にハーバード大学大学院においては、教育学研究科ギルバック助教による大学院博士課程リサーチ導入プログラムの履修者へABCJPプロジェクトの紹介を行い、その中では東峰村における取り組みをトピックとして取り上げ、ハーバード大学の学生を交えて学習者のモチベーションに関する理論的な文献をもとに、具体的な教材として東峰村コンテンツをより効果的に見せるための方策についての議論を行った。なお、訪米前にハーバード大とSFC間の遠隔会議で事前の情報共有を行っていたこともあり、当日は活発な議論が行うことができた。

 

     SFCとハーバードのテレビ会議の様子

 

議論の中ではビデオキャンプで作成したビデオクリップに対し「出演者の小学生がメッセージを伝える構成は同世代の学習者にとっても学習意欲を高めることができるのではないか。」「寿司や空手、着物といった既存の典型的日本イメージだけでなく、地域に根ざした具体的な地域文化や風土の情報発信は学習者の意欲を刺激するのに効果的ではないか」などの意見があり、今後のコンテンツ充実に向けて多くのアドバイスを頂いた。

 

▲ハーバード大学での活動の様子(20071017日)

 

また、1020日に開催された「Boston Vegetarian Food Festival」においては東峰村の産品を紹介するブースを設置、柚胡椒や生姜湯などを出品した。ブースにおいて実際に柚胡椒などを体験してもらうべく、柚胡椒を加えた「湯豆腐」「うどん」「味噌汁」などを来客者への試食として提供したところ、特に柚胡椒入りみそ汁は好評であった。

なお、当日会場に持ち込んだ柚胡椒と生姜湯は完売となりVegetarian Food Festival来訪者層からは高い関心を集めることができたといえる。

 

▼当日の会場の様子

  

 

▼ブースに用意したポスター

 

 

▼商品と共に配布した英文のレシピ

 

5. 今後の展望

本事業では、このような発信型の英語をもちいた教育プログラムを通じて、子ども達が「自分たちの文化や地域を改めて知り、地域のメンバーであると気づく」ことや「世界とのつながりや、グローバルな社会に生きる一人の市民としての自覚に目覚める」に繋がることに期待している。また、今年度の取り組みを踏まえ、現在のプログラムをベースとして来年度以降は村の教育委員会により村内小中学校における継続的な発信型英語活動が実施される見込みである。