2007年度 森泰吉郎記念研究振興基金 報告書

社会的ユビキタスコンピューティングのデザイン・アーキテクチャ

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 後期博士課程3年(9月生)
メディアデザインプログラム 奥出研究室
松本隆史 #80549446

研究課題

 本研究では、我々の日常的な経験を拡大するためのプロダクトのデザイン・アーキテクチャとして、 都市での行動や身体的インタラクションをセンシングし、社会的機能を持ったWebサービスに接続する、ユビキタスコンピューティングのデザイン理論を研究する。 本研究の提案するデザイン・アーキテクチャでは、身体的なインタラクションの機能とセンシング機能を持つユビキタスコンピューティングを、Webサービスと連携するようにデザインすることによって、我々が自然に日常的経験をすると情報空間と連動してコンピュータオーグメンテイーションを受けられるようにすることを目指す。

1, 活動概要

1-1, Pileus: The Internet Umbrela

Pileus
 本研究では、社会的ユビキタスコンピューティングのデバイスとして、インターネット傘 Pileus(パイレウス)のデザインを行った。Pileusは、ウェブサービスを利用して雨の日の経験を拡大するための、新しい情報メディアである。このデバイスは、身体的インタラクションのセンサーと傘の天井を利用した大型ディスプレイのアクチュエータを持ち、傘の親密性(familiarity)を街中での身体的な情報とのインタラクションに利用する。フリッカー(Flickr)の写真共有とグーグル・アースの3Dマップのウェブサービスに接続されており、街の散策をしながら写真共有と地図ナビゲーションの社会的コミュニケーションを利用することを可能にするメディアである。
 今年度は、実際に街の中での使用に耐えられる小型のプロトタイプを作成し、街に持ち出すことで機能とインタラクションの検証をおこなった。本作品は、海外の美術館や科学技術芸術祭など様々な分野のイベントかから招待を受け、各国のメディアを通じて広く紹介された。また、このインタラクションデザインを、身体的ウェブインタラクションとして学術論文誌等でも発表し、博士論文としてまとめた。

1-2, メンバー

松本隆史(政策・メディア研究科 後期博士課程3年 9月生)
橋本 翔(政策・メディア研究科 修士課程1年)

2, 研究成果

2-1, Laval Virtual 2007 "Prix de l'innovation"

欧州最大のバーチャルリアリティ学会イベントであるLaval Virtual 2007において、PileusがPrix de l'innovation(イノベーション賞)を受賞した。Google Earthの3DマップとFlikcrの写真コミュニケーションを、傘という日用品のインタラクションを利用して街の中に持ち出すMixed Realityが評価された。また、学会の計らいで滞在を延長し、フランス国営テレビ France 2に出演しPileusのデモを行った。

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授賞式の模様 (Laval Virtual 2007 Official Flickrより)

2-2 San Francisco Arts Commission Gallery "Breakthrough"

サンフランシスコ市営美術館 San Francisco Arts Commission Galleryの展覧会"Breakthrough: An Amateur Photography Revolution"において、2ヶ月間長期展示された。この展覧会は、デジタル時代の新しい写真撮影・保存・共有を特集したものであり、Pileusはインタラクティブ作品として招待され展示された。

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SFAC Gallery Breakthrough

2-3 米NBCでのインタビュー及びデモ

Pileusが、米NBC系列局の目にとまり、サンノゼのKNTVのスタジオでデモの撮影を行った。最新のガジェットとしてシリコンバレー地域の早朝のニュース内で紹介され、また技術情報番組TechNow内でも紹介された。Tech NowはiTunes Podcastでも配信された。

2-4 Amsterdam Fashion Week: Modefabriek "SuperStore3"

アムステルダムファッションウィーク Modefabriek内の、最新のファッションやデザインを紹介するコーナー"SuperStore3"に招待され展示を行った。

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Modefabriek SuperStore3

2-5 Singapore Mobility Conference 2007, Mobile HCI 2007

シンガポールで行われたモバイル技術の学会 Mobility Conference 2007において、Pileusとそのインタラクションデザインについての論文発表を行った。 また、同時開催のMobile HCI 2007で行ったPileusのデモは2nd Prizeを受賞した。

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Mobility Conference 2007 / Mobile HCI 2007

2-6 Enter3 "Web 2.0 Generation"

チェコサイエンスアカデミー主催の、国際科学技術芸術祭 Enter3に招待されPileusのデモを行った。このイベントは、プラハ市内数カ所の会場で、科学・技術・芸術を横断する領域の学会や展示を行うもので、Pileusは新しいWeb技術とアートを融合する"Web 2.0 Generation"のコーナーに展示された。Pileusのデモンストレーションは、チェコ国営テレビの科学番組PORTでも特集された他、複数メディアの取材をうけた。

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Enter3

2-7 Wiley Journal, Computer Animation and Virtual Worlds

シンガポールでの学会発表が評価され、Wiley社の論文誌 Computer Animation and Virtual Worldsに推薦された。内容の追加・変更と、査読を経て採択された。この論文誌は、バーチャルワールドの広範囲な研究を扱う学術論文誌である。

2-8 その他のパブリシティ

Pileusは、上記以外にも、Web・新聞・テレビ・ラジオ・雑誌など様々な媒体を通じて紹介され、プロジェクト開始以降、通算20カ国以上で紹介された。今年度の代表的なパブリシティを下に示す。

3, 博士論文の執筆

本研究をEmbodied Web Interaction(身体的ウェブインタラクション)として博士論文にまとめ学位を申請した。

4, 今後の予定

2008年夏に、スペインで行われる世界最大級のエレクトロニックエンターテイメントイベント、Campus Partyに招待されデモンストレーションを行う予定である (Campus Party - Spain)。 また、本研究のスピンオフであるPileus LLCを通じてビジネスインキュベーションも予定している。今後の活動は、Pileusのページをご覧下さい。

www.pileus.net


以上。