創発支援システムの構築 -料理レシピとブログの事例-

政策・メディア研究科 後期博士課程 妹尾紗恵

1. 構造化と創発

本研究のメタレベルでの目的は、インターネットから得られる膨大で整備されていないデータから、有意義な情報を抽 出するための手法やツールを開発することである。熊坂研究室は、解釈者によって柔軟に形を変化させる新しい自明性 の表現手法としての「柔らかい構造化」手法を確立してきた。本研究ではそれを発展させて、自明な構造から意外性を発見することにより、分析者に「創発」を喚起するためのツール開発を行った。
自明な構造から意外な関係を導くために重要となるのが、瑣末な、個々の「つながり」である。ある1つの事象があったとき、それを全体構造 の中の一部として観察するか、あるいはその事象を中心とした個別のつながり を観察するかという、視点の相違によってその事象の解釈は異なる。この解釈の差異を意外性と呼ぶ。この意外性の発見手法は、今まで、人間の当て勘に頼ってきたものを計量的に導き出すことにより、解釈者に「創発」をもたらすことを可能とする。

2. 料理レシピによる構造化と創発の実践

これまで継続的に行ってきた、料理レシピサイト「COOKPAD」の分析の結果から、料理を「楽しい」と感じている主婦達は、料理の「アレンジ」を楽しんでいることが明らかになった。一方で、料理における「アレンジ」を行うためには、調理者の料理に関する経験や知識が不可欠となり、料理を苦手とすればするほど、「アレンジ」による料理の楽しみを味わうことができないというジレンマに直面する。そのような問題を解決するために、料理の知識が浅い調理者でも、「アレンジ」によって料理を楽しむことを可能とする、「アレンジ(創発)」支援のためのツール開発を行う。「構造化」と「創発」を料理レシピで実践することにより、料理の「アレンジ」を支援し、企業のメニュー開発や、主婦の手料理への動機付けに役立つことを目的とした、料理レシピ開発支援システムの構築を行った。

1 料理の構造化


料理というものは、一見、無秩序に思われても、その背後に文化という法則性が隠されている。その法則性、すなわち料理構造を抜き出すことが第一段階である。料理構造は「食材と調理法の組み合わせ」および「食材と食材の組み合わせ」の2 要素から定義される。COOKPAD にある約15 万件の料理レシピを、レシピタイトルや説明文のテキストマイニングによって、約 300 種類のメニュー(例えば、カレーライス、肉じゃがなど)に分類し、各メニューが、どのような調理法と食材から構成されているかを明らかにすることにより、メニューごとの自明な料理構造を明らかにした。


2 レシピ開発支援(料理の創発)


メニューごとの自明な構造を明らかにした上で、その自明な構造に、食材を追加して「アレンジ」することを支援する「レシピ創発支援ツール」の開発を行った。料理にとって最も重要なのは、「おいしさ」である。好き勝手な食材を加えて料理のアレンジを行うことは簡単だが、その料理をおいしく仕上げることは難しい。COOKPADにはカレーライスひとつをとっても、数百パターンの料理レシピが登録されている。その数百パターン全てが、カレーライスの「アレンジ」の結果である。今回、作成したい料理創発支援ツールは、ある料理(例えばカレーライス)で一般的に利用されてはいないが、料理内部の個々の食材と親和性の高い食材(例えばヨー グルト)を提案する。つまり、本ツールが「創発食材」して提案する食材とは、あるメニューに普通は入っていないが、その中で使用されている食材と親和性が高いために、料理に追加したときに、料理をおいしくしてくれる確率が高い食材である。アレンジ(創発)という、料理の得意な人の特権であったものを、意外だがおいしい可能性の高い食材を計量的に導いて推進することにより、料理が苦手な人でも料理の楽しさを味わうことができることを可能とした。

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