2007年度森基金報告書

政策・メディア研究科 修士課程2年 小柳玲乃

学籍番号:80624583

lenonk@sfc.keio.ac.jp


■研究テーマ

加速度センサを用いた飛翔する球の物理量推定

Estimation of physical parameters on flight ball using built-in accelerometer

■研究の目的

 速度センサを内蔵したボールの加速度センサの波形から球の物理量を推定する。 本研究で推定する物理量は速度、角速度、回転軸の方向である

■研究の背景・概要

バイオメカニクスに限らず様々な運動を計測し,そのデータの解析を行っていく学問分野に関して、運動を計測する手法は様々である.しかし,行われる実験の種類により,どのような手法を選択するかについてはそれぞれの計測手法により長所や短所が存在するためその選択には細心の注意を要する.ここで今まで特に運動時,身体の各セグメントの挙動を計測する際非常によく用いられる手法である映像機を用いた画像解析法,そして加速度センサを用いた運動計測手法について,それぞれの特徴及び差異を明確にする[深代ら 00],[内山ら 01].

1:画像による解析【Cinematography】

この測定手法は精度が高いということが特徴として挙げられる.さらに,高速度ビデオカメラを用いれば,高速での動作,例えば野球における投動作や打動作,テニスやゴルフにおける打動作を計測することも可能である.さらに,解析により導かれる物理的要素の種類も多く,様々なパラメータを測定することが可能であり,さらに複数個のカメラを使用することで3次元空間上に目的の部位の位置座標を特定することが可能である[Abdel-Aziz et al 71].

2:加速度センサを用いた解析【Accelerometry】

この測定手法の長所は計測装置そのものが小型であるため,身体の部位に装着しても被験者にあまり負担がかからず,その実験に関しても容易であるといえる.また,身体の部位以外に装着することが可能なため幅広い計測が可能となる.また,データは数値として出力されるため,解析の容易性,即時性を求められる際有用な手法である.

本研究の目的・新規性

以上のように各測定手法にはそれぞれ長所および短所が存在する.現行ではそのような物理運動の計測手法は映像分析手法が主である.しかし本研究では選手への還元方策を考慮した際,より簡便に,そしてより迅速にそれを行うことが可能であり,さらにより簡便に実験を遂行することが可能である加速度センサによる計測を行っていく.本研究では加速度センサにより計測する部位としてボール内部を選択し,ボールが空中に投げ出された瞬間より捕球されるまでの加速度センサのデータを採取,その波形の振る舞いより投動作スキルの指標となりうる物理要素の値を特定していく. 本研究の目的は,ピエゾ抵抗型3軸加速度センサを内蔵させたボールの挙動を計測し,加速度の示す数値と球の挙動との整合性の計測および実験及び解析を行い,この計測手法による投動作スキル検出を可能とすることである. ボールの挙動の計測,すなわちボールに伝わる力の計測は球技運動のスキル検出において非常に重要である.しかし,ボールに伝達した力,そしてボールの物理要素は非常に計測及び評価が困難であり,その力の中でも計測可能である要素に注目せざるを得ないのが現状である.現在スポーツの現場において,ボールの物理要素が計測可能な用具はスピードガンしか存在しない.球速以外のボールにかかる物理要素を計測することが可能となれば,球技における新たな基準での評価が可能となるであろう.加速度センサによる計測手法により球の速度以外のボールの挙動を決定する計測アルゴリズムを確立することが本研究の目的である.さらに,ボールの内部にセンサを入れることにより投動作スキルを検証した研究は類を見ない.よってセンサを用いた研究アプローチそのものが新規性と成り得る.

■実験・分析

○実験

実験内容:投動作のリリースポイント付近の映像をハイスピードカメラで撮影し、同時にボールに内蔵させた加速度センサの波形を採取. 実験日時:6月22日,6月27日 実験機材:ハイスピードカメラ、加速度センサ 実験手順 1:トリガーの設置(ネットにくくりつけて使用) 2:投げる人の立ち位置を決定(位置を決めた後でキャリビュレーションポール(大)を敷く. これはより正確にリリースポイントの位置を調べる際に必要となる.トリガーからの距離は18.44m) 3:ハイスピードカメラの準備 4:その箇所を撮影するためのカメラ位置の決定 5:リリースポイント付近をキャリビュレーション(三脚の雲台を使用し、 固定座標系(キャリビュレーションポール(小)を使用)が地面と水平となるように接置)

exp

図1:実験

○映像解析

・速度

ボールの中心座標を求め,その単位時間当たりのボールの中心座標の変位により並進移動を求める.

・回転軸の方向

ボールの表面に描写したマーカーの方向ベクトルより,外積し,軸の方向の同定を行う.

・角速度

同定した回転軸周りの単位時間当たりの角速度を求める.

○加速度計

sensor

図2:センサの波形

・速度

vel

図3:速度

飛翔期のボールの加速度計のフレーム数を数え上げ,その間にボールが移動した距離を測定することで速度を算出.映像解析による計測値と加速度による推定値の誤差は約1.8(m/s)

・角速度

angvel

図4:角速度

上記の図は飛翔期の加速度の波形(平滑化はフーリエ平滑化)であり,青い点は波形の山の頂点を示している.この間隔を計測し,角速度を算出.映像解析による測定値と加速度による推定値の誤差は約0.57(rad/s)

・回転軸の方向

重力加速度成分:グローバル及びローカル座標系からボールに対し常に一定の方向に作用している.センサ座標系から見ると常にその方向が変化している.空気力の加速度成分:ボールの並進方向に依存してその方向が決定される.センサ座標系から見ると常にその方向が変化している.遠心加速度成分:ボールの回転軸に垂直に作用する.センサ座標系から見ると方向は変化していない.角加速度成分:ボールの回転軸に平行に作用する.センサ座標系から見ると方向は変化しない.この特性を利用し、軸を算出した(図5).その軸を映像解析の結果から算出した値と比較したところ、約0.41(rad)程の差が観察された.

axisshift

図5:算出した回転軸

example of axis

図6:映像解析との比較、赤(Axis1)が加速度計から推定した軸、青(Axis2)が映像解析より算出した軸