2007年度森基金 研究成果報告

合成クモ糸のデザインシステムと大量生産手法の開発

 

政策・メディア研究科博士課程1

先端生命科学研究所

関山和秀

 

 

概要

 

本プロジェクトは「合成クモ糸の実用化」に向けて2005年に発足し研究

を進め,20071月に最も強靭なクモ糸とされているアメリカジョロウグ

(Nephila clavipes)牽引糸のタンパク質であるMaSp1 にみられる繰り

返し配列を模した合成クモ糸タンパク質rcMaSp1および8Mの生成及び繊

維化に成功した.各合成クモ糸タンパク質は,本研究にて開発されたpML

vectorを用いた遺伝子断片連結法により人工遺伝子を構築し,大腸菌DE3

株を用いたpET発現系にてタンパク質を生産し,本研究にて開発された精

製法にてタンパク質を精製後,独自に設計した紡糸装置を用いて紡糸され

た.現在報告されている合成クモ糸タンパク質で最も小さくシンプルなタ

ンパク質 「8M」の繊維化に成功したことは,バクテリアを用いた生産シ

ステムによる合成クモ糸大量生産の実現に向け重要な意味を持つ.すなわ

ち,バクテリアのタンパク質生産効率は目的タンパク質の大きさにより大

きく影響され,分子量の小さいタンパク質のほうが効率よく生産すること

が知られているためである.クモ糸タンパク質は,種類によるが約百kDa

から二百数十kDaと,バクテリアでは生産効率が大きく低下する分子量で

あるが,8Mタンパク質は約20kDa と小さく,生産効率が大きく向上する.

大腸菌においては,約45kDaであるrcMaSp1と比べても数倍の生産効率を示

すことが本研究により示された.

 

しかしながら、現行では細胞毒性をもつクモ糸タンパク質を量産する

ための問題が多数存在する.現在行なわれているバクテリアによるタ

ンパク質生産における問題点を以下に示す.

 

a. プラスミドに目的遺伝子を導入する場合,遺伝子を長期間安定に保

持することが難しい.

b. 従って,培養中に高価な抗生物質による選択を常に行なう必要がある.

c. 発現を制御するための誘導試薬(IPTGなど)を用いる必要がある.

d. 発現したタンパク質は菌体内に蓄積されるため,超音波などにより

菌体破砕する必要があり,精製が難しい.

 

上記の問題を解決するため,本研究では枯草菌を用いたタンパク質分泌

生産法を開発した.本プロジェクトにて既に構築された人工クモ糸タン

パク質8Mを培養液中に分泌生産することに成功した.

 

*本研究成果は現在特許出願準備中であり,4月中の出願を予定している.

そのため,本報告では技術の詳細を避けたい.